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11月29日(金)

 忘年会の季節がやってきました。

 僕のような小さな出版社の営業でも下手すると一週間ずっと忘年会の予定が入っていたりして、12月27日の仕事納めまで働いているんだか飲んでいるんだかわからない状態が続きます。もっと顔の広い営業マンの手帳には、同じ日に二つも三つも忘年会のスケジュールが記入されていたりして、ついつい身体が心配になってしまいますが、うれしそうにそれを見せるんですから、やっぱりお酒が好きなんでしょうね。お酒が好きな人はきっと12月は幸せなんでしょう。

 忘年会に行って不思議に思うのは、大きな書店さんの忘年会も小さな書店さんの忘年会もやって来ているのはたいてい大きな出版社の人ばかりということです。大きいものは大きいものと小さいものは小さいものと一致団結するかと思いきやそうではないんですね。まあ小さな出版社には営業マンがいないこともあるし、それに小さな出版社の営業マンも大きな書店さん中心に営業してますからね。やっぱりなんていうか、みんな大きいほうに吸い寄せられるわけです。

 小さな頃、毎日穴の空いた50円玉を握りしめて通った場所に駄菓子屋さんがあります。いかにも身体に悪そうな真っ赤かのすももを買うか、歯にねっとり絡み付くきな粉棒を買うか、頭のなかで必死に金額を計算しながら、50円玉が手のひらと同じくらい暖かくなるまで狭いお店の中をうろうろしたもんです。結局当りくじ付きのフーセンガムと水に混ぜるとジュースになる粉と30円の棒アイスを買って、大きな木下の日陰で食べていたわけですが、あれは本当に楽しいひとときでした。なんてたって駄菓子屋さんにあるお菓子は、母親に連れて行かれるスーパーには置いてない、魅惑的な商品ばかりでしたからね。

 大人になって、子どもにせがまれショッピングモールに入っている駄菓子屋さんもどきのお店に行ってみたんですが、当時と同じ商品が並んでいてなんだかうれしくなっちゃいました。しかももうお金のことも気にせず買えますからね。子どもが持っていた小さな買い物かごに好きなだけ詰め込んじゃいましたよ。そうして家に帰り、ひとつひとつ口に放り込みながら、いったいこのお菓子はどこで作り続けられているのだろうと製造元を確認してみたら、北九州だったり、高崎だったり、松山だったり、そういう地方でオリジナルのお菓子を作っているメーカーばかりでした。

 小さな本屋さんに小さな出版社の本ばかりが並んでいたら、どんな感じになるんでしょうかね。駄菓子屋さんみたいに魅惑的な場所にはなりませんかね。
 でもまあもしなったとしてそこを"駄本屋"さんと呼んだら、おそらくお店の人も出版社の人も怒るでしょうが。

11月28日(木)

『日本推理小説論争史』郷原宏(双葉社)がおもしろい。
 そのタイトルどおり推理小説界に起こった様々な論争がまとめられた本なのだけれど、論争をひもとくことによってそれぞれの作家や評論家の小説観・ミステリー観が伝わってきて、小説にはこんなにも様々な読み方があるのか、そしてそんな強い意志を持って書かれるのかとついつい胸が熱くなる。

 リアルタイムで論争することができるネットが出現したとき、こういった論争はもう雑誌ではその時間経過がまだるっこしくて耐えられないものになるのではと思ったけれど、実はそうではないことをこの『日本推理小説論争史』が教えてくれる。

 例えば月刊誌ならその1ヶ月間に、それぞれの論者が自身の説を見つめなおし、なおかつ相手を論破するための論理を冷静に練ることができる。だからこそ論争に深みが増し、炎上することなく、このような小説論になりえたのだ。

 平松洋子著『本の花』と『おすすめ文庫王国2014』の見本を持って、取次店さんを廻る。これさえ終われば、年内の新刊は終わり。

11月27日(水)

  • ZOOEY
  • 『ZOOEY』
    佐野元春 & THE COYOTE BAND
    Daisy Music
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    HMV&BOOKS

 日の出ラン8キロ後、息子とサッカー。最近息子は学校の休み時間や放課後にサッカーをして遊んでいるらしい。もう私の役割は終わったかもしれない。

 9時に出社すると、シュークリームかと思って頬張ったら、中身がカスタードクリームでなくカラシだったという展開の仕事。徒労感この上なし。

 営業に出かけ気持ちを入れ替えようと思ったが、本日は『本の花』と『おすすめ文庫王国2014』の事前注文〆作業があるためそうもいかず、昼飯に「菊水」のひじきめし(小豚汁付き)を食し、気分転換。

 満腹になってジャニス2号店を覗くと、誰かに貸したまま紛失してしまっていた佐野元春の「THE BARN」を特価コーナにて発見。購入。

 佐野元春といえば、その歌詞が山本文緒の15年ぶり長編小説『なぎさ』(KADOKAWA)にやたら引用されているのだれけど、実はこの居場所探し小説にピッタリな曲があるのだ。それは今年発表された大傑作アルバム「ZOOEY」に収録されている「虹をつかむ人」で、こちらの歌詞は引用されていないため、ぜひとも『なぎさ』に感動した人には、聴いて欲しい。

 新刊2点同時進行というのはいつ以来だろうか。いや今月は『捨てる女』に、営業を代行している『飲んだビールが5万本!』と合わせて4本の〆作業があり、本の雑誌社始まって以来の怒濤の新刊ラッシュなのだった。疲れるわけだ。

 夜遅くまで注文短冊と打ち込んだデータの付け合わせ作業が続く。

11月26日(火)

 5時30分起床、日の出ラン8キロ後、息子とサッカーの練習。

 9時20分出社。明日『おすすめ文庫王国』と平松洋子著『本の花』の事前注文締切のため、まだ注文をいただいていない書店さんに連絡。一段落ついてから1月の新刊、池澤春菜著『乙女の読書道』のチラシ作成。昼食はセブンイレブンのフレッシュサラダとシャケおにぎり。

 営業に出かけがてら三省堂書店神保町本店さんを覗くと、なんと内澤旬子著『捨てる女』が、ベストセラーランキングの文芸書部門7位に! 9位には「本の雑誌」12月号も入っており、テンションが上がる。

 銀座の教文館さんを訪問し、12月1日の椎名誠突撃サイン会の打ち合わせ。その後、営業。

 17時半帰社。寒くなると食べたくなる「チョコモナカジャンボ」を食す。歯につくような安っぽいモナカの皮が好きだったのだけれど、いつの間にかぱりぱりになっている。

 19時飯田橋の「カナルカフェ」へ。町の書店の集合体「NET21」の忘年会。主賓挨拶、来賓挨拶、乾杯の挨拶のすべてが出版業界の待ったなしの危機を語られ、酔う前から酔いが覚める。立食パーティーでの正しい過ごし方が相変わらずわからず、ついついぽつんとひとり立っていると伊野尾書店の伊野尾さんが「ほらほら淋しそうにしていないで」といろんな方を紹介してくださる。ありがたいかぎり。

 22時帰宅。『眠りの庭』千早茜(KADOKAWA)を読みながら就寝。

11月25日(月)

  • 飲んだビールが5万本! (とつげき! シーナワールド! ! 1)
  • 『飲んだビールが5万本! (とつげき! シーナワールド! ! 1)』
    椎名 誠
    本の雑誌社
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    HMV&BOOKS
    honto

 今週も、週末が夢だったらいいのにと思いながら月曜日を迎える。11月の週末をもう一度すべてやり直したい。

 9時出社。コーヒーを淹れる間もなく、椎名誠コノヤロ編集『飲んだビールが5万本!』の見本を持って、取次店さんを廻る。

 5社廻り廻り終えると12時半。昼飯は見本出し後のお楽しみ、神楽坂「黒兵衛」のみそラーメン(トッピングワンタン)。旨し。しかもいつだか小麦の高騰で値上げされていた値段が、元に戻っておりうれし。

 精神的に疲労困憊のため会社に戻る。もろもろ吐き出してみるがイマイチ伝わらず。残念。

 夕方、松戸の良文堂書店さんから『捨てる女』の追加注文が入ったので、直納しつつ直帰。雨に降られる前に帰宅。ラッキー。

11月12日(火)

 千駄木の往来堂書店さんに『西荻窪の古本屋さん』を直納。
 ちょうど「町から本屋さんが消えてゆく?!」特集の「本の雑誌」が届いたところで、店長のOさんとこれからの本屋さんについてしばし語り合う。

 まあしかし。私は出版社に勤めているのだから、とにかく売れる本を作ることに励もう。町から本屋さんを消さないために私にできることはそれしかない。

11月11日(月)

「ナビスコの悲劇」と「ミヤギの悲劇」を立て続けに経験し、粉々に砕け散った心をどうにか寄せ集め出社すると、なぜかマリノスサポの出版営業マン芸艸堂Nさんが会社にやってくる。「優勝が決まるフロンターレ戦のチケット探しているんですよ、こちらにありませんか?」ってあるわけないだろ!!

 塩を撒いて営業に出かけるが、昨日はBSで試合を生中継をしていたため書店員さんでも見た人が多く、「昨日は残念だったねえ」と話しかけてくる。うう、できれば触れないで頂きたいんです。そこを触られると力が抜けて立っていられなくなってしまうのです。

 それにしても今Jリーグは、存続の危機とかで突然2ステージ制に戻し、謎のポストシーズンとやらで地上波中継してもらい一挙逆転の皮算用をしているらしいが、もし本当に地上波中継が増えた場合、もっとみんながJリーグを見るわけで、そうなると先週や今週のような敗北(引き分け)を期した私のような人間が傷つく機会が増えるのではなかろうか。

 ナイーブな私は今朝、新聞がお休みというだけで胸を撫で下ろし、なるべくスポーツ新聞やネットのニュースにも近づかず、Twitterでレッズの文字を見るのにも怯えていたというのに、あんなに残念で虚しい瞬間を不特定多数の人に目撃され、「あれ、かわいそうでしたね」なんて声をかけられた日には、マリノスサポの営業マン以上に私の心を苦しめることになるのではなかろうか。
 やはり2ステージ制もポストシーズンも反対だ。テレビ中継はなるべく遠方の人には見られない地元のローカル局に任せよう。

 傷だらけになって会社に戻ると、事務の浜田が「あの、駅弁売りが持っている画板みたいな箱みたいなあれ、どこで売ってますかね?」と訊いてくる。そんなもの知るかと無視していると、「神保町ブックフェスティバルで私、気づいたんですよ。本を売るのは楽しいって。だからこれから毎日、ひとり神保町ブックフェスティバルをしようと思って。あの画板みたいなやつに本を詰めてすずらん通りを売り歩きます」。見かけた人、優しくしてあげてください。

「本の雑誌」2013年12月号搬入。

11月8日(金)

 今日で神保町ブックフェスティバル三日間を挟んだ12連勤が終わる。

 最大の難所はナビスコカップ決勝での敗北であったが、その傷はいまだ癒えず。録画しておいた試合も浦和のコレオグラフィーと会場ではあまりの高音で途中で声がでなくなってしまった松崎しげるの「君が代」を視聴したのみで削除。

 午前中、会議。
 昼は「本の雑誌」11月号で「山岳ライターの悲劇」を寄稿していただいた森山伸也さんと「ランチョン」でランチセット(ハンバーグと白身フライ)を食しながら、打ち合わせ。

 午後、営業に出かけようとすると、事務の浜田から人手不足のためハリハリを手伝うよう命じられる。ハリハリとは、来週出来上がってくる「本の雑誌」12月号の定期購読者郵送用袋にラベルを貼る仕事だ。

 無心になって貼っているうちにそこに見知った名前を発見し、突然すべてのラベルの向こうに読者という人々がいることを実感す。

 果たしてこの私がハリハリしているラベルの読者は、来週自宅のポストに「本の雑誌」が届いていたときどんな気分になるんだろうか。のり付けされた袋をあけ、届いたばかりの「本の雑誌」を開いたときどう思うのだろうか。

 できればドキドキワクワクしながらページを開き、その日あった嫌なことやつまらなかったことを忘れて読み進み、ページを閉じたときには、たくさんの本が読みたくなっていればいいのだけれど。そういうものを私たちは果たして作れているのだろうか。

 夜、芸術新聞社の相澤さんに誘われ、今宵もフットサルに参加。楽しかった。

11月7日(木)

  • 国マニア 世界の珍国、奇妙な地域へ! (ちくま文庫)
  • 『国マニア 世界の珍国、奇妙な地域へ! (ちくま文庫)』
    吉田 一郎
    筑摩書房
    748円(税込)
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  • 消滅した国々―第二次世界大戦以降崩壊した183ヵ国
  • 『消滅した国々―第二次世界大戦以降崩壊した183ヵ国』
    吉田 一郎
    社会評論社
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    honto

 朝、FM横浜の「ワンダフル・アスリート」というコーナーに電話生出演。著者として扱われるのは初めてのことなので、貴重な体験。敏腕営業マンとして扱われたことは、いまだ一度もないけれど。

 終了後、こんどは埼玉のラジオ局NACK5へ。高野秀行さんが、ソマリランドに興味をもつきっかけとなった『国マニア』の著者吉田一郎さんと「おとこラジオ」の収録しているのであった。

 私が大宮に着いたときにちょうど収録が終わり、そのままスタッフの方々と高野秀行さんの講談社ノンフィクション賞受賞祝いの会へ。

 埼玉が誇る居酒屋「力(りき)」初体験の高野さんは「こういう飲み屋が近所にあったら幸せだよね」とモツ煮とビールに口にする。思わず「浦和に引っ越せばいいんですよ」というと、大宮独立を掲げ市議会議員にも当選している吉田さんはぜひとも大宮へと、新住民の奪い合い。

 それにしても大野勢太郎さん&ケイザブローの話を聞きながら酒が飲めるのはNACK5リスナーとしてなんたる幸せなことか。それもこれもまもなく浦和住民になる(はずの)高野さんのおかげ。

11月6日(水)

 一冊でも本が売れるよういろいろと動いるのだけれど、動けば動くほど面倒も増えていく。

 ついコーヒーを飲みながら、「何もしなければ、何も起こらない」と言った気分に陥る。

 しかしおそらく「何もしない」ことこそが最大のトラブルを招くはずだ。

 そう言い聞かせて、ドトールの椅子から腰を上げる午後16時半。

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