4月22日(水)
春になっても新入社員が入らない。
春といえば新入社員であり、お正月といえばおせち料理であり、クリスマスといえばブッシュ・ド・ノエルなのだが、本の雑誌社はどうやらキッチンの都合で新入社員は採らないらしい。まもなく「本の雑誌」は創刊40周年を迎えるが、ミリオンセラーと新入社員は一度だって経験したことがない。
嘆いていても仕方ないので、自分が新入社員になることにした。
この会社に中途採用で入社して18年。18年前、前任者との三日間の引き継ぎで教わったことのうちすでにやっていないことがたくさんある。大切な仕事だからと教わったもののうち半分以上はやっていない。なぜならそれらはほとんどやりたくないことだからだ。
ホモ・サピエンスの最も大きな特徴のひとつは、上司というものが存在しない場合、やりたくないことはやらなくなるということだ。18年間、野放しの私はその特徴を遺憾なく発揮し、やりたくないことから目をそらし、ときにはそらすどころか目をつぶり、目をつぶったまま山手線を2周する。そのおかげで私は、18年間、ほとんど無遅刻無欠勤無残業と大変健康に暮らしている。
不思議なことにやりたくないことをやらなくても仕事は減らない。いや私がサラリーマンになってから仕事が減ったことは一度もない。いつだって増えていく一方なのだ。おそらくこれは人口減少社会に起因する現象だと思うが、仕事は日々増えていく。恐ろしいくらい増殖していく。だから私はやりたくないことをやっていない罪悪感を覚えずに暮らしていけるのだ。
さて新入社員である。
新入社員はやりたくないことをやらなければならない。いや、みんながやりたくないであろうことを率先してやらなければならない。そうしてみんなに認められたとき、初めて「宮里、これ、やっておけよな」と後輩に言えるようになるのである。ただし本の雑誌社は新入社員が入らないので後輩というものが存在しない。
というわけで、私は今日から新入社員である。やりたくないこともやる。