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11月27日(金)

 朝、京浜東北線を上中里で途中下車し、Jリーグ残業試合「チャンピオンシップ」のチケットを届けに父親の経営する町工場に向かう。70歳を過ぎて、我が兄である長男に会社を譲ったものの、会長という名の小間使いとして仕事を続けている父親。今日も扉を開けると定位置であるいちばん入り口に近い席に座り、作業着を着て、図面を眺めていた。

 父親の会社に行くとまず初めにするのはホワイトボードを確認することだ。そこには組付けや加工の依頼を受けた注文書がマグネットで止められている。その量を見れば会社の経営状況が一目瞭然なのだ。

 私が小学校の5年のとき父親は会社を起した。それまで勤めていた会社に不満を持ち、毎晩愚痴を漏らしていたところ、母親からぐだぐだ言ってるなら自分でやればいいじゃんとけしかけられたらしい。けしかけるほうもけしかけるほうだが、その気になって会社を起こしてしまった父親もどうかと思う。

 ある晩「父さんは明日から自分の会社を作るから」と聞かされたとき、自分の親が「社長」になるのが嬉しくてたまらなかった。しかし、その言葉のあと、母親から「社長になるってことは全責任お父さんが持つってことだよ。会社がうまく行かなければ家も失うことになるからね」と脅され、夜、眠ることができなくなった。

 父親の会社が軌道に乗るまでずいぶんと時間がかかった。軌道に乗っても安心できることはなく、いつだって資金繰りに苦しんでいた。だから私は父親の会社の様子がいつも気になった。家を失わずにいつまでもみんなで暮らせるよう祈っていた。そして会社に行ってはホワイトボードを眺めていた。大丈夫、仕事がいっぱいあると一息つくときもあれば、家がなくなるかもしれないと心配することも多かった。

 今日、ホワイトボードにはたくさんの注文書が貼られていた。「仕事いっぱいあるじゃん?」と父親に訊くと、「そうなんだよ、この十年でいちばんの繁盛なんだよ」と目尻を下げた。本当に忙しいようで社長である兄は私の声を聞いても工場から顔を出さず、自分よりずっと年上の職人さんと納期の打ち合わせを大声でしていた。

 私はずっと不思議だったことを父親に訊ねてみた。吹けば飛ぶような小さな小さな町工場である。特別な技術があるようにも思えないし、価格競争では外国に負けるはずだった。社長の父親は凡人だ。それなのにどうして30年以上も潰れずにやってこられたのだろうか。

「そうだなあ。いつも取引先のためになるよう、一生懸命、ものをこさえてきただけだなあ」

 チケットを渡し、父親の会社をあとにすると、自然と涙があふれてきた。

11月26日(木)

 書籍館がオープンされた池袋の三省堂書店さんを訪問。地下一階と一階の様変わりぶりに驚く。最終的なグラウンドオープンは12月6日。

 夜、ワタル社長とともにお台場の「東京カルチャーカルチャー」へ。ただいまこちらのイベントプロデューサーをしているテリー植田さんの本を作っているのだ。本日は「牛乳石鹸 presents いいふろナイト」開催。これまでテリーさんから散々話を伺っていたものの実際に運営しているイベントを見るのは初めて。これが噂以上の盛り上がりで、ワタル社長ともども取材を忘れ堪能。

 どちらかというとめんどくさいものの代表であるイベントが、まさかこんな楽しいものとは。

11月25日(水)

 ジュビロサポの書店員さんを祝福すべく海老名に向かうも残念ながら公休。話題沸騰の海老名市立図書館を覗く。同じくツタヤが運営している武雄市図書館は場所づくりとして意義を感じたけれど、スタバもおしゃれな本屋さんもある海老名にわざわざこういう図書館を作る必要があったのだろうか。来館者もまばら。噂の本の並べ方も図書館流でもなければ、いわゆる本屋さんの並べ方でもない。

 駅前にオープンしたららぽーとはすごい人出。有隣堂さんとBOWLさんを訪問。BOWLさんでは以前店長のKさんからその発想を伺い腰を抜かしていた額装文庫が実際に売られていた。表紙の印象的な文庫(古本)を仕入れ、額に入れたものを販売しているのだ。どうしたらこんなことを思いつくのだろうか。既成概念にとらわれず「本」の魅力を引き出すということなのだろう。110個用意したもののうちもう半分は売れているとか。「BIRTHDAY BUNKO」に続くヒット作になるのではなかろうか。

DSC_2013.JPG



 そんな新しい書店さんにワクワクしたものの、実はこの日いちばん感動したのは相模大野のくまざわ書店さんだった。これぞ本屋!という品揃えに背筋が伸びる。住んでいる街にこういう本屋さんがあったらどれほど幸せか。

 夜、中小書店の融合体「ネット21」の忘年会。相変わらずの盛況ぶり。あちこちで名刺交換していたものの、雨のため妻から娘の塾のお迎えをするようメールが届き、途中退場。残念。

11月24日(火)

 2位じゃダメなんです。

 3連休に観た映画は「エターナル・サンシャイン」「ドライブ」「ブレードランナー ファイナルカット版」「カッコーの巣の上で」「殺人の追憶」「プラダを着た悪魔」。

 もっとも衝撃を受けたのは「ブレードランナー ファイナルカット版」で、観終えたあと放心状態に陥る。何もかもが素晴らしい。「ゴッドファーザー」以来の強烈なインパクト。もし私がバーを開いたら「ゴッドファーザー2」と「ブレードランナー」を延々モニターに流すだろう。

 そしてもう一作腰が抜けたのは「殺人の追憶」。韓国で実際に起きた殺人事件を元にした映画なのだが、再生ボタンを押した瞬間から目が離せぬどころか息を飲み込んだまま2時間過ぎちゃった感じだ。横山秀夫の小説のような濃密な世界観。演技力もハンパない。

 問題は「プラダを着た悪魔」である。この映画は事務の浜田から「私のフェイバリット映画です!」と無理やり押し付けられるようにDVDを渡された映画なのだが、映画そのものよりもなぜ浜田がこの映画を愛しているのか考えるほうが楽しい。

 夜、飲み会でミシマ社のワタナベ氏に会う。ワタナベ氏は書店員さんからカルト的に愛されている営業マンで、常日頃から私はその様子に嫉妬を覚えていた。ここで会ったら百年目、ついにそのときが来たとばかりに対面に席を陣取り、その魅力の謎を解き明かすべく話を伺うことにする。

 ところが氏の話法というのが舞城王太郎的というか町田康的というか天気の話をしているはずが気づけばアントニオ猪木とモハメド・アリ戦の話になっていたりして、しかもしまいにはビートたけしのモノマネをしている松村邦洋のモノマネをしていたりするから理解どころか誤解もできない。

 真剣に耳を傾ければ傾けるほど頭痛が激しくなり、こんなに頭が痛くなったのは高校時代の微分積分の授業以来である。あのときはそのまま寝込み学校を三日ほど休んだのだ。ならばこれ以上ワタナベ氏の話を聞いていると寝込んでしまいそうなので、どうにか氏を黙らせることにする。

 そこで壮大過ぎてとてもそう簡単に答えられない質問をしてみることにした。

「ワタナベさんは、なんで本の仕事をしているの?」

 ここまで根源的かつ哲学的な質問をすればワタナベ氏も熟考するだろう。飲み放題3時間の持ち時間もあっという間に過ぎ、氏が黙ったままお開きになるはずだ。どうにか頭痛もおさまり、ゆっくり酒と食事を楽しもうとグラスを手にしたところ、ワタナベ氏、こくりと頷くと、メガネを人差し指で持ち上げ、あっさりこう答えたのであった。

「本の近くにいるといいことがあるんですよね」

 これまでずいぶん本や出版や自分の仕事について考えてきたけれど、そんな風に考えたことは一度もなかった。

 確かに言われてみれば、本の近くにいるといいことがある。私がここまでどうにかこうにか生きてこられたのも、間違いなく本の近くにいたからだろう。

 こんな考え方をしている人に勝てるわけがない。ひれ伏す。

11月20日(金)

  • トゥルー・ロマンス ディレクターズカット版 [DVD]
  • 『トゥルー・ロマンス ディレクターズカット版 [DVD]』
    クリスチャン・スレーター,パトリシア・アークエット,デニス・ホッパー,ヴァル・キルマー,ゲイリー・オールドマン,ブラッド・ピット,クリストファー・ウォーケン,サミュエル・L・ジャクソン,トニー・スコット
    ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
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 終日、注文書及び書店さん向けDM作り。

 その間に沢野さんやってくる。文藝春秋のKさんやってくる。来月本を出す藤脇さんやってくる。新潟文信堂書店Hさんと昼食。千客万来。

 夕刻、教文館に本の雑誌40周年特製ブックカバー直納。

 帰宅後、本日はランニングも体幹トレもしない休息日なので、借りていた「トゥルー・ロマンス」観る。まさか銃撃シーンで腹抱えて笑うことができるなんて! タランティーノはやっぱりすごい。笑いすぎて腹痛い。

 家族は就寝したもののすっかり目が冴えてしまったので、福澤徹三の新刊『白日の鴉』(光文社)を読み出す。のっけから登場人物に不幸が振り注ぎ目の離せぬ展開。とても寝ることはできず、そのまま徹夜して一気読み。大傑作。構成、人物造形、ストーリーディテール、すべてよし!

 ベストを決めるとベスト本が出るというのは読書界マーフィーの法則だけれど、『白日の鴉』は間違いなく今年読んだエンターテイメント小説のなかで3本指に入る作品。ほかの2冊は柚木裕子『孤狼の血』(KADOKAWA)と辻村深月『朝が来る』(文藝春秋)か。来年のベストには必ず入れる。

11月19日(木)

  • ROCK JET (ロックジェット)  VOL.63 (シンコー・ミュージックMOOK)
  • 『ROCK JET (ロックジェット) VOL.63 (シンコー・ミュージックMOOK)』
    シンコーミュージック
    1,320円(税込)
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 通勤読書は、群ようこ『衣もろもろ』(集英社文庫)。どんな服を着ればいいのか?は、やはり万人の悩みなのか。

 営業。

「ロックジェット VOL.63」(シンコー・ミュージック)が尾崎豊特集でペラペラ見ていていたところ、なんとキーボードの西本明のロングインタビューが掲載されているではないか。

 西本明といえば尾崎豊のキーボードでもアレンジャーとして有名なのだが、その前に佐野元春のハートランドのキーボードでもあり、食い入るようにそのインタビューを読むと、尾崎豊と佐野元春の曲作りの違いから、「17歳の地図」に対する佐野元春の感想など両者をアイドルとして生きてきた私にとっては、あまりに貴重過ぎる言葉の数々。走るようにしてレジに持っていく。

11月18日(水)

 午前中、企画会議。徒労。

 午後、明日、オープンする渋谷のHMV BOOKS TOKYOの内覧会へ。
 これはちょっと仕事で行くところでなく、休日にゆっくり見て廻るべきお店。新規店でこんなにワクワクするのは久しぶり。たくさん本があるだけでは満足されなくなった大型書店の新しいかたちになるだろう。

 夜、居酒屋。テーブルには空になった生ビールのジョッキとお銚子がいくつも並んでいる。煤けた天井を見上げると蛍光灯が滲んで見える。でも下を向くことはできない。下を向いたら涙がこぼれ落ちてしまうからだ。

 MさんとKさんが口角泡を飛ばし議論している。議論の内容は文庫の棚の作り方だった。それぞれの考え方とまた別の考え方を今にも掴みかからん勢いで話し合っている。

 その光景は26年前とまったく同じだった。MさんとKさんは、私が大学進学をやめ、カヌーを買うためにアルバイトを始めた八重洲ブックセンターの社員だった。ある晩飲みに連れていかれた先の居酒屋で、あの日もこんな風にして一冊の本をどこに置くか激しく語り合っていた。喧嘩になるのではなかろうかとビクビクしながら二人の様子を見つめつつ、私はもしかしたらカヌーで旅しなくても、ここに学ぶことがあるんじゃないかと考えていた。

 あれから26年。Mさんは来年定年に、Kさんは今、別の本屋さんの店長をしている。それでも二人は会えば、あのときとまったく変わらぬ熱量で、本をどう並べれば読者に届くのか考え続けている。

 うれしかった。ものすごくうれしかった。目指すべき道が目の前にある。これまでも、これからも、私はMさんとKさんの背中を追っていけばいいのだ。

11月17日(火)

  • 損したくないニッポン人 (講談社現代新書)
  • 『損したくないニッポン人 (講談社現代新書)』
    高橋 秀実
    講談社
    880円(税込)
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 通勤読書は、高橋秀実『損したくないニッポン人』(講談社現代新書)。

 午前中、博報堂Aさん来社。来春、開催する予定のイベントのブレスト。適当なことをどかどか提案す。

 昼食は、IさんとHさんと「揚子江飯店」。
 営業後、M書店Sさんと津田沼で酒。

11月16日(月)

 この週末に観た映画は「戦場のピアニスト」「エル・スール」「キル・ビル」「きっと、うまくいく」の4本。

 もっとも心が揺さぶられたのは「戦場のピアニスト」。もっとも楽しんだのは「きっと、うまくいく」。

 通勤読書は、平松洋子の『味なメニュー』(幻冬舎)。各店のメニューにこめられた想いを硬派な文章ですくい取る。

 毎月毎月新しいメニュー(新刊)を作り出さねば成り立たぬ身には、ひとつのものを作り続ける世界は憧れだ。

 今月の新刊『ワンコイン古着』の見本ができたので取次店廻り。結構混雑。

 昼、見本出し恒例の飯田橋「黒兵衛」にて味噌ワンタンメン。美味い!最後の一滴までスープを飲み干しお会計を頼むと、「今日の美味しかったでしょう?」とお店の人から初めて話しかけられる。

 どうやらこれまで鶏ガラを仕入れていた業者が倒産してしまい、新たなところと取引していたのだが、そこが店主が求めていた鶏ガラとは違うものをしばらく納品していたらしい。味が違う味が違うと悩んでいたのだが、ついに原因を突き止め、今日からきちんとした鶏ガラが届いたそうなのだ。

 お店の人に話しかけられるのをよく思わない人もいるかもしれないけれど、今日のこの言葉には美味しいラーメンが作れた喜びがあふれていた。やっぱり飯田橋のラーメンは「黒兵衛」一択。

11月13日(金)

  • Groovism
  • 『Groovism』
    THE GROOVERS
    SPACE SHOWER MUSIC
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 夜、下北沢の「GARDEN」へ。GROOVERSのライブ。出てきた瞬間にそのオーラにやられる。そのオーラとは、人生で一度も自分を裏切らずに生きてきた人間にしか出せないやつだ。すなわちロックだ。2時間半、しびれっぱなし。

11月12日(木)

 12月4日にホテルニューオータニにて第63回菊池寛賞受賞式があり、その際各受賞者にアテンド係として文藝春秋の人がつくらしいのだが、なんと本の雑誌社のアテンド係は元助っ人の一朗君だと聞き、涙にむせぶ。

 彼は就活時、出版業界への就職を希望したものの残念ながら採用まで至らず、一度は建設業界に就職。しかし夢諦めきれず、幻冬舎にアルバイトとして入社し多くの作家さんに愛され数々の本を作り、今年、文藝春秋へ転職していたのだ。奇蹟。

 それにしてもふと気づけば出版各社に元助っ人がいるものだ。私が入社してからも、講談社、集英社、文藝春秋、KADOKAWA、新潮社と大手出版社で活躍しているものも少なくない。私が独立する際は、これら助っ人を呼び集め、その名も「元本の雑誌社」を立ち上げるつもり。問題は人件費が高いことか。

 午前中、「Forio」にて来年2月に小学館より文庫化される『サッカーデイズ』の打ち合わせ。ほぼ書き手としての作業は終えたものの、私の本職はここから。自分の本は売れようが売れまいがどうでもいいのだけれど、編集者が一生懸命なのでどうにか売ってあげたい。

 午後、久しぶりに心ゆくまで営業。営業はほとんどうまくいくことがないんだけれど、やっぱり一番好きだ。

 店に入るときの緊張感、終えたあとすぐに始まる後悔、ひとつひとつ積み上げていくしかない信頼と人間関係は、書き手や作り手では味わうことができない。

 できることなら営業だけしていたい。

 帰宅後、ランニング8キロ。

11月11日(水)

  • 真夜中の金魚 (角川文庫)
  • 『真夜中の金魚 (角川文庫)』
    福澤 徹三,遠藤 拓人
    KADOKAWA
    607円(税込)
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  • すじぼり (角川文庫)
  • 『すじぼり (角川文庫)』
    福澤 徹三,岸和田 ロビン
    KADOKAWA
    880円(税込)
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  • FIFA 腐敗の全内幕
  • 『FIFA 腐敗の全内幕』
    アンドリュー ジェニングス,Jennings,Andrew,博江, 木村
    文藝春秋
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    honto
  • 青線 売春の記憶を刻む旅
  • 『青線 売春の記憶を刻む旅』
    八木澤 高明
    スコラマガジン
    1,944円(税込)
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    honto

 四時に起きて福澤徹三の『灰色の犬』(光文社文庫)続きを読む。途中、睡眠はとったものの600ページを一気読み。北上次郎さんの解説も久しぶりに熱を感じる。

 福澤徹三といえばブックエキスプレスさんがやっているエキナカ書店大賞の第3回受賞作『Iターン』しか読んだことがなかったのだけれど、これは全作読まねばなるまい。

 おじさん三人組取材。近頃流行りのブックカフェのコーヒーを飲み比べる。

 昼はメタボまであと1センチと迫る浜本のたっての希望で、飯田橋「高はし」にて雲呑麺。スープの色からあっさり味なのかと思いきやかなり油が強く一瞬たじろぐも、麺をすすっているうちに撹拌されちょうどいい塩梅に。雲呑もチャーシューも美味。飯田橋といえばこれまで「黒兵衛」一択だったのだが、これからは選択に悩む。

 それよりもなにより驚いたのは、店を出てすぐ宮里が、「あっさり系でしたね」とつぶやいたことだ。もしかしてこいつはお茶の代わりに灯油でも飲んでいるのかもしれない。

 夕方、沢野さんが会社にやってくる。友だちの作り方とベルトの穴の使い方について教わる。

 帰りに本屋さんに寄り、『真夜中の金魚』福澤徹三(角川文庫)、『すじぼり』福澤徹三(角川文庫)、『FIFA 腐敗の全内幕』アンドリュー・ジェニングス(文藝春秋)、『青線』八木澤高明(スコラマガジン)、『ロゴスの市』乙川優三郎(徳間書店)を購入。

 ランニング8キロ。

11月10日(火)

「本の雑誌」12月号搬入。特集は「太宰治は本当に人間失格なのか?」。企画会議の当日、電車のなかで特集のタイトルが突然ひらめき、それに合わせて内容を考えていった珍しいパターン。

 昼、化学同人の山ちゃんが京都からやってきたので、「SANKOUEN」でランチ。数少ない気のおけない出版仲間。なにせ初対面で山ちゃん家に泊めてもらっているのだ。

 午後、営業。

 やっと雨があがったので走る気まんまんで残業せず会社を出たのだが、帰りの電車のなかで福澤徹三の『灰色の犬』(光文社文庫)を読みだしたところ、面白すぎて帰るの嫌になる。とりあえず京浜東北線終点の大宮駅まで乗り過ごし、読み進めることに。

 奥田英朗と黒川博行を足したようなアウトロー小説。どんどんドツボにはまっていく登場人物3人の先行きがあまりに心配で、ページをめくる手が止まらず。

11月9日(月)

  • パルプ・フィクション [DVD]
  • 『パルプ・フィクション [DVD]』
    ジョン・トラボルタ,サミュエル・L・ジャクソン,ユマ・サーマン,ハーベイ・カイテル,ティム・ロス,アマンダ・プラマー,マリア・デ・メディロス,ブルース・ウィリス,クエンティン・タランティーノ
    ワーナー・ホーム・ビデオ
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  • 愛しの街場中華 『東京B級グルメ放浪記』2 (光文社知恵の森文庫)
  • 『愛しの街場中華 『東京B級グルメ放浪記』2 (光文社知恵の森文庫)』
    鈴木 隆祐
    光文社
    880円(税込)
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    honto

 2ステージ制になったJ1が、まったく面白くない。
 残り2試合にして年間首位のサンフレッチェ広島と勝ち点が並んでいるにも関わらず、土曜の埼玉スタジアムには殺気だった雰囲気もなく、結果1対1で引き分けても監督・選手たちからはチャンピオンシップがあるからとなんだかサラリーマンの報告書のような言い訳ばかり聞こえてくる。

 消費税を10%にあげるのは許すけれど、2ステージ制は即刻廃止にして欲しい。

 というわけで煮え切らないスタジアムから帰宅した後、「ディア・ハンター」「ウォールフラワー」を観、ツタヤに返しにいったその足で再レンタル。借りてきたのは「LIFE!」「戦場のピアニスト」「エル・スール」「パルプ・フィクション」の四本。

 その中からまず「パルプ・フィクション」を観始めたのだが、これがぶったまげるほどの快作で、スタジアムの不完全燃焼を忘れ、即初めから再鑑賞。

 タランティーノの映画は「レザボア・ドッグス」に続いて2作目なのだが、まったくでたらめに牌を集めていたら役満・大三元になっているような展開に感動を覚える。そして映画にも文体があることを思い知る。タランティーノの文体、めっちゃ好きだ。

「パルプ・フィクション」を脳内で再現しつつ通勤。通勤読書は『愛しの街場中華』鈴木隆祐(光文社知恵の森文庫)。その書名通り、やたらこだわったラーメンを作るラーメン屋ではなく、どこの街にもある(あった)中華料理屋を紹介するエッセイ集。

 カレーの街と呼ばれる神保町だが、実はかなり多くのこだわりラーメン屋があるものの、私がもっとも足繁く通っているのは、まさに街場中華の光華飯店。何を食べてもふつうに美味い。昼飯なんていうのは、ふつうに美味いのが大事であって、すごく美味いラーメンはくたびれてしまう。

 ちなみに私の街場中華の原点は、紙切り芸で有名だった林家正楽の実家か兄弟がやっていたその名も「正楽」。実家からすぐ近くにあり、外食より一歩手前のご馳走が正楽のラーメンだった。そんなことを思い出したのもこの本を読んだおかげ。

 午前中、会議。

 午後、牧眞司さんと単行本の打ち合わせをした後、営業。

 帰宅後ランニング...のつもりが雨やまず。借りてきたDVDの中から「LIFE!」を堪能。

11月6日(金)

  • ブルーバレンタイン [DVD]
  • 『ブルーバレンタイン [DVD]』
    ライアン・ゴズリング,ミシェル・ウィリアムズ,デレク・シアンフランス 
    バップ
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 9時出社。
 大阪から新刊見本出しに来ている140Bのアオキ氏を淹れたてのコーヒーで迎える。しばし歓談後、取次店廻りに向かう背中にエールを送る。

 午前中、会議。

 昼、アオキ氏が戻ってきたので「近定」にてランチ。

 午後、本の雑誌社フェアをして頂いている神保町の三省堂書店さんを訪問し、欠本調査。月曜日に納品したサイン本とブックカバーが売れている。即補充。

 帰宅後、「ブルーバレンタイン」を観る。
 苦しい。苦しすぎる。恋の始まりと愛の終わりが交互に描かれる映画なのだが、最上の愛で結ばれたはずの夫婦もいつかは冷めていくリアル。誰もがこの途上にいるということだろう。作中、主人公が愛について語る言葉が象徴的だ。「いつか消える感情なんて信じられる?」。
 絶対カップルや夫婦で観てはいけない映画。

11月5日(木)

 5時半起床。朝焼けラン7キロ。

 志を見失いそうになったとき、何度も読み返している本がある。『復興の書店』稲泉連(小学館文庫)だ。

 東日本大震災で被災した本屋さんが、その後いかにお客さんに本を届けてきたのか。いやそもそも本を必要とする人がそこにいたのか。それぞれの地域の本屋さんと取次店さんを取材したドキュメントなのだが、そこで語られる言葉の多くが心の曇りをきれいに拭きとってくれる。本に関わる仕事につけていることを改めて幸せに感じる一冊だ。あたたかい涙を流しながら読む。

 調布にてワタル社長とともにテリー植田さんロングインタビュー。夕方会社に戻り、デスクワーク。

11月4日(水)

  • イントゥ・ザ・ワイルド [DVD]
  • 『イントゥ・ザ・ワイルド [DVD]』
    エミール・ハーシュ,マーシャ・ゲイ・ハーデン,ウィリアム・ハート,ジェナ・マローン,ブライアン・ダーカー,ショーン・ペン
    Happinet(SB)(D)
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  • 荒野へ (集英社文庫)
  • 『荒野へ (集英社文庫)』
    ジョン・クラカワー,佐宗 鈴夫
    集英社
    924円(税込)
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 神保町ブックフェスティバルを終え、怒涛の2週間に終止符を打てるかと思いきや、相変わらず予定と未定がぎっしり。

 しかもそれらは本来の仕事である営業とはまったく関係なく、営業は手付かずになっている。おそらく私が誰かの仕事をしているのだと思われるが、その誰かが私の仕事をしてくれることは一切ない。

 ストレス解消にはここのところ映画がいちばん。というわけで昨日の文化の日も自宅で行っていた対談のまとめに一段落ついたところでツタヤに走る。

 レンタルしたのは「ブルーバレンタイン」「ウォールフラワー」「ディア・ハンター」「イントゥ・ザ・ワイルド」の4本。ちなみに先週借りたのは「ライフ・イズ・ビューティフル」「息もできない」「母なる証明」「アンダーグラウンド」。みんな知人に薦められた映画。

 夜、その中からジョン・クラカワーの『荒野へ』を原作にした「イントゥ・ザ・ワイルド」を観る。これがラジオからふいに尾崎豊の曲が流れてきたかのような映画で、様々な想いにフタをし生きている私には目の毒ならぬ心の毒としか言いようがないほど胸を掻きむしられる。

 そろそろ我慢するのはやめて、もう一度自分と向き合う時期なのかもしれない。

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