« 前のページ | 次のページ »

3月11日(金)

希望の海  仙河海叙景
『希望の海 仙河海叙景』
熊谷 達也
集英社
1,944円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
>> ローソンHMV
海炭市叙景 (小学館文庫)
『海炭市叙景 (小学館文庫)』
佐藤 泰志
小学館
669円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
>> ローソンHMV
トワイライト・シャッフル
『トワイライト・シャッフル』
乙川 優三郎
新潮社
1,512円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
>> ローソンHMV

 震災三週間後、中学校の教員時代に勤務していた気仙沼を訪れ、言葉を失うということの本当の意味を知り、小説なんてありえないと思った作家が、夏に訪れた函館で佐藤泰志『海炭市叙景』(小学館文庫)と出会い、もう一度小説を信じることで、書き上げた熊谷達也著『希望の海』(集英社)。

 集英社の特設サイトに記されている「失くした言葉の先に」というエッセイを読んで震えた。あわてて本を買い求め、読み始めたら、港町仙河海市で暮らす人々の喜び、悲しみ、苦しみ、希望、絶望が圧倒的なリアリティで描かれていた。

 これはまさに『海炭市叙景』の世界であり、あるいはまた乙川優三郎の『トワイライト・シャッフル』(新潮社)でもある。ドラマなんてなくても物語はあるのだ。ただこれらの作品とひとつだけ違うのは、仙河海市にはあの震災が訪れることだ。圧倒的なドラマが介入される。しかしそれは描かれない。

 そして描かれるのは震災後のこれまた「暮らし」だ。昨日があって、今日があり、明日が来る。『希望の海』は、「失くした言葉の先に」産み出されたすごい小説だった。

« 前のページ | 次のページ »