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7月10日(月)本の雑誌を届ける日

 肌をジリジリ焦がす暴力的な日差し。目眩をもよおす猛烈な暑さ。そんな中でも私の仕事は外に出なければならない。営業。それは人と会って話をし、売上や企画を生み出す仕事。

 まずは先週MacBookの修理を依頼していた銀座のアップルストアへ。なんと今月4度目の訪問。そのうち2度は娘がiPhoneを壊し、全取っ替えになったため。今回のMacBookはその心臓部であるロジックボードを交換し奇跡の復活を果たした。もうアップルストアは怖くない。

 一旦会社に戻って、すぐに東京堂書店へ。今月19日に開催する荻原魚雷さんと岡崎武志さんのトークイベントの打ち合わせ。共同主催の芸術新聞社のA社長と編集担当のYさんも同席。お二人ともフットサルチーム「アルトムント」のメンバーで球を蹴り合っており、打ち合わせもとんとん拍子に進む。昼は共栄堂でポークカレー。

 再度会社に戻って、納品の準備。できたばかりの「本の雑誌」2017年8月号を駒込のBOOKS青いカバにお届けする。

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 こちらは前リブロ、元古本屋勤務のOさんが満を持して今年初めにオープンした新刊も古本も扱う文字通りの「本屋」さんである。オープン時には、15坪の店内の棚にもだいぶ空白があったものの、半年経った今は本がぎっしり。しかも魅力的な本がズラリと並んでいる。

 Oさんも薦めていらした滝口悠生『茄子の輝き』(新潮社)の感想を伝えると(そのうちじっくり紹介しますが傑作です。読んでください)、なんともう初回に仕入れた10冊は完売してしまったそうで、追加注文分が届くのを待っているところだという。

 たかが10冊と侮るなかれ。いまどき発売一週間で10冊も売れる文芸書なんてそうそうない。しかもここは15坪の本屋さんなのだ。

 おすすめのPOPを立て、常連さんには本が出る前から声をかけ販売していたそうだか、それもこれもOさんとお客さんの信頼関係でしょうねと指摘すると、Oさんから面白い言葉が聞こえてくる。

「一人称で本を売る、ってことがこれからとても大事な気がします」

 一人称で本を売る......それは裏返してみれば、お客さんが値段も中身も同じ本を、どこで、誰から、買うか選択する時代になってきたということだろう。おそらくその先頭を走っているのが、Titleの辻山さんであり、誠光社の堀部さんだ。辻山さんのお店では、WEBショップでの注文も全国からかなり頻繁に届いているという。そこで販売されている本の多くが、どこの本屋さんでも買える本なのに、だ。

 そういえば、先日業界紙の「新文化」を読んでいたら丸善ジュンク堂書店の工藤社長が大型書店の行き詰まりを嘆き、しかしかといって中小書店は立地が第一条件であり、好立地は家賃が高くとても商売にならないとこぼしていた。

 本当にそうなんだろうか──。このBOOKS青いカバは駒込駅から歩いて10分ほどかかるし、いま大人気のTitleだって荻窪駅から15分はかかるのだ。

 それでもどちらのお店も気づけばお客さんが何人もいて、真剣に棚を見つめている。今や駅前が好立地とは限らず、ある種の本屋さんは逆に駅から遠いことが、わざわざ訪れた感を演出する効果に役立っていたるのではなかろうか。一人称であれば立地なんて関係ない。本屋さんは大きいか小さいかで語られ、選択される時代ではなく、そこに「人」がいるかどうか、なのかもしれない。

 そして、一人称というのは、出版社も同じことだ。一人出版社がもてはやされるのは、誰が書いたのかと同じくらい誰が作っているのかが注目されているからに他ならない。一人称の出版社の代表は夏葉社の島田さんだろう。

 果たして自分はどうだろうか。一人称で仕事ができているだろうか。

 否だ。

 先日、町田市民文学館ことばらんどで開催した「本の雑誌厄よけ展」で痛感したけれど、結局どこまでいっても「本の雑誌」は椎名誠、目黒考二、沢野ひとしの雑誌なのである。どんなに頑張っても「私の」あるいは今いるメンバーの「私たち」の雑誌にはならない。

 別に認めてもらいたいわけではなく、自分には一人称で語れるものがないことに気付かされたのだ。46歳にもなろうというのに、なんにもない。

 それも当然だ。私には覚悟がないし、何も背負わず、誰かに甘えて、隠れて、逃げてばかりいるからだ。Oさんのように自分の足で立ち、一人称で働き始めた人が、真夏の太陽のように眩しい。

 自己嫌悪に陥ったところで猛暑は変わらず、納品は続く。次なる訪問店は8月号の巻頭グラビアで登場願った王子のブックス王子だ。店頭に立つのは80歳のW店長で、決してノスタルジーではなく、ここは生きた町の本屋さんだ。

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「雑誌出来上がりました!」と声をかけると、「ありがとうありがとう、わざわざ届けてくれたのか」と暑さもぶっ飛ぶ笑顔で迎えてくれる。

 この笑顔の人から本を買いたいと思わされる、まさに一人称の本屋さんだ。今後、途中下車して本を買うことを決意す。

 営業後、直帰。本日はランニングはお休みで長友の体幹トレのみ。昨日のフットサルでこれまでだったら決まらなかったゴールが決まり、早速効果が出ている。飽きずに続けるのみ。

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