まだまだ続く、オススメの新人ミステリ作品。第３回！
高…高橋美里 宇…宇田川拓也
- 宇：
- さて、次は第29回横溝正史ミステリ大賞＆テレビ東京賞W受賞の『雪冤』（大門剛明・著／角川書店）です。この作品はフーダニットで、扱ってる内容が死刑制度とか冤罪とか結構重厚で歯ごたえがあるんですけど、社会派な部分から終盤いきなり超絶本格ミステリに激変する（笑）厚みのある社会派に力技の本格がぶち込まれることで、すごく素敵な化学反応が起きるんですよ。
- 高：
- 島田荘司さんの『北の夕鶴2/3の殺人』（光文社文庫）みたいな感じですね（笑）当時流行したトラベルミステリかと思いきや……。
- 宇：
- 薬丸岳さん以降社会的な重いテーマを扱いつつ、ミステリ的な“意外な犯人像”とか“真相”が浮かび上がるっていう、そんなトリッキーな部分を一緒にしようっていう流れがあって、そのラインの新たな書き手が著者の大門さんなんだよね。
- 高：
- デビューから一年経たないうちに第２作が出ましたね。『罪火』（角川書店）は1作目に比べてすごく綺麗にまとまってました。
- 宇：
- そうですね。かつて殺人を犯したことから、社会にも適応できず生活もうまくいかない元派遣社員の若者が、恩師の娘を殺してしまう。自暴自棄に陥ったとはいえ、あまりに身勝手な若者の、どこにも情状酌量の余地はない事件に見えたけれど、驚きの哀しい真相が夏の花火の夜に明らかになる。罪の火……『罪火』、これは本当にきれいでしたね。
- 高：
- ちなみに、どちらかを推すとしたらどっちですか？
- 宇：
- 扱ってるテーマのスケールとか勢いは処女作のほうがあるとおもうけど、まず読むなら『罪火』ですかね。まあ個人的には両方読むことをオススメしますが（笑）
- 高：
-
さて、コード系という言葉があるように、ある程度のものが出尽くしているミステリですけど、やっぱりこの企画で取り上げている作家さんたちは、既存のものを使って自分たちなりの新しい小説を書いている人たちだと思うんです。その中でも、ミステリの技巧とかそういうものを一番上手く使っていたのがこの作品『丸太町ルヴォワール』円居晩（講談社BOX）だと思うんですよね。机叩いちゃいぐらいオススメしたいんです。バンバン。
- 宇：
- わはは、すごい！
- 高：
- 3年前に祖父を殺したという容疑をかけられた城坂論語が、京都の有力者の間で行われている“双龍会（そうりゅうえ）”という私的裁判の被告になるんです。でも彼の目的は裁判で容疑を晴らすことではなく、3年前に出会った謎の女を探すことだった──というお話で。
- 宇：
- 一読してビックリしたんですよ！ 講談社BOXってどちらかというとキャラクタ小説が多いじゃないですか。だから『丸太町ルヴォワール』もいつもの流れでキャラクタものかと思ってたんですよ。ところが“双龍会”のところとか推理の応酬とか、ミステリ的な堅牢さもしっかり備えていて……。
- 高：
- 最後のどんでん返しっていう返し技のたたみかけなんですよね（笑）
- 宇：
- 自分の嫌疑を晴らすことより、謎の女に会いたいがために裁判を起こすという、いじらしい恋愛要素も含んだミステリ（笑）
- 高：
- でも恋愛を扱ったものだからドラマっぽいのか、っていわれるとそうじゃなくて、すごく技巧的なんですよね。感情的に走るわけでもなく、淡々と読ませてくれました。
- 宇：
- そうそう。使ってる素材は青春小説とか、女性に憧れるような若々しい感情だったりするんだけど、物語を成すミステリの部分はしっかりと作ってあって。この作家さんが京都大学ミステリ研究会出身ということもあるとは思うんですけど、すごく考え抜いたうえで丁寧に丁寧に書き込んでいる印象を受けます。
- 高：
- めくるめく推理の応酬と、その張り巡らされた伏線の絡み合う感じがたまらない快感になりますね（笑）
- 宇：
- 今の20代の人がミステリに限らず、現在よく読まれている（売れている）小説とか、小説に限らず親しまれているものに触れて「何か書いてみたい！」って思ったときに、今ある流行りの要素と、これまで吸収してきた過去の要素を重ねて新たな形にしようとした場合、この作品こそ、ある意味もっとも理想に近いもののひとつではないか……などと考えてしまいました。
- 高：
- そうですね。今の時代の新人のデビュー作はミステリ的ないいところを残して、且つ、遡行するんじゃなくて、今とこれから読まれていく小説の形にしていると思う。
- 宇：
- ミステリもあくまで「小説」ですから、今この時代にデビューして一石を投じるという意味では、この作品は一段上にいると思います。
- 高：
- あっ、ミステリ好き（読み）じゃなくても、『丸太町ルヴォワール』はいけると思いますよ、ロマンチックだし要注目です！
