『乙女の読書道』刊行記念 著者インタビュー(聞き手・編集部)

【蔵書と本棚】

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――『乙女の読書道』のカバーの背景はご自宅の本棚ですね。かなりの蔵書量ですが、本は処分せずとっておくタイプ?

池澤春菜(以下、池):それなりに処分はしてます。収納場所は増えないから仕方ないということもあるし、自分でもう読まない本は読みたい人の元に届いたほうがいいじゃないですか。だから、定期的に古本屋さんに売って整理してますね。

――ということは、この本棚にはかなり精選された本が並んでると。

池:そうですね。カバーを見て、「ずいぶんきれいにしてある本棚だけど本物?」って声もありましたけど、本当に自宅の本棚です(笑)。撮影に備えて片づけたんです!

――「あそこに写ったあの本は○○で」みたいな読者チェックがけっこう入ったとか。

池:人の本棚ってやっぱり気になるんだなと思いました(笑)。

【子ども時代の読書生活】

――物心ついてはじめて読まれた本は?

池:最初の本ではないけど、『きつねきいちといたちきょろきょろ』(とみたふさえ作/はまなかのぶひさ絵)という絵本を覚えてます。2歳か3歳の頃かな。「こどものとも」のシリーズの一冊で、イラストに絶妙な味があるんですよ。ハンチング帽が出てきたりして、刊行当時(1980年)からするとディテールがすこし古いんだけど、そこがよかったんです。

――巻末の対談では、ご家族に本好きが多いというお話をされてました。

池:父の家系はみんな本好き。だからたくさん本をくれたし、母も私がことばをしゃべる前から読み聞かせをしてくれました。本が身近な環境だったので、気がついたら読んでいたという感じですね。

――小学校に入る頃にはすでにかなりの読書家だったとか。

池:とにかく本ばっかり読んでました。一日に平均3、4冊。朝学校に着くと、まず図書館に行くんです。そこで前日借りた本を返して、その日に読む本を2冊ぐらい新たに借りる。で、学校にいる間に1冊読みきって、帰りにもう1、2冊追加で借りて帰る。行き帰りの道も歩きながら読んだし、授業中も、食事中も読む。そんな生活でした。

――重度の活字中毒ですね。

池:おかげで卒業までに図書館のめぼしい本はだいたい読みました。

――まわりからはどう見えてたんでしょう。

池:父兄参観のとき、まわりのお母さんたちは「うちの子、全然本を読まないんです。どうしたらいいでしょう」って話してるのに、うちの母だけ「あの...うちの子は読みすぎるんですけど、どうすれば止められますか」って質問して驚かれてました(笑)。

――本好きの子はたくさんいても、そこまで「読みすぎる」子はいないですよね。

池:そういえば小学校3年ぐらいの頃、映画『エイリアン』のノベライズを読んでたんです。そしたら、クラスの男子が「お前、何読んでんだよ」って、本をグイッとひねったんですよ。それに私、本気でカッとしちゃって(笑)。ふだんはおとなしい子だったからみんなびっくりしたみたい。それ以来あだ名が「アリエン」になりました(笑)。

――アリエン?

池:本の表紙に英語で「Alien」と書いてあったのが読めなかったみたいで。無理矢理ローマ字読みして「アリエン」(笑)。

【小さい頃からSF者】

――お祖父さん(作家・福永武彦)やお父さん(池澤夏樹)の本は、いつ読まれましたか?

池:父の本はほぼ出版された時点で読んでます。祖父の本も小学生の頃に読みました。

――早熟ですね。学校で「福永武彦の孫」「池澤夏樹の娘」ということで何か言われたことは?

池:国語のテストで、父の小説から問題が出たことがあって。「このとき作者は何を考えていたのか答えよ」という問題。その日家に帰って、父に「何を考えてたの?」と訊いたら、「〆切のことしか考えてなかった」(笑)。それで翌日先生のところへ行って、「父は〆切のことしか考えてなかったそうなんですけど、その場合何番を選べばいいんでしょう?」と訊いたら「もういいです」って(笑)。きっとやりにくかったと思います。

――その頃はどんな本を読まれてたんですか?

池:大人向けの本ですね。早川書房や東京創元社の本も読んでました。

――SFですか?

池:はい。

――となると、それ以来三十年ぐらいSFを読み続けてるわけですね。

池:いろんな本を手当たりしだいに読んで、「このジャンルは自分には合わない」「これは面白い」って判断しながら、自分なりのラインを定めていった感じです。

――書くことも得意でしたか?

池:そうでもなくて、当時は書くのは面倒だと思ってました。書いてる時間があればもう何冊か読めるから。それぐらい読みたかったんです。

――これまで1日、2日でも本を読まなかった日は?

池:うーん......ないですね(笑)。

【おすすめ本を選ぶには】

――昔からずっと好きな本、いわゆるオールタイムベスト的な本は?

池:それは「今まで食べたご飯のなかで、何が一番おいしかった?」って聞くようなものです(笑)。

――なるほど(笑)。そう言われると困っちゃいますよね。

池:でしょ。それと同じです。「面白い本」を人にすすめるときもそうで、だれに向かってすすめるかで、あげる本は変わります。だから、「好きな本」とだけ言われててもうまく答えられないんですよ。

――では、「これから本を読んでみよう」という初心者に向けたおすすめ本は?

池:ありきたりかもしれないけど、SFなら『夏への扉』(R・A・ハインライン)なんていいと思います。SFが目的ではなくてちゃんと手段になっていて、SFをあまり意識しないで読める。入口として入りやすい本ですね。

――『夏への扉』は十代の子が休みのときに読む本としてピッタリですね。

池:私はいつも「何かいい本ある?」と訊かれたとき、逆リサーチをするんですよ。うかつなものをすすめて本嫌いにさせちゃいけないから、その人の本読みとしての段階をまず探る。「ふだんは本をどのぐらい読みますか?」「最近何を読まれました?」「それをどのぐらいの速さで読みましたか?」って。お医者さんの問診みたいですが(笑)。その上で「じゃあこれですね」と。

――処方箋を出す(笑)。書くときも、どんな読者に向けた文章かは意識している?

池:それはいつも考えてますね。

【マルチタスクの毎日】

――池澤さんは、読書以外にもお茶やガンプラとお好きなことがたくさんあって、全部こなすのは大変と思うんですが、ふだんのタイムスケジュールは?

池:よく友だちに「春菜の一日って二十四時間じゃないよね」って言われます。私の場合、全部いっぺんに動かしちゃうんですよ。PCでいうマルチタスク(笑)。

――同時並行でいろいろやってしまう。本を読みながら別の何かもするとか。

池:書きもののときも、頭のなかで文章を練る時間を使って片づけをしたり。

――そうやって時間配分されてるんですね。声優のお仕事は時間通りに終わるものですか?

池:録り終わるまでですね。だからすぐに終わるときもあれば、すごく時間がかかる場合もある。一応「夜の十一時は超えないように」とされてるんだけど、長編作品や洋画だと、昔は真夜中までやることもありました。

――仕事が長引いたとき、「早く本が読みたいのに」ってジリジリすることは?

池:仕事のときはスイッチを切り替えちゃう。さっき言ったマルチタスクも、そんなふうにスイッチを切り替えるからできるんだと思います。

――自分の感情も切り替えられるタイプ?

池:芝居をしたり、読書を挟んだりすれば切り替わりますね。二時間ぐらい、お芝居や本の世界に没入すると、「そういえば何か嫌なことがあったはずだけど」となっちゃいます(笑)。

――たしかに読書は気持ちの切り替えになりますね。

池:読書家はその点がいいですよね。普通は気持ちのスイッチって見えないところについているから、ずるずる悩みを引きずったり、恋愛に夢中になったりするでしょ。でも読書家はそのスイッチを本という形で、自分の外側に持つことができるんです。リモコンみたいに。その分生きるのがとても楽になると思う。

――池澤さんはその切り替えが特別うまいんでしょうね。

池:役者という仕事柄もあるかも。しかも私の場合、舞台役者さんみたいにずっと同じ役ではなくて、午前と午後で全然違う役を演じたりするし、ラジオでは自分のことばでしゃべります。うまく切り替えるのも仕事のうちですね。

【書評という仕事】

――今でも年に300冊以上読まれるんですよね。

池:はい。「本を読んでる間に人生やってます」というぐらい(笑)。

――読むのは速いほう?

池:速いかも。私は読み方はちょっと変わってるみたいで、1ページ1ページを写真で撮るように読んでいくんです。単語を一つ一つ追うんじゃなくて、ページ単位で活字がブロックとしてまとめて頭に入ってくる。

――それでちゃんと読めてしまう。昔からの読書習慣で身についた特殊能力ですね。絶対音感がある人にしかわからない感覚みたいな。

池:そのせいで、ページに誤植があるとその箇所が浮き上がって見えるんです。

――今でもやっぱり書くよりは読むほうがお好きですか?

池:今は書くことも好きです。

――書評の仕事については?

池:食べ物の味を人に説明するのって難しいですよね。基本的にはおいしいかまずいかの二つ。同じように、本も大きくいえば面白いか面白くないかなんだけど、そこに個々人の趣味や人生が反映されて、それぞれの好みや評価ができてくる。ただ、「食べたことはないけどおいしそう」と思っている人に対して、「こういう味なんだよ」って伝えることはできますよね。

――うまく伝われば、相手は「食べたい」と思いますね。

池:それは本についても同じだと思うんです。「読んだことないけど興味あるな」という人に向けて、「この本のここが面白いよ」と伝える。そこですこしでも引っかるものがあれば、相手に興味を持ってもらえます。そのために言葉を練り上げてきちんと読者に届けるのが書評の仕事。この仕事はとても好きです。

――本を読むことが仕事になるという意味で書評は天職では?

池:かなり偏ってますけど(笑)。でも最初からまんべんなくいろんな本を紹介するスタンスではなかったし、自分の好きなものがはっきりあって、その「好きなエネルギー」だけで突っ走ってきたので、これはこれでいいのかなと。今はそう思っています。

――ありがとうございました。

2014年2月9日 於・本の雑誌社

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