『ONCE UPON A TIME』

著者:椎名誠

定価3,300円(税込)

2006年11月6日発売

 
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 自分で撮った写真はそれぞれに伝えたいいくつかのメッセージがある。言葉を知らない者同士でも写真を通して何かを理解し合うこともできる。楽しいこと、悲しいこと、ゆったりすること、いきり立つこと、沸き立つようなこと、しみじみすること、ぼんやり放心するようなことなどなどの感情は、文字の情報のまるでない一枚の写真だけの世界でも十分に伝えられる。そういう思いを込めた写真によって、全体で何かをつたえていくという写真集なんていうのを作れたらなあ、と思うようになった。

 アメリカに住んではいるのだが、最近ぼくに孫ができたのもその考えに深くかかわってきたようだ。自分が見てきた世界を別な国で成長している小さな少年におじいちゃんの夜物語のように伝えてみるのもいいかなあ、そんなことをウイスキーを飲みながらぼんやり考えていたら、翌日には事務所に行ってこれまでの自分の写真集や、プリントしたばかりの写真をひろげて眺めていた。写真を本格的に撮り始めて三十年近くになるが、撮ってきたのは圧倒的にモノクロ写真で、それも世界中の風景で出会った人や動物、自然現象(雲や雨など)、たどり着いたばかりであまりよく知らない異国の人の生活などが多い。それらをある気分で集約していくと、なんとなく自分がその当初に思い描いたような世界が出来てくるのがわかった。

 そこでいよいよ面白くなり、それらの写真を分類し、組み写真の方法で整理していった。するとなんとなくそれらの写真がいくつかの物語を作っているような気がした。これを自分で編集して一冊の本にしようか、とそのとき思ったのである。

(「本の雑誌」 2006年8月号より)

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