『はるか南の海のかなたに愉快な本の大陸がある』

墨瓦蝋泥加書誌(ブックス・メガラニカ)

著者:宮田珠己

定価1680円(税込)

2012年5月21日発売

宮田珠己がおくる脱力エッセイ的ブックガイド

 
笑ってごめん!
学術本──それはエンターテインメントの宝庫だった!
日本史、世界史から、民俗学に地誌学、はては宇宙論まで
真剣なのになぜか楽しい、ボケてないのに面白い。


<はじめに>

 墨瓦蝋泥加(メガラニカ)というのは、西洋において古くから南半球に実在すると信じられていた巨大な大陸の名前で、十七世紀初頭に中国で刊行されたマテオ・リッチの『坤輿万国全図』に描かれ、その後日本で作られた多くの世界図にも転載された。結局そんな大陸はなかったのだが、まあ、オーストラリアや南極大陸がそれと言えないこともなく、その意味では、あったようななかったような大陸である。
 このメガラニカにならい、幻想であれ史実であれ、そんな世界があったのか、とエキゾチックな嗜好を満たしてくれる本を、個人的にメガラニカ本とジャンルづけることにした。そしてそんなメガラニカ本のなかから、とくに気になったものを「本の雑誌」誌上で取り上げ、紹介してきた。ここに収録した文章は、それに加筆・修正を施したものである。
 わざわざ言うまでもないとは思うが、同じ大陸でもムーとは違うことは、念のため断っておきたい。ムーが多くの信者とともに超自然方面へ飛んでいくのに対し、メガラニカは、かっこよく言えば、地理学や歴史学、民族学、あるいは民俗学、博物学、さらに文化人類学などの周辺をうろうろするのである。といっても、あくまで周辺をうろうろするだけなので、学術的に突っ込んだ話が出てくるわけではない。難しい話は苦手だ。
 それよりも、はるか南の海の彼方の、幻の大陸を旅するような、そのとき目に飛び込んできたふしぎな景色に驚くような、そんな気分で書いていった。
 読んでいただいた人も、同じように旅する気分になれたなら、それはメガラニカが実在する何よりの証拠である。もちろん超自然方面ではなく、心の中に実在するのだ。

宮田珠己


<目次>
『インドの不思議』の魅惑的嘘八百──ブズルク・イブン・シャフリヤール『インドの不思議』
中野美代子の奇妙な図像たち──中野美代子『奇景の図像学』
ジパングは日本じゃなかった!?──的場節子『ジパングと日本』
自殺のような旅行のような補陀落渡海の謎──根井浄『観音浄土に船出した人びと』
木に子羊がなるって本当?──ベルトルト・ラウファー、ヘンリー・リー『スキタイの子羊』
青いスープに浸ったアボリジニのふしぎな世界──ロバート・ローラー『アボリジニの世界』
昔の道の意外な風景──榎原雅治『中世の東海道をゆく』
おかしくも切ないちょんまげヨハネ像──中城忠『かくれキリシタンの聖画』
八犬伝はこじつけが楽しい──高田衛『完本  八犬伝の世界』
妄想・性癖ごちゃまぜの素敵にアホなアフリカ報告──ミシェル・レリス『幻のアフリカ』
平田篤胤もコロリとまいった奇想天外仙境譚──平田篤胤『仙境異聞・勝五郎再生記聞』
珍妙ブームの元祖!?  ピエール・ロチの日本旅行記──ピエール・ロチ『秋の日本』
ちゅど〜ん!連発の東西中世性愛事情──阿部謹也『西洋中世の男と女』赤松啓介『夜這いの民俗学・夜這いの性愛論』
ナチスへの反逆は男女いっしょのテント旅行だった!?──原田一美『ナチ独裁下の子どもたち』
日本全国そこらじゅうタヒチ──岡谷公二『島の精神誌』
旅そのものについて考える二冊の本──アラン・ド・ボトン『旅する哲学』ヴィクトル・セガレン『〈エグゾティスム〉に関する試論/覊旅』
宇宙はウチワサボテンだった!?──ミチオ・カク『パラレルワールド』
四国遍路でバンジージャンプを──五来重『四国遍路の寺』
嘘っぱち大行進の中世ヨーロッパが楽しい!──ゲルウァシウス『西洋中世奇譚集成 皇帝の閑暇』逸名作家『西洋中世奇譚集成 東方の驚異』
常識がひっくり返る中世借金事情──井原今朝男『中世の借金事情』
素朴? 情報操作? 新大陸の愉快な絵──キム・スローン『英国人が見た新世界』
ニューギニアで起こった現代のタイムマシン事件──野田正彰『狂気の起源をもとめて』
富士塚=穴だらけのミニチュアの山──有坂蓉子『ご近所富士山の「謎」 』
非常識てんこ盛りの深海世界──藤倉克則・奥谷喬司・丸山正編著『潜水調査船が観た深海生物』
風景を味わいつくす立体読書の魅力──坂口恭平『TOKYO一坪遺産』
最悪の仕事から動物裁判までわけがわからんヨーロッパ──トニー・ロビンソン『図説「最悪」の仕事の歴史』
ジャイルズが描く驚くべき白人奴隷の物語──ジャイルズ・ミルトン『奴隷になったイギリス人の物語』
なんかダメだったんじゃ?  な武士の実態──佐伯真一『戦場の精神史』
本居宣長の一大ファンタジー地図──上杉和央『江戸知識人と地図』
わからないから面白い大湿原のアマゾン文明──実松克義『アマゾン文明の研究』
忽然と消えたオホーツク人の謎──菊池俊彦『オホーツクの古代史』
のらりくらりとタイモン・スクリーチ──タイモン・スクリーチ『春画  片手で読む江戸の絵』
「お天道さま」で読む戦国時代──神田千里『宗教で読む戦国時代』
西洋人が見た間違ってる日本が素敵だ!──クレインス・フレデリック『十七世紀のオランダ人が見た日本』
地獄の受付嬢"奪衣婆"を追え──中野純『庶民に愛された地獄信仰の謎』
どうしても言葉で説明できない奇跡的名著──河本英夫『メタモルフォーゼ』
大魔境の風俗を描く江戸時代のルポ──鈴木牧之『秋山記行』
魅惑的ヘタヘタ絵の世界──矢島新『日本の素朴絵』
大胆仮説で読ませる鈴木理生の本──鈴木理生『お世継ぎのつくりかた』 
存在しない島の地図──長谷川亮一『地図から消えた島々』
石が私を呼んでいる!──須田郡司『日本石巡礼』
おそるべしヘンな植物の世界──日野巌『植物怪異伝説新考』
生活者の圧倒的な記録『炭鉱に生きる』──山本作兵衛『画文集  炭鉱に生きる』
地図だけで語る異世界ファンタジー──ル=グウィン『西のはての年代記』シリーズ
補 紹介しきれなかった墨瓦蝋泥加書ベスト10

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