『ROADSIDE BOOKS』

書評2006-2014

著者:都築響一

定価2160円(税込)

2014年6月23日発売

こころがかゆいときに読んでください

 

たくさん読むから偉いんじゃない

速く読むから賢いんじゃない

──80冊の本、80とおりの転がりかた

【目次】
まえがき
本をつくる
本を読む
人を読む
イメージを読む
本棚が、いらなくなる日
自著解題1989-2013
初出一覧


<まえがき>
「また『ロードサイド』かよ」という声が聞こえてきそうな本書『ロードサイド・ブックス』は、二〇〇八年に発表した『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』に続く、二冊めの書評集である。

 収録された書評というか記事は約八十冊ぶん。こうして一冊にまとまったものを読み返してみると、いろいろな思いがこみ上げてくる。
 前書以降、僕にとっていちばんの変化、それは活字の仕事がほとんどなくなったことだ。巻末の初出リストを見てもらえばわかるように、今回の八十冊のうち、雑誌や新聞のために書いた記事は三十ほど。半分以下だし、そのほとんどは紀伊國屋書店の広報誌「scripta」で長くやらせてもらっている連載だから、まあ大半がウェブ・メディアのための原稿で、それもほとんどすべて二〇一二年一月から始めた自分の有料週刊メールマガジン『ロードサイダーズ・ウィークリー』と、その前身である無料ブログ『ロードサイド・ダイアリーズ』に書いたもの。つまり出版社から依頼された仕事がほとんどない!という驚愕の事実が、ここに明らかになった......って、仕事もらえなくなっただけじゃないですか!
 それが長く続く出版不況のせいなのか、書評担当編集者に嫌われるようになったのか、原因はわからない、というかわかりたくない。たぶん、その両方なのだろう。でも日曜日の新聞の書評面や、雑誌のうしろのほうに申し訳ていどに載っかってる「書評」に、もうほとんど心動かされなくなったのも事実だ。新刊書の情報はいまや印刷メディアではなく、Amazonからの「都築響一さん、こんな本が......」みたいなお知らせや、いろんなツイートやFacebookの書き込みから得るほうが圧倒的に多くなったのは、みなさんも同じかと思う。
 メールマガジンを購読していただいている方々はおわかりだろうが、ウェブには基本的に分量の制約がない。一万字、二万字の著者インタビューだって、図版を百点掲載するのだって、音声や動画を組み合わせるのだって可能だ。そういうスタイルに慣れてしまったいま、いったい八百字とか千二百字とかで、著者が心血注いだ作品を、どう語れというのだろう。前書にはそんな短い紹介記事がたくさん載っていたが、いまはもうそういう記事は、書こうと思っても書けない。依頼もないが。
 二十代の初めに雑誌の編集部に飛び込んで、もうすぐ編集者生活四十年になるいま、僕のような人間ですら(というと不遜な言い方になるが)、これだけ仕事がない、ちゃんと書ける場が自分のメルマガしかないという現状には呆然とするしかないし、いったい若手の同業者はどうやって生活できているんだろうと心配にもなるが、まあ本心ではあんまり呆然も心配もしていないというか、しているヒマがない。
 毎週毎週、容赦なくやってくるメルマガの締め切りのために、どこに行くにもノートパソコンを背負って、Wi-Fiでネットにつないで、寸暇も惜しんで書きまくる日々がもう二年半も続いていて、それはたしかに大変ではあるけれど、苦しくはない。苦労ではあるけれど、ストレスではない。書きたいことを書きたいだけ書けて、それを道端の産直野菜コーナーみたいに直接、読者に買ってもらって、そのお金でまた取材に出かける。深夜まで飲みながら編集者のご機嫌とったり、おしゃれなデザインにあわせてむりやり文章や図版を削ったりしてるより、はるかに健全に思えてくる。
 印刷メディアの世界では、小出版社は大出版社にぜったいかなわない。僕の手作り本を置いてくれる本屋は十軒ぐらいだろうが、大手の出版社で作った本が流通に乗れば、日本中の本屋に行きわたる。自費だったら六十四ページとかが精一杯でも、出版社がウンと言ってくれたら六百四十ページの本だって可能だ。
 でもウェブ・メディアはちがう。巨大出版社の総合誌と、僕の細々としたメルマガでは、予算は一万倍どころか百万倍ぐらいちがうけれど、そういうメジャー誌をウェブで読むときに、僕のメルマガと較べてモニターが百万倍大きくなるわけでも、解像度が百万倍高くなるわけでもない。音楽配信でも映像配信でもそれは同じこと、ウェブには送り手のスケールメリットを完全に無力化してしまうという、素晴らしい特性がある。有名だろうが無名だろうが関係ない。おもしろければ、ひとはアクセスし、情報は拡散する。つまらなければ、捨てられる。それだけだ。
 多くのひとがそうだろうが、僕も原稿は百%ワープロソフトで書く。それをウェブに乗せて発表する。ということは完全に横書きの世界に生きている。それがこうして書籍という形態に落とし込まれて、初めて縦書きに組み直されて現れるのは、僕にとって少なからぬ違和感と、新鮮さが入り混じった感覚だ。ウェブで書いて、まとまったら本にするというやりかたが、これからもしばらくは続くはずなので、それはこういう感覚と折り合いをつけながら進んでいく、ということでもあるのだろう。
 繰り返しになるが、本書に収められた原稿の多くは、メールマガジンという媒体だからこそ実現できたボリュームだ。書籍化する時点でほとんどの図版をカットせざるを得なかったが、「すぐ書いて、すぐ読んでもらって、すぐ次に行く」というこの新しいスタイルは、僕のささやかな編集者人生で辿り着いたひとつの到達点であるし、現在進行形の挑戦でもある。
 本書の文中からそのエネルギーを少しでも感じ取っていただけて、メールマガジンにも目を向けていただけたらうれしいし、僕はさらに遠くに行けるだろう。

都築響一

週刊メールマガジン「ROADSIDERS' weekly」(http://www.roadsiders.com/

 

「ROADSIDE BOOKS 書評2006-2014」に登場する書籍


「モスクワ・ローリングストーンズ・ファンクラブ会報」
大竹伸朗『ドクメンタ13 マテリアルズ』(エディションノルト)
渡部雄吉『張り込み日記』(ROSHIN BOOKS)
『エロ写植』(arcobooks)
坂本秀童子『謄写技法1 ガリ版刷春本編』(坂本謄写堂)
edited by J.Rose&C.Texier「Between C&D」
小出由紀子・都築響一編『HENRY DARGER`S ROOM』(インペリアルプレス)
collected by Dave Walker& Richard S.Ehrlich『Hello My Big Big Honey!』(Dragon Dance Publications)
丹道夫『らせん階段一代記』(講談社サービスセンター)
太田宏人『知られざる日本人』(オークラ出版)
マーク・ロビンソン『izakaya THE JAPANESE PUB COOKBOOK』(講談社インターナショナル)
栗原亨、酒井竜次、鹿取茂雄、三五繭夢ほか『ニッポンの廃墟』(インディヴィジョン)・舟橋蔵人監修『1コイン廃墟ブックレット特別版 消えゆくニッポンの秘宝館 秘宝館を世界遺産に!』(八画出版部)
『銀座社交料飲協会八十年史 銀座 酒と酒場のものがたり』(銀座社交料飲協会)
田中忠三郎『田中コレクションⅡ サキオリから裂織へ』(民俗民具研究所)
廖亦武『中国低層訪談録 インタビュー どん底の世界』(劉燕子訳、集広舎)
鈴木則文『トラック野郎風雲録』(国書刊行会)
鈴木則文、宮崎靖男、小川晋編著『別冊映画秘宝 映画『トラック野郎』大全集』(洋泉社)
「任俠手帳2010」(「月刊 実話ドキュメント」2010年2月号別冊付録、竹書房)
『昭和の「性生活報告」アーカイブ』(サン出版)
紡木たく『ホットロード~十代の光と影~』(集英社)
仲村ゆうじ著、歌の手帖編『歌謡・演歌・ナツメロ ナレーション大全集』(マガジンランド)
財界さっぽろ編集局編『リアルタイム「北海道の50年」すすきの風俗編』(財界さっぽろ)
湯浅学『音楽が降りてくる』・『音楽を迎えにゆく』(河出書房新社)
仙台市教育委員会監修、仙台・宮城ミュージアムアライアンス(SMMA)編『せんだいノート ミュージアムって何だろう?』(財団法人 仙台市市民文化事業団発行/三樹書房発売)
死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90編『死刑囚90人 とどきますか、獄中からの声』(インパクト出版会)
浅川マキ『ロング・グッドバイ 浅川マキの世界』(白夜書房)
東理夫『アメリカは歌う。歌に秘められたアメリカの謎』(作品社)
ジョウ・シュン、フランチェスカ・タロッコ『カラオケ化する世界』(松田和也訳、青土社)
土田世紀『俺節』(太田出版)
清野とおる『東京都北区赤羽』(Bbmfマガジン)
辛酸なめ子『セレブマニア』(ぶんか社)
東陽片岡『レッツゴー!!おスナック』(青林工藝舎)
玉袋筋太郎『絶滅危惧種見聞録』(廣済堂)
上田義彦、ホンマタカシ、佐内正史、川内倫子ほか『123456789101112131415161718192021222324』(日経BP社)
横尾忠則編『憂魂、高倉健』(国書刊行会)
大月京子『ラブホテル裏物語 女性従業員が見た『密室の中の愛』』(文藝春秋)
「ワンダーJAPAN」(三才ブックス)
根本敬『果因果因果因』(平凡社)
「LB中洲通信」(リンドバーグ)
ジェームズ・P・ブレアほか『ナショナル ジオグラフィック プロの撮り方 完全マスター』(武田正紀ほか訳、日経ナショナル ジオグラフィック社)
西永奨『電子顕微鏡で見るミクロの世界』(ニュートンプレス)
戌井昭人『まずいスープ』(新潮社)
村上春樹『村上春樹 雑文集』(新潮社)
大竹伸朗『ビ』(新潮社)
ジョン・クラカワー『荒野へ』(佐宗鈴夫訳、集英社文庫)・田中小実昌『田中小実昌エッセイ・コレクション2 旅』(ちくま文庫)・宮本常一「土佐源氏」(『忘れられた日本人』収録、岩波文庫)
小松崎茂『ウルトラマン紙芝居 小松崎茂Complete Box』(復刊ドットコム)
篠山紀信『NUDE BY KISHIN』(朝日出版社)
細江英公『創世記 若き日の芸術家たち』(国書刊行会)
『梅佳代展図録』(産経新聞社発行)
『記憶の島 岡本太郎と宮本常一が撮った日本展図録』(川崎市岡本太郎美術館)
キース・ヘイリング『エイト・ボール』(京都書院)
森田一朗『サーカス』(筑摩書房)
Jon Rafman『The Nine Eyes of Google Street View』(JEAN BOÎTE Éditions)
Danielle Tamagni『Gentlemen of Bacongo』i(Trolley Press)
初沢亜利『隣人。 38度線の北』(徳間書店)
Anton Kusters『ODO YAKUZA TOKYO』(ZABROZAS)
Collection of Titus Riedl, Edited by Martin Parr『Retratos Pintados』(Nazraeli Press)
会田誠監修、モデル・ほしのあすか『少女ポーズ大全』(コスミック出版)
うしじまいい肉『うしじまいい肉写真集』(一迅社)
JIMMY PANTERA『Los Tigres del Ring』(ANKAMA EDITIONS)
山口〝Gucci〟佳宏、鈴木啓之『昭和のレコードデザイン集』(Pヴァイン・ブックス発行/スペースシャワーネットワーク発売)
下町レトロに首っ丈の会編『おかんアート』
シャルル・フレジェ『ワイルドマン』(青幻舎)
岩瀬禎之『海女の群像 千葉・岩和田 1931-1964(新装改訂版)』(彩流社)
木股忠明『アラスカ』(青林堂)
木下裕史『スペクター 1974-1978』(ミリオン出版)
Timothy Archibald『ECHOLILIA』(Echo Press)
杉浦貴美子『壁の本』(洋泉社)
川本史織『堕落部屋』(グラフィック社)
池本喜巳『池本喜巳写真集 近世店屋考』(合同印刷)
「建築写真文庫」シリーズ(彰国社)
迫川尚子『新宿ダンボール村』(DU BOOKS)
本橋成一『上野駅の幕間』(平凡社)
本橋成一『サーカスの時間』(河出書房新社)
小沢昭一『昭和の肖像〈町〉』(筑摩書房)
小沢昭一『昭和の肖像〈芸〉』(筑摩書房)

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