
作家の読書道 第88回:小川糸さん
昨年デビュー作『食堂かたつむり』が大ベストセラーとなり、大注目された小川糸さん。なんとも穏やかな雰囲気を持つ小川さん、幼い頃から書くことが大好きで、お料理が好きで、作詞家としても活動して…ということから連想するイメージとはまた異なり、作家になるまでの道のりはかなり波瀾万丈だった様子。その時々に読んでいた本と合わせて、その来し方もじっくりと聞かせていただきました。
その1「読むより書くのが好き」 (1/6)
- 『ぐりとぐら [ぐりとぐらの絵本] (こどものとも傑作集)』
- なかがわ りえこ
- 福音館書店
- 864円(税込)
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- 『はじめてのおるすばん (母と子の絵本 1)』
- しみず みちを
- 岩崎書店
- 1,188円(税込)
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- 『だんまりうさぎ (新しい幼年創作童話(15))』
- 安房 直子
- 偕成社
- 1,080円(税込)
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――幼い頃の読書の思い出を教えてください。
小川 : あまり家の中に絵本はなかったのですが、隣に同世代の子がいたので、その子のうちで『ぐりとぐら』や『ねずみくんのチョッキ』といった絵本のページをめくっていた覚えがあります。何年か前に絵本を書くことになった時に、どんな作品があるのか本屋さんで見ていて、「あれっ、これ知っているな」と思ったのが『はじめてのおるすばん』。開いてみたら、幼い頃に家にあって、繰り返し繰り返し読んでいたことを思い出しました。女の子がくまのぬいぐるみと留守番をしていて、郵便配達か何かがきて怖い思いをして...という内容。最後にお母さんがプリンを買ってきてくれるんですが、そのプリンがすごく美味しそうでした(笑)。
――絵本って、食べ物が美味しそうなんですよね。
小川 : 『ぐりとぐら』もそうですが、食べ物の印象って強烈に残りますよね。そういうところから、のちのち自分が食べ物好きになっていったのかなあって思います。
――そこに小川さんの原点が(笑)。ところで生まれ育ったのはどちらですか。
小川 : 山形です。山形市なので、小さい自然はあるけれど山があるわけでもなく、野山を駆け回るわけではなかったですね。結構ぬいぐるみと一緒に、一人遊びしているような子供でした。
――小学校に入ってからの読書傾向は。
小川 : 読書感想文を書くのが好きだったんです。小学校1年生の時に『だんまりうさぎ』という本について書いたことだけは覚えていて、最近になってどんな本だったのか読み返してみたら、やっぱり食べ物が出てきました(笑)。寡黙なうさぎとお喋りなうさぎが仲良くなっていくお話で、うさぎが自分で畑で野菜を育てて食べていました。
――読む本はどう選んでいたんですか。
小川 : 図書館にも行っていましたが、読んでいたのはたいてい読書感想文を書くための課題図書だったと思います。小学校の頃に読んでいた本って、あまり覚えていないですね。実際、それほど読んでいないのかもしれません。毎日学校に日記を提出していたんですが、読むことより書くことのほうが好きでした。
――日記や読書感想文。物語や詩まではいかなかったのでしょうか。
小川 : 小学校1、2年生くらいの日記だと普通は「今日は~しました」と書くのでしょうけれど、私は詩のような、現実離れしたものも書いていました。
――今日は雲の上を歩いた、のような?
小川 : そうです、そうです(笑)。ファンタジーみたいなものです。それは思うに、家に本がなくて、身近でも借りられなかった頃に、自分で話を書いて自分を喜ばせていたようなものだと思うんです。頭の中で想像して楽しんでいたんですね。
――書いていたものって、とってありますか。
小川 : ちょうど今、実家から取り寄せているところなんです(笑)。先日山形でサイン会をした時、小学校や中学校の先生も来てくださって。私が書いた作文も持ってきてくださったんです。たぶん当時は手書きだったものを、ワープロで打ち直して。でもそれは、ガッカリするくらい普通の作文でした。読んで「あららら...」みたいな(笑)。そういえば昔の日記を母が整理してくれて、電話をかけてきた時に母は褒めているつもりらしいんですけれど「今と全然変わらないわよ!」って。小学校2年生の頃の作文が「今と変わらない」って。これもガッカリしました(笑)。でも、当時から文章を書くのは好きだったんだと思います。書いて提出すると先生がコメントをくれる。それで褒められるか「こんなのでは...」と言われるのかによっても違ったと思います。褒められると、また書いていこう、という気になりますから。その頃の経験は大事ですね。