第88回:小川糸さん

作家の読書道 第88回:小川糸さん

昨年デビュー作『食堂かたつむり』が大ベストセラーとなり、大注目された小川糸さん。なんとも穏やかな雰囲気を持つ小川さん、幼い頃から書くことが大好きで、お料理が好きで、作詞家としても活動して…ということから連想するイメージとはまた異なり、作家になるまでの道のりはかなり波瀾万丈だった様子。その時々に読んでいた本と合わせて、その来し方もじっくりと聞かせていただきました。

その2「将来の夢はコラムニスト」 (2/6)

はてしない物語 (エンデの傑作ファンタジー)
『はてしない物語 (エンデの傑作ファンタジー)』
ミヒャエル・エンデ
岩波書店
3,089円(税込)
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モモ―時間どろぼうとぬすまれた時間を人間にかえしてくれた女の子のふしぎな物語 (岩波少年少女の本 37)
『モモ―時間どろぼうとぬすまれた時間を人間にかえしてくれた女の子のふしぎな物語 (岩波少年少女の本 37)』
ミヒャエル・エンデ
岩波書店
1,836円(税込)
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星の王子さま―オリジナル版
『星の王子さま―オリジナル版』
サン=テグジュペリ
岩波書店
1,080円(税込)
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母は枯葉剤を浴びた―ダイオキシンの傷あと (新潮文庫)
『母は枯葉剤を浴びた―ダイオキシンの傷あと (新潮文庫)』
中村 梧郎
新潮社
761円(税込)
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――中学校はいかがでしたか。

小川 : 中学1年の時にこれもやっぱり読書感想文を書くためですが、『はてしない物語』を読んだんです。お話自体がそういう内容ですが、自分が物語の中に入っていくという経験を初めてしました。文章が流れてくる感じがしたんです。本を読んでいる時間が夢を見ているようで、そのことにすごく驚きました。その時に書いた読書感想文は全国のコンクールで賞をいただきました。

――すごい!

小川 : その後は同じエンデ作品の『モモ』とか、あとは『星の王子さま』などを読みました。先日、知り合いの家に行ったら小学校5年生くらいの子供がいて、本棚には『はてしない物語』があって。こんな幼いうちに読む本だったんだ、と思いました(笑)。

――ちなみに2年、3年の読書感想文はどのようなものを。

小川 : 2年生では『母は枯れ葉剤を浴びた』で、これも衝撃的でした。3年生の時の本は覚えていないんです。

――その頃、将来は何になりたかったんでしょう。

小川 : ぼんやりとコラムニストになりたいと思っていて、それを先生に相談したら「そのためにはいい大学に入らないといけないから、いい高校に入りなさい」って。そういうちっぽけなアドバイスしかもらえませんでした(笑)。

――そこですか(笑)! それにしても、作家やジャーナリストではなくコラムニスト、というところが面白いですね。

小川 : 『天声人語』をまとめた本が出ていてうちにあったので、それを読んでいたんだと思います。

――さてそんなアドバイスを受けつつ進学しての高校時代は。

小川 : 本すら読んでいなかったかもしれません。野球部のマネージャーをしていました。学校にあまり行きたくなくて、でも行かないといろいろ面倒なので、じゃあいやでも学校に行くように、学校と結びつきのあることをしよう、しかも厳しそうなところがいい、と思ったんです。でも学校の図書室にいるのは好きでした。本に囲まれている状態が好きで、図書室でぼんやりしたり、棚の間をうろうろしたり。たまに、おやっと思うタイトルのものがあればパラパラめくってみたり。学校以外でも、図書館は勉強しに行くところだったので、よく通っていました。

――あえて厳しいところを選んだということですが、実際厳しかったのでは。

小川 : きつかったです(笑)。でも、行かないことのほうが、周囲に説明しなくてはいけなかったりして面倒くさい。部活をやっていれば、それで放課後がつぶれるし、家に帰ってからも、くたくたで何も考えずに寝てしまうのでいいかな、と思っていました。

――そんなに学校が好きではなかったんですか。

小川 : みんながすごく勉強しているんです、がむしゃらに。地方の進学校だったんですけれど、なんでそこまでやるのかなと単純に不思議な気がしていました。不得意な教科なんかは本当に分からなくて。授業も何を言っているのか分からない。それが無駄だなって思っていたんです。自分の意志で芸術関係の学校に進学していたら、この3年間を無駄にせずにすんだのになって思っていました。

» その3「大学の専攻は古代文学」へ