第121回:恒川光太郎さん

作家の読書道 第121回:恒川光太郎さん

独特の幻想的・民話的な世界観の中で、豊かなイマジネーションを広げていく作風が魅力の恒川光太郎さん。新作『金色の獣、彼方に向かう』もダークファンタジーの味わいと神話的な厳かな空気の混じった連作集。その読書歴はというと、やはりSFやファンタジーもお好きだった模様。沖縄移住の話やデビューの話なども絡めておうかがいしました。

その4「新作『金色の獣、彼方に向かう』など (4/4)

金色の獣、彼方に向かう
『金色の獣、彼方に向かう』
恒川 光太郎
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別冊 文藝春秋 2011年 11月号 [雑誌]
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――1日のサイクルは。

恒川:最近、早起きができるようになりました。赤ちゃんができて、朝起こしにくるので。でも小説を書くのは今でも夜です。朝起こされて、日中は出かけて、夕ご飯の後に書きます。今は育児もあるので時間がなくて...。男の子なんですが、先月1歳になったところです。引き出しをあけて物を出したりと、いたずらをするようになったので目を離せなくて。

――ああ、じゃあもうちょっと大きくなったら一緒に虫捕りに行けますね。

恒川:それがですね、僕はもう昆虫が嫌いな人間になってしまったんです。昔は標本セットを買ってこれで虫をつかまえるんだ、なんて思っていたのに。今はあの足とかお腹を見るだけで、嫌な気持ちに...。

――えええー! イモリとかはどうですか。

恒川:小2の時にはイモリを愛していたんです。毎日キスをするくらい。今はペットショップで買ってきた自分のイモリだったらどうか分かりませんが、そのへんにいるイモリをぎゅーっと抱きしめられるかというと...できないです。でも、虫でもカブトムシやクワガタなら大丈夫だと思います。昔自分にとってのヒーローだった虫なら大丈夫。

――新作の『金色の獣、彼方に向かう』でも、ルークと名付けられたイタチのような不思議な獣が出てきますよね。非常に魅力的な獣でしたが、哺乳類はどうですか。

恒川:大好きです。これを書いていた頃はイタチが好きだったんです。ペットが飼えない家だったので、ペットに対する憧れがありますね。ネットでペットの動画をずーっと見ていたりします。フェレットや犬がすごく可愛い。最近は鳥も可愛いですね。鳥にも心があることを知ったんですよ。動画を見ていると、求愛ダンスをしているのに飼い主が無視すると、ツンツンして気を引いたり、すねたりするんです。飼い主の感情に左右されるのを見て、犬のようだなと思いました。

――イタチが好きだったから金色の獣、ルークが登場したのですか...。今回の本は連作のようになっていて、最初は元寇の頃の博多も出てきますね。そこからさまざまな不思議なエピソードが連なっていく。

恒川:最後のルークが出てくる話を最初に書いたのですが、そのもととなる昔の話を書こうと思ったんです。それで、元が攻めてきた時に一緒に妖怪も渡ってきて、やがてイタチみたいな形をした獣になったことにしようと思いました。元寇となると博多が舞台になる。それで珍しく具体的な地名を出すことになったんです。地名でいうと稲光山という山が何編かに出てきますが、これは架空の山です。

――「風天孔参り」という短編に出てくる不思議な風の話などは、実際にどこかの地方で語り継がれていそうな気がします。

恒川:民話などを読んで書こうと思ったことはないんですが、それっぽいものを書くと「それっぽいものが民話にあります」と言われることはありますね。風天孔も元寇の話の延長で書いただけなんです。かまいたちなんかは普通に誰もが知っているものとしてありますけれど。

――これまでの『南の子供が夜行くところ』などは南洋の島が舞台となっていますが、あれもモデルがあるわけではなかったのですか。

恒川:あれも架空の島ですね。いつも書く時は、こういう話を書きたいなという妄想ストックがあって、そこから掬いあげていく感じです。南の島のことが書きたいなとか、元寇のことが書きたいなとか、森のレストランのことが書きたいなと思っているものがずっとあったという感じですね。

――恒川さんの小説はホラーといっても、恐怖で驚かせるタイプのものではなく民話的であったり、幻想性の強いものだったりする印象です。

恒川:書きたくて書いていると、そうなってくるんです。ただ、短編を集めて単行本にする時に、ひとつだけ違う話がまじるのはどうなのかなと思うので、まったく幻想的でないものは書いていないということはあります。でも最近、書くものがだんだんグロテスクで怖いものになってきている気がします。

――今は江戸時代が舞台のものを書いているそうですが。

恒川:『別冊文藝春秋』で長編を執筆中です。江戸時代にロボットが出てくる話です。これまでと相当違う話ですね。宇宙から来たロボットをみんなが神様としてあがめているという。人間の善と悪について迫る内容です。タイトルは「金色機械」なんですが、今回タイトルに「金色」をいう言葉を使ったので「金色」が続くのもどうかと思うので、単行本を出す時は変えるかもしれません。来年の冬くらいには本にできたら、と思っています。

(了)