第128回:原田マハさん

作家の読書道 第128回:原田マハさん

アンリ・ルソーの名画の謎を明かすためにスイスの大邸宅で繰り広げられる知的駆け引きと、ある日記に潜んだルソーの謎。長年温めてきたテーマを扱った渾身の一作『楽園のカンヴァス』で山本周五郎賞を受賞、直木賞にもノミネートされて話題をさらった原田マハさん。アートにも造詣の深い著者が愛読してきた本とは? 情熱あふれる読書、そしてパワフルな“人生開拓能力”に圧倒されます!

その2「小説を書いたらいじめがやんだ」 (2/5)

でーれーガールズ
『でーれーガールズ』
原田マハ
祥伝社
1,512円(税込)
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よだかの星 (フォア文庫)
『よだかの星 (フォア文庫)』
宮沢 賢治
岩崎書店
605円(税込)
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午後の曳航 (新潮文庫)
『午後の曳航 (新潮文庫)』
三島 由紀夫
新潮社
464円(税込)
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小説現代 2012年 08月号 [雑誌]
『小説現代 2012年 08月号 [雑誌]』
講談社
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ドカベン (1) (少年チャンピオン・コミックス)
『ドカベン (1) (少年チャンピオン・コミックス)』
水島 新司
秋田書店
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ブラック・ジャック (1) (少年チャンピオン・コミックス)
『ブラック・ジャック (1) (少年チャンピオン・コミックス)』
手塚 治虫
秋田書店
453円(税込)
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マカロニほうれん荘 (1) (少年チャンピオン・コミックス)
『マカロニほうれん荘 (1) (少年チャンピオン・コミックス)』
鴨川 つばめ
秋田書店
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――岡山に引っ越して、環境が変わってからの生活はいかがでしたか。

原田:最初はいじめを受けたんです。標準語しか話せなかったので「あの子お嬢さんぶってるがー」って言われてました。『でーれーガールズ』にも似たようなことを書きましたが、なかなかなじめなくて孤立していた時期があったんです。その時にやったのが、宮沢賢治を読むことと、お話を書くこと。小学生の時に生まれてはじめて書いたお話が「青い花」と「しゅる」でした。青い花は東京で国語の時間に読んだ副読本を真似して書いたものだったんですが、それが学校でウケてしまって。その時に子どもながらに後悔して、じゃあ完全にオリジナルのものを書こうと思ったのが「しゅる」。そうしたらみんな「しゅる」のほうをより喜んでくれたので嬉しかったです。

――「しゅる」はどういうお話だったんですか。

原田:女の子と蛇の友情物語なんです。ある日女の子が山道で迷っていたら一匹の蛇が出てきて助けてくれて、友情が芽生える。蛇の名前が「しゅる」です。最後は「しゅる」が猟師に殺されてしまう。女の子は助けようとするけれど助けられなくて「ごめんよ」と謝るという、単純な話です。「青い花」や「しゅる」は、自由帳に書いて出したら先生が花丸をくれて、教室で朗読してくれたんです。それでクラスメイトもハッとなって、急に近づいてきてくれました。いじめっ子だった子たちも興味を持ってくれて、先生の仲介もあって仲直りできた。その頃の私は宮沢賢治に傾倒していて、賢治のように博愛主義、人道主義で生きようと思って、野菜しか食べなかったし、人に優しくしようと思って習字の時間に半紙を忘れた子がいたら「あげるよ!」なんて言っていましたね。まあ、親に怒られて3か月くらいで肉も食べるようになりましたが(笑)。宮沢賢治はいまだに大好きで、花巻にも何度も行きました。ほとんど全部読んで感動しましたが、いちばん好きなのは『よだかの星』。動物界からのけものにされているよだかが神様にお祈りして星になる。これも号泣して漫画化したんですよ、また自由帳に(笑)。どうやら感動すると何か別の表現におきかえないと気がすまないみたい。それも先生がクラス中の子にまわしてくれて、みんな喜んでくれて。読者がいるって楽しいんだということを小学6年生の時に知りました。

――中学生になってからは。

原田:小学6年生の時は賢治一色だったんですが、中学になるとずうとるびとかアグネス・チャンとか......アイドルにうつつをぬかしたのが中1の前半(笑)。その頃、兄は岡山の操山高校に通っていて、純文学を読み始めていたんです。大江健三郎とか、三島由紀夫とか、あとは安部公房とか。兄がいない間に部屋にしのびこんでみると本棚に大江健三郎がハードカバーで並んでいる。兄の同級生にのちにグラフィックデザイナーとなる原研哉さんがいて、彼らがときどき家に集まって文学の話をしていたんですね。私は隣の部屋にいたんですが、兄の部屋と私の部屋の境は磨りガラスになっていて、本棚が置いてあるので行き来はできないんですが声はよく聞こえる。文学の話をしている様子を「いいなあ」と思いながら漫画を描いていました。ある時兄が私の部屋に来て、「オレたち文学サークル作って、その名前を決めようと思うんだけど、ふたつ候補があってさ」、「ひとつは『麦』で、ひとつは『風』なんだけど、どっちがいいと思う?」って(笑)。当時「風」というフォークバンドがいたので「麦」のほうがいい、といったんですけれど、結局どうしたかは知りません。兄たちはかなりませた文学青年で、岡山の文化センターの前の「いりみて」という喫茶店に入り浸って、文学の話をしていましたね。連れて行ってもらったら、ジャズが流れて紫煙でもくもくとしていて、兄たちが「やっぱり安部公房はさあ」って話してる。悔しい! と思って、中2くらいから安部公房も大江健三郎もすごく読みました。でも理解できていなかったですね。後は自分でも大人の世界、ちょっとエロな世界を読んでみたいと思って三島由紀夫の『午後の曳航』とか、『シチリアの恋人』という、わりと官能的なイタリア文学を読みました。でも、なんだか大人の世界だなということだけ分かって、一体どういう場面なのか、まったく想像できませんでした(笑)。非常に背伸びした中学生でした。父が小説が好きで『小説新潮』や『小説現代』を買っていたので、それも盗み読みしていました。父は『詩とメルヘン』を定期購読してくれて、兄と交互に読んでいましたね。兄も私も、自分でも詩を書いていました。この頃は漫画や詩や文章など、自分でも何かしらいつも書いていましたね。

――漫画を読むのも好きでしたか。

原田:兄が少年漫画を、私が少女漫画を買ってお互いに交換して読んでいました。当時は『少年チャンピオン』が全盛でした。『ドカベン』や『ブラック・ジャック』や『マカロニほうれん荘』。手塚治虫さんが大好きでした。宮沢賢治の後はブラック・ジャックに惚れて、自分の恋人はブラック・ジャックだ、私も人のために生きる! と思った時期もありました(笑)。私が買っていたのは『りぼん』や『マーガレット』です。当時『りぼん』は「おとめちっく」漫画といわれて、陸奥A子さんや田渕由美子さんや太刀掛秀子さんがいて。陸奥さんが大好きでした。『マーガレット』では岩舘真理子さんの『ふたりの童話』やくらもちふさこさんの『赤いガラス窓』を読んで、こんな格好いい男の子がいるわけないと思いながら憧れていました。小学生の頃は将来漫画家になりたかったですね。中学生になると文章も書き始めていましたが、作家になりたいとは思っていなかったかな。

――映画は好きでしたか。

原田:小学2年生の時に『男はつらいよ』を観に、父が国分寺の映画館に連れていってくれたんです。もう、すっごく感動して、渥美清のポスターを買ってもらって、部屋に貼っていたんですよ。フォーリーブスとかのアイドルではなく渥美清が大好きな小学生でした(笑)。

――原田さんの『旅屋おかえり』は旅をする女性の話ですが、"平成版&女性版寅さん"っておっしゃっていましたものね(笑)。

原田:そうなんです。それで、これも小学生の頃だったと思うんですが、「おかしな夫婦」というテレビドラマで渥美清と十朱幸代が夫婦を演じていたんですが、これが棟方志功の話だったんです。それも大好きで、後に岡山の大原美術館に棟方志功のコレクションがあるのを見て、棟方ってこういう絵を描くんだ、と衝撃を受けました。私の中では渥美清と棟方志功と大原美術館が螺旋状態になっています。......と、話がそれましたが、映画を観て感動したのは『男がつらいよ』が最初だったと思います。あとは小6の時に父親が何を思ったか私と私の友人を『砂の器』に連れていってくれて。後半の親子が旅する回想シーンで号泣しましたね。それで松本清張の原作を読もうとしたんですが、2行で挫折しました。小学生には難しかったんです。中学生になった頃は、兄が『ジョニーは戦場に行った』なんかを観てはパンフレットを集めて、映画評も自分で書いていたので、そのファイルをこっそり引っ張り出しては盗み読みしていました。兄も私がこっそり見ることは分かっていて、影の読者として私のことを意識していたと思います。兄も私が描いていた漫画をこっそり見ていましたから、公然の秘密みたいなものでした。ただ、そうやって兄の後をおいかけていたんですけれど、私が中3の時に兄が大学で早稲田に入って家を出ていったので、兄の蔵書も一緒になくなってしまい、私も受験が始まったので小説はあまり読まなくなっていきました。

――高校生になってからの読書生活は。

原田:みなさんも読んだと思うんですが、太宰治や川端康成を全部読みましたん。15、6歳の頃は太宰一辺倒でした。数年前に、母校の山陽女子高校で図書委員の人たちが私を迎えてくれて、ミニトークイベントみたいなものをやったんです。そうしたら「今日はサプライズがあります、原田先輩!」と言われて何かと思ったら、私が昔書いた文章を朗読されたんです。太宰の『きりぎりす』の「おわかれ致します。」という冒頭を取り上げて「太宰の始め方の切り口は鋭い」みたいなことを書いていて。もう、死ぬほど恥ずかしくて「やめてー!!」って(笑)。ませていたんだなあと思いました。文章を書くのは好きで、いつだったか詩を書いたら先生が勝手に全国のコンクールに応募して二席か三席になったこともありました。その時の盾はいまだに実家にあります。

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