第144回:酒井順子さん

作家の読書道 第144回:酒井順子さん

高校生の頃からエッセイストとして活躍、女性の生き方から鉄道の旅についてまで、さまざまな切り口とユーモアのある文章で読者を楽しませてくれる酒井順子さん。最近では歌手生活40周年を迎えたあの人気アーティストが女性の生き方に影響を与えた『ユーミンの罪』が話題に。そんな酒井さんが好んで読む本とその読み方とは?

その3「ノンフィクションの読み方」 (3/5)

人間失格 (集英社文庫)
『人間失格 (集英社文庫)』
太宰 治
集英社
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ブリジット・ジョーンズの日記 (ヴィレッジブックス)
『ブリジット・ジョーンズの日記 (ヴィレッジブックス)』
ヘレン・フィールディング
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――会社を辞めた後の生活の変化は。

酒井:それまでできていなかった旅だの読書だのをやっとするようになりました。三島由紀夫をガンガン読むようになったのもその時期。遅れてきた青春みたいなものです。みんなが10代の頃に読むものをやっと読むようになりました。太宰治も読みました。『人間失格』のような有名どころはすでに読んでいて青臭い印象を持っていたんですが、それ以外のさまざまなものを読んだら、すごく面白く感じました。鉄道本の読み方も変わりました。宮脇俊三さんの本の通りに鉄道に乗ってみたりと、実用書として活用するようになりました。時刻表を活用するようになったのもこの頃です。旅先には松本清張を持っていったり。作品数が多いので、どこに土地にもご当地本があるので。あとは、ベストセラー本はそれなりに読んでいたと思います。吉本ばななさんも、『一杯のかけそば』も...。

――国内小説が多いのですね。海外小説とか、その他のジャンルは。

酒井:海外の小説はあまり読まないですね。でも"負け犬もの"の嚆矢ともいえる『ブリジット・ジョーンズの日記』には衝撃を受けました。あの本は、表紙が私を呼んでいた。他は、どちらかというとノンフィクションを読みますね。その時々に興味があることに即した本を読んでいることが多いかな。物語よりも事実のほうが好きなんです。いわゆる硬派のノンフィクションというよりは、自分が興味がある分野の資料になるような本。一冊読むとそこに参考文献などが載っているので、あとは芋づる式に読む本が見つかっていきます。

――そういう本を読むときは、メモをとったり線を引いたりするのですか。

酒井:ポストイット派です。3Mのいちばん小さいサイズのもの束を表紙の見返し部分に貼っておいて、気になるページに一枚ずつ貼っていきます。読む時にポストイットがないと気が狂いそうになります(笑)。たとえば数年後、必要になった時にその部分を読み返します。読みながらメモを取ったりするのはどうしても面倒でできない。それに、ページを折ったり書き込みをするのは嫌なんです。おばあちゃんっ子で「紙は大切にしなさい」と言われて育ったので、本というか紙を粗末にできない。本の上に何か置くということもできないし、新聞紙をまたぐことも駄目なんです。

――つい手が伸びるのはどんな本なんでしょうね。

酒井:エロ本はつい手を出してしまいますね。緊縛の歴史、みたいなものとか...(笑)。何に関しても"縛り"があるものが好きなのかなという気がします。性癖なんでしょうね、系統だっている気がします。車よりも鉄道が好きというのも、必ず時刻表に従って、線路の上だけで移動しなければならないという縛りがあるからです。服だったら制服が好きだし。三島由紀夫が好きなのも、彼が制服好きだからだと思います。演劇だったら歌舞伎が好きなのは型があるからですし。制約のなかで何かを解き放ち、発想していくのが好きみたいです。自分が自由な状態にあるだけに、縛られたいという欲求が、つねに...(笑)。辛い状況も好きなんですよね。そのほうが燃えるというか、頑張れるというのはあります。戦争ものの本の話に戻りますが、それも自分を可哀そうな戦争孤児に重ねて読んでいたと思うんです。

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