第159回:碧野圭さん

作家の読書道 第159回:碧野圭さん

ロングセラーとなっている『書店ガール』シリーズが原作のドラマ『戦う!書店ガール』がスタートしたばかりの碧野圭さん。幼稚園の頃から絵本より文字の本を好んで読んでいたという碧野さんが愛読してきた本とは? ライター、編集者としても活躍していた碧野さんが作家になったきっかけとは? 書店にまつわるエピソードももりだくさんの読書道となりました。

その6「『書店ガール』にこめた思い」 (6/6)

  • 書店ガール 2 最強のふたり (PHP文芸文庫)
  • 『書店ガール 2 最強のふたり (PHP文芸文庫)』
    碧野 圭
    PHP研究所
    720円(税込)
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――その頃はもう『ブックストア・ウォーズ』は書かれていたんですね。

碧野:もう書いていました。130軒回っている途中で、出版社から「版権はお返しします」と丁寧なお話がありました。文庫化はないということなので、どんより落ち込んでいた時に行ったのが盛岡のさわや書店で。さわや書店の松本大介さんと話していたら、すごく前向きな話をされたので元気が出てきたのを憶えています。さらに回っている最中に、名古屋の書評家の大矢博子さんが主催して、書店の方や出版関係の方を集めて開く会があったので参加したら、そこで吉川トリコさんにPHP研究所の横田充信さんを紹介されて。話をしたら、横田さんが私の本も全部読んでくださっていたので、『ブックストア・ウォーズ』のことを言ったら文庫化の話が進んで、タイトルを『書店ガール』にして文庫にすることになりました。

――そして大ヒットですよ、映像化ですよ。ドラマ『戦う!書店ガール』がスタートしたばかりです。書店の副店長の40代の理子と、正反対の性格の部下、20代の亜紀が最初は反発しあうものの、書店の危機に直面して変わっていく痛快な話です。これはもともと、書店の話を書こうと思っていたんですか。

碧野:最初は女性同士のバディものを書こうと思っていたんです。女の人同士って面倒くさいけれど何かがあると結託するよね、と思って。作品の舞台について化粧品会社やファッション関係も考えたけれど興味がないなと思っていた頃に、『辞めない理由』で書店まわりをしていたんです。横浜の駅ビルの書店が大きく展開してくださっているというので挨拶にいって、そのついでに飛び込みで地下の小さな書店に売り込みに行ったんです。私も編集者も慣れていなかったので一生懸命アピールしたら、女性の店員さんが「はい、はい」と聞いていたんですけれど、私たちがあまりにしつこかったんでしょうね、たまりかねたようで「おっしゃることは大変よく分かります。だけど、この場所は、新宿で言えば歌舞伎町のような繁華街に繋がるところにあるから、ビジネスウーマンはあまり来ないんですよ。だからここに置いても売れないんです。でも、そこの駅ビルの店は客層にあっているから平積みにして置いてあったでしょう」と言ったんです。それを聞いてすごく感心したんですよね。無名な作家の本なのにちゃんとどんな内容か分かっていて、他の店の展開も分かっている。「あ、できる書店員ってこういう人なんだ」って思ったんですよ。それで面白いなと思って、ちょうど考えていたバディものを書店でやってみることにしました。はっきり言って自分も本以上に興味のあるものはないから、これはいいなと思いました。

――文庫化の際、タイトルを変えるだけではなく、舞台となる場所を吉祥寺だと明確に打ち出して、実在の本の名前もどんどん入れていったんですよね。

碧野:単行本を出す時は、「作家の実名を出すと快く思わない人もいるのでそういうのは慎みましょう」という出版社の気配りで実名は全部外すことになったんです。場所もあまり特定しないほうが広がりがあるだろう、と。確かにエンターテインメントって下手にそういうものを入れると時代性が出てしまうので、出さないほうが正しいんだとは思います。でも気持ち的に最初から吉祥寺のつもりで書いていたので、文庫化の際にPHPに相談したら「全然いいですよ」と。実は『ブックストア・ウォーズ』を出した時に斎藤美奈子さんが書評を書いてくださって、「実名を出せばいいのに」っておっしゃってくださったんです。当時は大森さんにも原稿を見せていたんですが、大森さんも「出せばいいのに」と言ってくださった。それもあって、じゃあまあ、出してみようと思いました。

――実在する本の内容や、その本にまつわるエピソードもどんどん出てくるところが面白いですよ。どの場面でどういう本の名前を出すかは相当考えているんですか。

碧野:結構そこに時間がかかります。書店員さんがお店のフェアを考える時と同じ作業でやっていると思うんです。こういうテーマで、どういう本を置こうか、という。好きで選んだ本ももちろんありますが、ネットで内容をチェックして、評判も見て、これならよさそうと思うものを選んだり。経済書などは全然知識がないので、書店員さんに取材して少し教えてもらったりもしました。

――吉祥寺が念頭にあったのはどうしてですか。

碧野:小説を書く時に知らない街を舞台にするのはちょっと抵抗があるんです。大学が武蔵小金井だったので吉祥寺はわりと馴染がある都会でしたし、もうひとつ、『辞めない理由』を出した時にいちばん力になってくださったのがリブロの矢部潤子さんで、当時吉祥寺の店長をやっていらっしゃったんです。リブロ吉祥寺がいちばん売ってくださったお店だったので、リブロ吉祥寺のある街、ということで選びました。また、ペガサス書房という店名をつけたのは、執筆前にオリオン書房に三日間研修をさせていただいたので、その感謝をこめて。研修中は白川浩介さんにたいへんお世話になりました。

――当初、シリーズ化するつもりはなかったそうですが。

碧野:出し切ったと思って、もう書かないつもりだったんです。でも文庫になったら思った以上に書店員さんが推してくださって、そうすると嬉しくなっちゃったりして(笑)。横田さんに勧められたこともあり、じゃあ恩返しのつもりで2巻を書いてみようと思いました。内容的には、亜紀に関して「子供を産んだら仕事はどうなるのかな」という気持ちはあったので、そのあたりを2巻で書きました。

――そうしたら2巻でも終わらず...。

碧野:2巻を書いている時に『復興の書店』を読んだんです。130軒書店回りをした時に、東北で回ったのが仙台、岩手、福島で、その三箇所が震災の被害が大きいのでやっぱり気になって、震災の後に新幹線が通るのを待って見に行きました。某版元の営業さんが紹介してくださった宮古のリラパークこなりという書店の方が、田老町など津波の被害が大きかった場所を一緒に回ってくださったりもしました。東松島の図書館には広島のウィー東城店の佐藤友則店長と一緒に行きました。そうやっていろんな場所で話を聞きましたが、やはり作家だから話を聞かせてくれたと感じるんですよね。これはどこかで紹介しなきゃいけないなって思って、それで3巻はああいう形になりました。普通のエンターテインメントの中に書くことがよかったのか悪かったのか分からないけれども、私たちは震災後を生きているのだから、震災後の日常のなかの話として、さりげない形で書きたかった。でも、取材した方のなかには、やっぱり読むのは辛かった方もいるんじゃないかなと思って、それはなんとも言えないです。

――そして、5月にはいよいよ『書店ガール4』が出ますね。これはまた、新たな若手の女性二人が主要人物として登場しますね。

碧野:理子と亜紀はもう「ガール」じゃないじゃん、というツッコミは散々いただいたので「ガールの話も書いてみよう」って(笑)。というか、彼女たちは現場の書店員ではなくなっているので、もう一度現場の話を書きたいなと思いました。若い書店員さんたちが読んで「あ、こういうの分かる」と思ってもらえるような話を書きたかったんです。亜紀と理子の話は、もう1巻は書く必要があるだろうと思っているんですけれど、今はまだ頭の中は空白な感じです。

――では今後の刊行予定などは。

碧野:執筆予定としては、某社に日常のミステリみたいなものを「7月までには書きあげまーす」と言っているんですけれど、どうでしょう...(笑)。ミステリ的な要素は『書店ガール』にも入れているつもりではありますが、やっぱりエンターテインメントの王道としてミステリはちゃんと書いてみたいですね。それと、歴史的なものも書きたくはあるんですけれど、これは何年先になるか分からないですね。

――作家活動とは別に、小金井市を中心に活動する編集者ユニットを作って地域雑誌『き・まま』の発行もしてらっしゃいますよね。すごく丁寧に作られたきれいな冊子だなと思って。2号、4号には中田永一さんの短篇が載っていたりして、豪華。

碧野:不定期で刊行しています。『き・まま』は吉祥寺から立川の中央線沿線の大きな書店で売っています。ネット販売もしていますよ(http://ruelle-studio.net/about.html)。こちらもよろしくお願いします(笑)。

(了)