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操上 恭子の<<書評>>
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エイジ
エイジ
【朝日文庫】
重松清
本体 660円
2001/8
ISBN-4022642742

評価:B
今どきの中学生の男の子ってこんなんなんだ。まるで接点のない世界なのでよくわからないのだが、リアリティで評価された作品だからきっとかなり現実に近いんだろう。描かれているのは、なんでもない中学生の日常。だが色々なことが起こる。膝の故障で好きなバスケを諦めなくてはならなかったり、クラスメイトが通り魔としてつかまったり、身近でイジメがあったり。それに対して思春期の少年が何をどう感じ、乗り越えていくかがこの小説の肝。ツカちゃんとかタモツくんとかの脇役たちがいい味出しているんだけど、中学生ってこんなに幼かったかなというのが正直なところ。読んでいる時は面白かったのだが、読み終わってみるとさっぱりなにも残っていないのは、私が若い男の子を嫌いなせいだろうか。


華胥の幽夢
華胥の幽夢(ゆめ)十二国記
【講談社文庫】
小野不由美
本体 648円
2001/7
ISBN-4062732041

評価:AA
シリーズ初の短編集。内容は、本編の流れには直接はそれほど関係ない番外編を集めたものだ。それが、いい。物語の流れにひきづられることなく、ゆっくりと十二国の世界にひたっていられる。それでいて、馴染みの登場人物たちが活躍する様子がわかって、ああ頑張っているんだなと安心できる。忙しいのに何度も読み返してしまった。 作者のなかには、よほど確固とした十二国の世界があるのだろう。でなければ、物語の勢いを借りることなくこんなに読者をひきつけることは出来ないはずだ。中でも最終話「帰山」がいい。特になにが起こるわけではないのだが、やりとりの中に十二国の物語世界が実にうまく表現されている。この二人をこういう風に会わせてしまったのには驚いたが、説得力はある。かなり読み進むまで風漢が誰だかわからなかったのが、ちょっと情けないが。


斎藤家の核弾頭
斎藤家の核弾頭
【新潮文庫】
篠田節子
本体 705円
2001/6
ISBN-4101484120

評価:C+
篠田節子がこんなスラップスティックな物を書く人だとは知らなかった。それにしても凄い。民主主義、自由経済、サラリーマン社会、官僚制、家族制度、管理社会、階級制度から、体制に抵抗するものまで、およそありとあらゆるものを皮肉りおちょくっている。特に矢面に立たされるのは、仕事人間であり権威主義である男性だが、それを容認あるいは追従する女性にも容赦はない。そして肩書きという鎧を失った時の日本人のアイデンティティの脆さが、私たちに突き付けられることになる。可笑しいけれど、笑ってなどいられない恐ろしさ。さすがは篠田節子である。異形の者に対する暖かな視線もこの作者の持ち味だろう。


池袋ウエストゲートパーク
池袋ウエストゲートパーク
【文春文庫】
石田衣良
本体 514円
2001/7
ISBN-4167174030

評価:A
ずっと気になっていた本なのだが今回初めて読んだ。今まで読んでいなかったのがもったいない、素直にそう思った。設定がなんといっても上手い。何よりもよかったのは、主人公マコトを大人でも子供でもない19歳、ヤクザでも堅気でもない稼業手伝い・無職にしたことだろう。どの社会にも属さないコウモリのような存在でいながら、しっかりと地に足をつけて、というか地元に根を張っている。探偵役として、これほど適した存在があるだろうか。日本のストリート探偵物という新しいジャンルを作る作品だと思った。連作短編の1作ごとに作風、登場人物たち、そしてこの新しいジャンルの成熟していく様が見て取れる。マコトの今後の成長が楽しみだ。


ビッグトラブル
ビッグ・トラブル
【新潮文庫】
ディヴ・バリー
本体 629円
2001/7
ISBN-4102223215

評価:C
マイアミをここまでコケにしていいんでしょうか。まるでまともな人間が誰もいないみたいだけど。まあ、いいんだろうな。デイヴ・バリーだし。前半ではバカ犬や蝦蟇を含めた登場人(?)物たちの状況や心情がかなり細かく描かれている。それが後半、加速度的に展開して、すごい勢いで転げ落ちるようにクライマックスへ。ちゃんと物語として完結しえいるのが不思議なくらいだ。意味も深みもなんにもない。まあ、いいんだろうな。デイヴ・バリーだし。単純に、読んで笑って楽しめれば、それでいいんじゃないかな。軽い気持ちで、息抜きに読むにはちょうどいい本でしょう。


悪党どもの荒野
悪党どもの荒野
【扶桑社ミステリー】
ブライアン・ホッジ
本体 876円
2001/6
ISBN-4594031803

評価:C
主要登場人物は6人。3組のカップルがアメリカ西部の不毛な大地を走り回るわけだが、この3組のカップルができるまでが読みにくい。視点が定まらず、誰に感情移入していいのかよくわからない。しかも、その中盤にさしかかるあたりに結構気になる誤植がいくつかあって、よけい読むのがつらくなる。だが、いったん物語が流れにのりはじめると、あとは小気味良く一気にクライマックスまで突っ走ることができる。そうして最後までたどりついて振り返った時にはじめて、登場人物たちの造形の妙が見えてくる(中にはちょっと弱い人もいるが)。読後感はかなり爽快だ。最後の5ページはいらない気もするが、まあこれはお約束のうちかな。


ハートウッド
ハートウッド
【講談社文庫】
ジェームズ・リー・バーク
本体 933円
2001/7
ISBN-4062732033

評価:E
まず「私」という主人公がいて、私の視点で物語が始まる。ところが、やがて物語は私が登場しない場面になる。視点はいつのまにか神の視点。一人称と三人称の部分が混在していて、とにかく読みにくい。どうやら三人称部分は人から聞いた話ということのようだが、あまりにも説明不足だ。主人公ビリー・ボブの魅力も伝わってこない。庶民の味方の弁護士にもなりきれていないし、元テキサス・レンジャーのこわもてにしては情けない。ロマンスの面でもまったくいい所がない。単に根暗ですぐキレる危ないオヤジという感じ。インディアンやメキシコ人に対する差別的視点も気にかかかる。


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