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操上 恭子の<<書評>>
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『Shall we ダンス?』アメリカを行く
『Shall we ダンス?』アメリカを行く
【文春文庫】
周防正行
本体 638円
2001/9
ISBN-416765606X
評価:B+
実は全然期待しないで読み始めたのだが、これが意外に面白かった。日本で大ヒットした「Shall we ダンス?」を携えて映画大国アメリカの各地を巡業してまわったという、とても貴重な体験のドキュメントではあるのだけれど、それよりも、アメリカと日本の文化や考え方の違いや、それぞれの地域ごとの特色、日本を離れた日本人の想いなどの紹介という側面の方が興味深かった。作者の視点で実にリアルに紹介されている。さすが映画監督だけあって、出逢った人間を冷静に観察して、生き生きと描写している所が素晴らしい。作者の感覚や考え方には必ずしも共感できるとは限らないものの、「まったくアメリカ人って奴は……」と納得できる部分も少なくない。

笑うふたり
笑うふたり
【中央公論新社】
高田文夫
本体 667円
2001/9
ISBN-4122038928
評価:C+
どこから読んでも面白いので、ついつい手に持った時にパッと開いたところから数ページから数十ページ読んでしまう。そんなことをくり返しているもんだから、この本全部をちゃんと読んだのかどうか自分でもよくわからない。目次というか対談相手の名前だけ見た時には、あまり期待できなかったのだけれど、さすがに全員笑いのプロ。少なくとも読んでいる間は充分に楽しい。巨匠ばかりだから、古き良き時代の話や偉大な先人の話も多いのだが、私自身が覚えていないような話でもそこはかとなく懐かしい。芸能好きの人にはたまらないのだろうな。だけど、読み終わってみると後に残っているものがなんにもないのに気づく。結構笑わせてもらったんだから、もう少し何か心に残るものがあってもいいのに。

老人力
老人力
【ちくま文庫】
赤瀬川源平
本体 680円
2001/9
ISBN-4480036717
評価:C
「老人力」という言葉を赤瀬川原平が最初に提唱したのは知っていたけれど、なるほどこういう経緯があったのね。実にうまく力が抜けていて、いい発想だよね「老人力」って。とは思う。だけど、本書の始めの方は妙に力が入ってしまっていて、いつもの赤瀬川エッセイの軽快な感じがない。妙に無理矢理な感じがしたり、言っていることが空回りしたり。どうも「老人力」を世に送りだそうと力んで、気張ってしまっているようだ。途中から、うまく力が抜けていい感じになってくる。「老人力」「老人力」と言わない方が、「老人力」らしくなっていくって変な感じ。章ごとに掲載されている路上観察学会の写真と、それにつけられている一言コメントがとてもいい。

神は銃弾
神は銃弾
【文春文庫】
ボストン・テラン
本体 829円
2001/9
ISBN-4167527855
評価:B
この作品をノワールとする向きもあるようだが、私には冒険小説として読めた。舞台設定、人物造形、ストーリー、テーマ、どれをとっても申し分ない。充分に傑作の条件をそなえているはずだ。現に高い評価を受けている。それなのに、この読みにくさは何だろう。一つには強い文学臭だ。それがこの作者の特徴だということだが、やはりかなり抵抗がある。そしてもう一つは、これは最近の傾向なのだろうけれど、感情移入がしにくい造りになっているということ。具体的には、主人公が共感しにくいコンサバオヤジであること、ヒロインはとても魅力的なのだけれど今一つ何を考えているのかわからないこと、様々な登場人物・場面の断片の寄せ集めでモザイクのように全体像があらわれる仕掛けになっていることなどだ。せっかくこんなに面白いのに、読んでいてどうしても楽しむことができない、という不満が残った。

愛しき者はすべて去りゆく
愛しき者はすべて去りゆく
【角川文庫】
デニス・レヘイン
本体 952円
2001/9
ISBN-4042791042
評価:B+
シリーズ4作目。今回のテーマは流行り(?)の児童虐待。主人公2人が相思相愛のカップルになっていて、なんとも幸せそうだ。探偵稼業は繁盛していて、経済的にも十分潤っている。何の文句もない順風満帆のはずなのに、いつまでも過去の暗い瑕を引きずっている。それで人間味を出そうとしているのだろうけれど、少し中途半端な気はする。この作品の特徴は悪党がいないこと。ごく一部の狂った異常性愛者を除いて、どの悪役にも憎めない魅力がある。幼馴染みの麻薬ディラー、チーズなんてすごくいい味出している。なかなか大がかりなアクションシーンもあるし、後半の大ドンデン返しも楽しめる。ニューイングランドの雰囲気が味わえるのもシリーズを通しての魅力だが、それにしても採石場後なんていったいどんな場所なんだろうと想像するだけでワクワクしてしまう。ただ、エンディングは「えっ、そう来るか」という感じだった。じゃあどうすれば良かったのかと聞かれても答えられないけれど、何となく違和感が残った。

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