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谷家 幸子の<<書評>>
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パレード
パレード
【平凡社】
川上弘美
本体 952円
2002/5
ISBN-4582829961
評価:B-
 これは評価が難しい。というか、評価の必要はない気もする。評判になった「センセイの鞄」の番外編だから、というだけではないけれど、やっぱりこれは、本編の世界観があってはじめて成り立つオハナシなんだと思う。だから、本編を読んで感動した人は感動するだろうし、いまいち乗れない…と思った人は釈然としないだろう。そして、本編を読んでいない私はというと、とりあえず困惑するしかなかった。
 とはいえ、面白くなかったわけではない。
 オハナシとしてはそれなりにまとまっているし、子どもたちにくっついてくる天狗やあなぐま、砂かけばばあやろくろ首の存在は結構楽しいし。それでも、いじめられっ子のゆう子ちゃんのエピソードが出てきたあたりで、ちょっと
 何かが匂ってきて、「?」となってしまった。
 うーん。いろいろ、微妙なオハナシだ。ま、でも本編は読んでみようと思ったけど。

ベリィ・タルト
ベリィ・タルト
【文藝春秋】
ヒキタクニオ
本体 1,524円
2002/5
ISBN-4163209107
評価:B-
 途中までは、文句なくA!と思っていた。ゆるみのない緊密感、心地良い疾走感。いいぞいいぞ!こりゃめちゃくちゃいいぞ!時間を忘れてページをめくる感覚、これこそ本を読む醍醐味ってもんだ。キャラクターもことごとく魅力的。脳ミソ軽いかと思いきや、本能の部分が健気で潔いリンは、物語上だけでなく、読み手にとっても、アイドルへと駆け上がらせたくなるオーラを放つ。インテリヤクザを地で行く関永と小松崎の微妙な関係も興味深いし、オカマの美容師仁の魁偉からも目が離せない。このあたりまでは、完璧だ。
 しかし、なあ。ラストだ、ラスト。これはアリなんだろうか?どうしても、いいようのない違和感を感じてしまう。かといって、これは違う!という確信も持てないのだが。
 ひとつだけ。関永がアイドルを「ベリィタルト」に例えるくだりはちょっと難あり。

空のオルゴール
空のオルゴール
【新潮社】
中島らも
本体 1,500円
2002/4
ISBN-4104531014
評価:D
 暴言だと承知のうえで書く。
 中島らもに、小説は不要だと思う。小説という形態に、彼の持つ個性は適合しないのではないか。
 といいながら、私も「今夜、すべてのバーで」はとても面白く読んだ。しかし、あのとてつもなく面白い本を読んだ後でさえ、その気持ちは(中島らも小説不要論)頭の片隅にあった。そして、今回この小説を読んで、その思いはさらに強くなった。
 全篇にみなぎる強烈な中島らもワールド。武術、奇術、ドラッグへのあくなき好奇心を糧に突っ走るあまりにも極私的趣味世界は、同好の士であればそれなりに寄り添えるのかもしれないが、これはちょっと暴走しすぎだ。小説の形をとらずに書かれていたほうが、絶対楽しめたと思う。あんなに面白い雑文を書く人なんだから。とはいえ、この人はある意味「イッちゃってる」ので、これはこれで「あーまたなんかアホなことやってる」くらいに受け流すのが正解、なのかもしれないが。

非道、行ずべからず
非道、行ずべからず
【マガジンハウス】
松井今朝子
本体 1,900円
2002/4
ISBN-4838713673
評価:A
 やっぱり、どうも時代ものには積極的に手が出ない。これも、手に取ったものの、後にしようと元に戻しかけたところを、「ミステリー」の文字に気が付いて読む気になった。芝居小屋の焼け跡から見つかった屍体の謎、という設定にもわりとそそられるし。(ただし、タイトルはやや難あり。)
 いや、これが久々の「読みごたえ」でした。
 心地よく中身のギッシリ詰まったこの量感は、かなり満足度大。江戸の風俗、芝居町の人間模様、小屋の裏方の仕事ぶり、役者の業と葛藤。そして、愛情と情愛、憎しみと罪。これらが、無駄のない確かな文体で実に鮮やかに描き出される。ミステリーといいつつ単なる謎解きではなく、ここが肝心なのだが、愛憎を描く筆致に無用な湿り気がないのが、全く私の好みだ。これほど輪郭のくっきりしたキャラクター造形は見事と言うほかはない。今月のイチオシ。

ミルクから逃げろ!
ミルクから逃げろ!
【青山出版社】
マーティン・ミラー
本体 1,600円
2002/4
ISBN-4899980353
評価:B+
 正統派ドタバタ・コメディーの快作。
 ここまで見事に真っ当にドタバタでこられると、何も言うことはない。話はあっちへ飛びこっちへ飛び、こちらに戻ったかと思うとそちらへ移り、一時もじっとしていない。なんじゃこりゃ、と思いながら読んでいたら、いきなり「説明が足りなすぎるかな?みんなついてきてる?」と来た。これで、一気に肩の力が抜けてしまった。後はジェットコースターのごとく走っていくのみ、痛快きわまりない。
 ドタバタしながらも、それぞれのエピソードが少しずつ交差し始め、ラストへとなだれ込んでいくところは技あり一本。スレスレ、って感じの奇天烈人間ばかりが登場するのに、とにかく底抜けに明るいこの読後感はかなり捨て難い。少々の落ち込みは回復するよ、きっと。

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