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石崎 由里子の<<書評>>
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翼 Cry for the moon
翼 Cry for the moon
【集英社文庫】
村山由佳
本体 762円
2002/6
ISBN-4087474534
評価:D
 ある人の一言が、人生を縛りつけることがある。
 それが母親だったら、なおさらのこと。幼い頃から言われ続けた母親の言葉の呪縛から逃れられない主人公。家族の不幸。自分と関わった人の不幸。周辺の不幸。当然何もかも放り出したくなるはずで、主人公はアメリカに留学する。
 そこでめぐり合った人との交流から、次第に舞台は感動の世界に・・・。先の展開が見えてしまい、もう少し驚かして欲しいという感が残った。

恋愛中毒
恋愛中毒
【角川文庫】
山本文緒
本体 571円
2002/6
ISBN-4041970105
評価:A
 中毒という言葉の重みが、そのまま閉じ込められた作品でした。
 人を好きになるのは現象で、愛することは行為。現象のうちは、空想や妄想の中でどんな出来事があろうとも相手の現実世界には何も起きないけれど、行為に至るとき、そこには他者との感情の交じわりがある。自分と他者の時間が混じり合い、互いの生活に変化を与える。
 主人公の水無月美雨は、夫を想い、夫を見つめて、夫を愛しすぎた。そして夫を失った。夫の存在に惑わされ、心が揺れて、でも夫を追い求めている。愛するという行為によってのみ、自分の存在が確認できる女性なのだろう。ここまで自分という存在を無にしてしまえることが、うらやましい。自分には到底できない行為だから。

海峡 幼年篇
海峡 幼年篇
【新潮文庫】
伊集院静
本体 667円
2002/7
ISBN-4101196311
評価:A
 著者のことを好きだから、自伝的小説ということで、多大なる興味とともに、少しひいき目に読んでしまった。
 会社や飲食店などを経営する父、高木。物語は、近隣に知らぬものはない大所帯の「高木の家」で生まれ育った小学生、主人公英雄の視点で描かれている。
 主人公は、戦後の時代背景のもと、父を取り巻く大人たちに囲まれながら、細やかな感受性で、そこで起きる出来事を静かな目で感じ取りながら、成長していく。
 生きることとは生き続けること。泳ぎ始めたら泳ぎぬくしかない、という父の言葉を読みながら、著者の顔が思い浮かんだ。

神様のボート
神様のボート
【新潮文庫】
江國香織
本体 438円
2002/7
ISBN-4101339198
評価:A
 人を愛することは、自分の時間を半分捧げることだと感じている。
 一人の人を生涯愛し続けることは、人生を共有することだと思っている。たとえ相手の存在が目に見えなくても。
 子どもの目を通して語られる母と、妻の目を通して語られる夫。子どもは母を見ているけれど、母は夫を見ている。
 時間を経ても母は女として夫を待ち続け、子どもは母から旅立ち、大人になるための船を漕いで行く。
 女である母の、夫がなぜ出ていったのか?その理由を問わずに、「必ず戻ってくる」という言葉を信じて、ただ待ち続けることのできる精神力を美しいと感じ、憧れと嫉妬を覚えた。

冬の伽藍
冬の伽藍
【講談社文庫】
小池真理子
本体 838円
2002/6
ISBN-4062734672
評価:C
 結婚生活3年目にして未亡人となった、若くて美しい薬剤師の主人公。妻を失った過去を持つ若く美しい面持ちの医師。そして、その父。
 舞台は軽井沢で、未亡人は若き医師とその父、二人の男性の間で揺れ動く。
 お昼のドラマのような設定だなあ、と思いながら読み進めると、次から次へと湧き起る男女の生と性が引き起こす事件、事件。
 これが美しくない男女の交わりだったら生々しい感じがして、現実味があるのだけれど、美しい役者たちが揃いすぎて、ちょっと食傷気味な感じがした。

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