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内山 沙貴の<<書評>>
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わたしのからだ
わたしのからだ
【祥伝社文庫】
桐生典子
本体 543円
2002/8
ISBN-439633060X
評価:B
 からだの機能を黙って見つめる視点と、何もしなければ動き続ける己の中の臓器を感じる瞬間が、人間の神秘さと浮遊感を叩き出す。“細胞たちはいつも『みんな一緒に生きていこう』って信号を出し合っているんだって。”私の心臓は鼓動し続け、肝臓は血液を調整し、腸は排泄物をまとめ上げ・・・そう、私が知らない間にも、ずっと動き続ける私がいる。私には調節できないけれど、私の中の意思で動く臓器たち。不思議で不気味で時々気持ち悪くなる、手堅い快感の短編集であった。

かっぽん屋
かっぽん屋
【角川文庫】
重松清
本体 571円
2002/6
ISBN-4043646011
評価:B
 SIDE Aに出てくる自伝的なお話と、SIDE Bの軽いブラックユーモアなお話と。自分の好みはBの方で、先が見えそうで見えないサスペンスっぽいところがなかなか乙でした。が、なぜか強く、というか強烈に印象に残っているのはSIDE Aの日常に埋没した非日常的でスポットライトの当たるシンボリックなお話。始まりは少し取っつきにくい。でもはまるとちゃっかり連れて行く。終わりは小さな笑いがこぼれる。そうさせる、力がある。格好をつけていない分だけカッコいい。優しい人が書いた微笑ましい短編集だと思いました。

煙で描いた肖像画
煙で描いた肖像画
【創元推理文庫】
ビル・S・バリンジャー
本体 680円
2002/7
ISBN-4488163033
評価:B
 ダニーの気持ちとクラッシーの行動は落とされた水滴のようにスマートで整然としているのに、ごちゃごちゃに絡まる糸みたいに不可思議な形をイメージするのは何故だろうか。玉が1つから2つに増えるマジックのように現象はひどく単純なのに、至る過程が謎である。モヤモヤとした深い霧のような閉塞的な拘束具が脳の周りにまとわりついたような気分になる。昔見かけた女性を追ってダニーは盲目的な追走劇を始めるが、一方彼の夢見た女性クラッシーは世間に対してとんでもなく強かだった。普段だったら冷笑しそうな展開なのに、シリアスさに脅された。本がまるで生きているみたいに問いを発し、答えてくれる。こういう本もありかなぁと思わせる本でした。

誰も死なない世界
誰も死なない世界
【角川文庫】
ジェイムズ・L・ハルペリン
本体 952円
2002/7
ISBN-4042788025
評価:C
 泥にまみれて懸命に息をして生きた昔を忘れさせる希望の未来が、科学の力で人々に幸福と安寧を与えてくれる。医学と不死がぶつかり合う、結末のない結末「誰も死なない世界」。その舞台は常に暖かく、明るいオレンジの光が降り注ぎ、人々の素敵に緩んだ笑顔が溢れている。でもその舞台下にある氷に閉ざされた冷たく空虚で表情を無くした人々が立ち並ぶ世界を想像してしまうのは私だけであろうか。この話は少し科学が宗教化してしまった観がありSFと呼ぶには抵抗があるが、主人公をめぐるハートウォーマーで希望のあるお話で、描かれた人々が生き生きと存在感を主張する物語であった。

ウィーツィ・バット
ウィーツィ・バット
【創元コンテンポラリ】
フランチェスカ・リア・ブロック
本体 480円
2002/7
ISBN-4488802036
評価:C
 明るい空に太陽と雲と海の光がおどる。カラフルなパラソルをくるくる回すその下で、人や犬や虫がはしゃいでおどる。話の内容はクールな女の子と男の子の、童話みたいにスマートな文体で書かれたお話である。そしてこの話は軽い。放っておいたら引力を超えて宇宙までプカプカと飛んでいきそうなくらい軽い。そして軽いから希望を輝かせることができる。ヘリウム入りの風船みたいに希望をいっぱいに膨らませることができる。はちきれんばかりの生きている喜びをスマートに描いた心地良いお話だった。

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