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石崎 由里子の<<書評>>
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溺レる
溺レる
【文春文庫】
川上弘美
定価 420円(税込)
2002/9
ISBN-4167631024
評価:A+
 編まれているお話の、優しくて生温かくて怖いこと…。
 大人の男女が恋の道に入り込むと、互いを思いやりすぎて、末路が見えにくくなることがある。
 時間はどんどん過ぎてゆくのに、二人の距離は縮まるでも離れるでもない。平行なまま、ゆっくりゆっくり過ぎてゆく。
 恋の末路、その答えを求めたらおそらく『溺レる』の中では生きられない。そんな恋の息苦しい感じがひたひたと押し寄せてきて、この作品に溺れました。

木曜組曲
木曜組曲
【徳間文庫】
恩田陸
定価 520円(税込)
2002/9
ISBN-4198917590
評価:C
 登場人物は、かつてその中心人物だった故人をとおして繋がっている「もの書き」の女性たち。つぎつぎと登場する温かい料理を食べながら、故人をとおして語られる過去の時間と自我自我自我。
 全編を通して感じられる豪華絢爛な雰囲気は、映画化されるのに十分な感じがあるのだけれど、その割にあっけなく種明かしされてしまうラストに不足感が残った。どうせ非日常に連れ出してくれたらならば、読者をその雰囲気にポーンと置き去りにしてしまうような余韻をもって終わってくれると尚よいのでは…と感じた。

男の子女の子
男の子女の子
【河出文庫】
鈴木清剛
定価 704円(税込)
2002/9
ISBN-430940667X
評価:C
 隣人の顔も見たことがないまま、引っ越しをむかえる、そんな御時世。
 人と人は、同じ空間にいるから親密なわけではない。時間を共に過ごしても、たくさんお話ししても、心まで重なるのは、互いが求め、求められてようやくのことだと思っている。それでも「わかる」に至るのは難しいのだけれど。
 本書の人との関わり方は実にあっさりしていて、そこにはやさしさもないけれど、悪意もない。ゆえに深みもない。おそらくその部分を表現しているのでしょうけれど、その関係性にどうしても感情移入できなかった。

銀座
銀座
【ちくま学芸文庫】
松崎天民
定価 1050円(税込)
2002/9
ISBN-4480087192
評価:C
 かつての銀座を、新聞のコラム的な感じで楽しむことはできたけれど、それ以上の新鮮さがない感じがした。ただ、カフェーの女給さんなんかのお話から市井の人々の垣間見ることができたので、資料的な意味として読むならば良いのだと思います。

わが名はレッド
わが名はレッド
【ハヤカワ・ミステリ文庫】
シェイマス・スミス
定価 714円(税込)
2002/9
ISBN-4151735518
評価:C
 好き嫌いがはっきりと別れる作品だと思う。
  最近のミステリーは、登場人物がいかにして残虐的行為を行うか、場面がめまぐるしく変わっていくテンポのよさが好まれるようだけど、その人たちはみな、びっくりしたいのだろうか?
  人が残虐行為に至るには、たいていの場合その理由というもの存在する。その理由の部分には興味があるのだけれど、トリック、しかけのような段階を追った残虐行為そのものを追っていくストーリーはどうにも馴染めないものを感じた。

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