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操上 恭子の<<書評>>
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始祖鳥記
始祖鳥記
【小学館文庫】
飯嶋和一
定価 730円(税込)
2002/12
ISBN-4094033114
評価:C+
 私の中にも、「風羅坊」が住んでいる。ふとしたはずみに、どこか遠くへ飛んでいきたくなる。でも飛ばない。そんな時、私は本を読んで異国を旅する。それは、私に良識があるからなのか、度胸がないからなのかはわからない。本書は、実際に飛んでしまった人の物語だ。ただし、屋根の上から。波瀾に富んだ半生記で、時代背景やお国事情なども興味深く、とても面白く読んだのだが、違和感が残った。どこかに飛んでいくこと(遠くへ行きたい)と屋根から飛ぶこと(空中に浮かぶ)の間には、大きな違いがあるように思えるからだ。その辺の心境の変化が、いまひとつ描き切れていないような気がした。

青い虚空
青い虚空
【文春文庫】
ジェフリー・ディーヴァー
定価 870円(税込)
2002/11
ISBN-4167661101
評価:A-
 さすがはディーヴァー。ページをめくる手が止まらないとはまさにこのことで、一度読み始めたら、一気に最後まで読んでしまうしかない。作者のミスリードに振り回されながら、随所にある大小のクライマックスにハラハラし、読み終わってみると主人公ジレットの虜になっている。小説の中の天才というのは、どんな分野にしろ魅力的ものだ。ジレットなんて、きっと実際にいるとしたら近寄りたくもないようなオタクに違いないのに、本のなかでは本当に格好いい。すっかり惚れ込んでしまった。他の登場人物たちも、それぞれに個性的で、魅力がある。アンディなんかもかなり好きだったんだけどな。コンピュータの描写では、ドスのプロンプトとか青い画面とか、一般のパソコンユーザーにはもうあまり縁のなくなったものが出てきて、なんとなく懐かしい気がした。

イリーガル・エイリアン
イリーガル・エイリアン
【ハヤカワ文庫SF】
ロバート・J・ソウヤー
定価 987円(税込)
2002/10
ISBN-4150114188
評価:B+
 「ここ30年の間に書かれた、あるいは撮られたすべての宇宙SF(スペース・ファンタジー)はスター・トレックへのオマージュである」(SWはチャンバラであってSFではないから別ね)、というのが私の持論なんだけれども、本書はまぎれもなくその一冊。といっても、本書は宇宙物ではなくて宇宙からの訪問者物だけれど。全編にST的精神に溢れていて、エンディングなんてまさにスター・トレックそのものだ。作者はパロディを意図していたのかも知れないが。中盤の殺人事件とその公判過程はミステリとしても充分に楽しめる。それにしても、地球を訪問中のエイリアンを裁判にかけてしまうという発想はすごい。ロバート・ソウヤーは、まさに「おバカ系SF」の第一人者である。

弁護人
弁護人
【講談社文庫】
スティーヴ・マルティニ
定価 (各)900円(税込)
2002/11
ISBN-4062736039
ISBN-4062736047
評価:B
 まさにリーガル・サスペンスの本道といっていいだろう。退屈になりがちな司法手続きや公判シーンの描写も、倦怠を感じさせることなくグイグイ引っ張ていってくれる。手も足もでないような状況から、少しづつ境地を切り開いていく過程が見物だ。弁護側と検察側がこんなにも激しく敵対しあうものなのかと、改めて驚いたりもした。また、主人公マドリアニ弁護士の一人称による語りは、ハードボイルド的な楽しみもある。ただし、最後のどんでん返しが、とってつけたような感じで説得感に乏しい。また、主人公の相棒ハリーが生彩にかけ、存在感が希薄なのも気になった。

ダークホルムの闇の君
ダークホルムの闇の君
【創元推理文庫】
ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
定価 1,029円(税込)
2002/10
ISBN-4488572030
評価:A
 異世界ものファンタジー。魔術師にはじまり、竜や魔物や妖精、そして空飛ぶ豚まで、およそファンタジーとして考えられるあらゆる生物が登場する。膨大な数に登る登場人物と生物が、読む者に大きな混乱をおこさせることなく、おさまるべき場所にきっちりとおさまって物語を作り上げている。まさにタペストリーのようだ。異世界と現実(?)世界の干渉を異世界の側から描いているのが面白い。私たちのこの世界にいかにもいそうな、悪徳商人が悪役である。傍若無人でわがままな観光客の描写が、日本の団体旅行客をおちょくっているようで、ちょっと居心地の悪い思いをしたりもする。
異世界物は、その作られた世界の魅力と完成度が作品の出来を左右するものだと思うが、本書のような「なんでもあり」というのも面白い。2部作といわず、たくさん続きを書いて欲しいと思う。青春小説としてんも、家族小説としても、とても優れた作品だと思う。

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