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高橋 美里の<<書評>>



ふたつの太陽と満月と
ふたつの太陽と満月と
【集英社文庫】
川上健一
定価 630円(税込)
2003/8
ISBN-408747609X
評価:B
 ゴルフはお好きですか?私は好きです。
 ニューヨーク・サウスブロンクスそこには世界でいちばんぶっそうなゴルフ場がある。その名はバンコー。ゴルフ場を舞台に描かれる連作短編。
 ゴルフ雑誌で連載をしていたものなので、ゴルフ用語が多く、若干読みにくい。ただ、バンコーで繰り広げられる人間模様は、あったかい。
 一番ぶっそうだろうが、危険だろうが、幸せにプレーの出来るコース。気の知れた仲間。たとえ、コースでバーベキューをしてるやつがいたって、警察の捕物が繰り広げられたって、いいじゃないか。
 あったかい気持ちになれる、作品集でした。

一瞬の光
一瞬の光
【角川文庫】
白石一文
定価 780円(税込)
2003/8
ISBN-4043720017
評価:A
 香り立つ親父臭さ、というのはきっとこういう作品をいうのだろうなぁ、と思いながら読んでいました。
 主人公は大企業のエリートサラリーマン。社長の覚えもめでたく、出世コースまっしぐら。主人公が出会う運命の女性は、バーの店員。しかし彼女は、自分の会社の面接を受けに来ていた。面接の時とは全く違う表情を見せる彼女に興味を覚える彼は、店を出てから彼女がオーナーに暴力をふるわれているところを助ける。
 彼女と関わっていくうちに、彼女の内面と向き合っていく。そして彼はその闇を分かちあいたい、と思うようになる。
 企業の派閥争いなどを描きながら、一人の女性と向き合う男を描いているのですが、どうも描写一つ一つがオジサンの匂いがするのです。途中、どうにも我慢できない個所があったりしたのですがそこに目をつぶっても、Aをつけたのは、二人の関係の美しさにまいったから。
 まず、手にとってください。

イリヤの空、UFOの夏
イリヤの空、UFOの夏
【電撃文庫】
秋山瑞人
定価 (1)578円(税込)
定価 (2〜4)599円(税込)
2001/10〜2003/8
ISBN-4840219443
ISBN-4840219737
ISBN-4840221731
ISBN-4840224315
評価:A+
 現実と遠いどこか、というのは想像することが容易なようで、難しい。
 この作品の中で描かれている世界は、私たちの存在する世界と、とても近い。しかし、私たちの世界と明らかに違うことは1巻で明らかにされ、そして私たちの世界とどんどん離れていく。
 物語は、私たちの世界と変わらない風景で幕をあける。主人公・浅羽直之は、超常現象をこよなく愛する水前寺先輩に連れられて山に篭った。山でUFOの観測を行なっていたにのに、成果はまったく上がらなかった、そんな夏休みの最終日。彼は忍び込んだ夏休みのプールで、スクール水着を着た少女に出会う。手首には不思議な金属をつけ、時々異常なまでの量の鼻血を出す、少女。伊里野加奈、だった。
 彼女の周りには「兄」と名乗るちっとも似ていない男や、黒尽くめの男たちがたくさんいた。そして彼女にはどこか近寄りがたい雰囲気があった。
 単なる、ボーイ・ミーツ・ガールの物語ではない、ということを知るのは「避難訓練の日」。そこで浅羽は伊里野の秘密を知り、世界は自分達の知っている世界だけではないことを知る。
 それはとてもハードな世界。どこまでもシリアスな問題。でも、少年や少女の姿はどんな世界でもまっすぐに描かれている。
 彼女の求めるものを、浅羽は知っている。そして、世界は彼女を欲している。壮大な物語でした。単なるボーイ・ミーツ・ガールのお話で終わらないこの作品に盛大な拍手を送りたい。

サマータイム
サマータイム
【新潮文庫】
佐藤多佳子
定価 420円(税込)
2003/9
ISBN-4101237328
評価:A
 僕には姉が一人いる。名前は佳奈。僕たち家族は団地に住んでいる。僕が11歳、佳奈が12才の夏、どしゃ降りの雨のなか、僕はもがくようなフォームで泳ぐ彼に出会った。
 左腕と父親を交通事故で亡くした彼は、どこか大人びてどこか他人を近づけない雰囲気をもっていた。ピアノを弾く彼の母が口ずさむ「サマータイム」にのせて、僕の一夏は過ぎていく。
 知り合うことで近くなっていく。友情でもなく、もっと別な不思議な関係がそこには出来上がった。まるで痺れるような夏の物語。
「サマータイム」「セプテンバーレイン」名曲に乗せて綴られる3人の物語です。

猫とみれんと
猫とみれんと
【文春文庫PLUS】
寒川猫持
定価 530円(税込)
2003/8
ISBN-4167660571
評価:B
 大愛猫家である作者の日常を詠んだ歌集。しんみりしてしまう歌もあれば、妙に頷ける歌も在り、歌から日常がアリアリと浮かぶ、そんな歌集。内容は実に多彩。猫を飼っているわけではないのに、その姿を想像できる表情豊かな猫たち。
 猫嫌いの私にも猫たちが愛らしく見えてきました。