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WEB本の雑誌今月の新刊採点ランキング課題図書

浅井 博美

浅井 博美の<<書評>>


がんばっていきまっしょい

がんばっていきまっしょい
【幻冬社文庫】
敷村良子
定価 520円(税込)
2005/6
ISBN-4344406605

評価:A
 「しょせん自分は勉強も部活も落ちこぼれ。見た目も悪い。-(略)-性格も歪んでいる。協調性もない。こんな人間世の中に存在する価値などあるだろうか。悦子は惨めさに浸った。それは陰気な愉しみですらあった。」
全然明るくない上に、いまいちスカッとした気持ちにもなれない本書を果たして「スポ根もの」にくくってしまって良いのだろうか。主人公悦子ちゃんたら、何だか太宰みたいでもあって、個人的にはかなりのツボなのだけれど、題名の元気いっぱいさと女子ボート部というシチュエーションに惹かれて読んだ人は、どう思うのだろう?文章は荒削りだったり、乱暴な感じも受けるのだが、それもまた味と思わせるような魅力があふれている。魅力といっても後ろ向きな、マニア受けする魅力だとは思うのだが…。本書こそが「スポ根もの嫌い」でも読める小説だ!(先々月の俺はどしゃぶりへの当てつけ含む。)自分(運動部経験無し、根暗)がボート部に入ったら確実にこんな感じになるだろうな、という説得力に納得し大きくうなずく人続出だと思うのだがどうであろうか。そんな人って悦子ちゃんとわたしくらいなのかしら…。

図書室の海

図書室の海
【新潮文庫】
恩田陸
定価 500円(税込)
2005/7
ISBN-4101234167

評価:C
 本屋大賞も取ったし、非常に非常に人気のある作家さんだということは重々承知している。しかしわたしには何だかピンとこないのだ。こんな事を書くと非難ごうごうになりそうで、恐ろしくて、小心者のわたしは必死の思いで書いているのだが、でもなにかしっくりこない。読んだことのある著書は「木曜組曲」と「ライオンハート」と本書のみだ。「六番目の小夜子」も「夜のピクニック」も読んでいない。読んだ方の意見をぜひ聞きたいのだが、それらを読んでいれば「図書室の海」も「ピクニックの準備」もおもしろく感じられるのだろうか?でもそれでは単体の書籍としては成り立っていると言えなくはないか?全編を通して、何かが起こる気配はするのだが、謎があるのだか、恐怖が隠れているのかさえも分からず開いたばかりの幕を引かれてしまうような気持ちの悪さを感じた。抑えた筆致の良さというのは確かに存在するのだろうとは思う。しかし、何も起こらない中での抑えた筆致というのはともすれば「退屈」に流れてしまう危険性もある。難解な書籍を頑張って読んでいるような何とも言えない気持ちになった。

楽園のつくりかた

楽園のつくりかた
【角川書店】
笹生陽子
定価 420円(税込)
2005/6
ISBN-4043790015

評価:D
 こんなに直球の少年を持ってこられても困るのだ。ガリ勉で東大を目指していて、その先の有名企業就職も見越した上での計画を立てて生活している中学生、なんてそんな人物像を見せられて今時誰が面白がるだろう?そのガリ勉君がド田舎の分校に転入して、個性豊かな面々に感化されていくなんて物語自体使い古されていないか?
 本書も「児童文学」っていうジャンルに入るのだろうか?でもこういう物語に「児童」は面白がって納得するのだろうか?表面的な見方をしがちなくせに、自由な教育を施しているつもりの、自称モノの分かった大人が喜ぶだけのように思えて仕方ないけれど。大体「児童文学」ってわかりやすくするためか知らないが、底が浅すぎて「児童」を馬鹿にしているとしか思えない代物が多すぎる。
 まあ本書の場合、最後の最後にちょっとしたからくりが施されているだけ、まだいい方なのかも知れない。

エミリー

エミリー
【集英社文庫】
嶽本野ばら
定価 440円(税込)
2005/5
ISBN-4087478181

評価:A
 「泣きながら一気に読みました。」というのは本書のような小説を読んだ後にこそ、思わず口をついて出てきてしまうはずだ。帯にある「生まれてきて良かった」という惹句もわたしを泣かせるために書いているんじゃなかろうか?嶽本野ばらといえば言わずと知れたロリータの教祖的存在として扱われているが、ロリータだけではなく「生まれてきてすみませんっていうか、この世はもの凄く生きにくいんだけど、どうしたらいいんだよ!」っていう人々全ての代弁者だと思うのだ。共感や同情や応援だけをくれるわけではなく、厳しい現実も見せつけられるが、彼特有のウェットではない乾いた優しさを垣間見ることによって救われる気持ちになる。表題作の、あることが原因で男性恐怖症になった少女と、ゲイであるために迫害を受けている少年はもちろん、学校に居場所なんてない。そんな彼らが居場所だと感じられる所がラフォーレ原宿だったり、大好きなお洋服だったりするわけだけれど、わたしたちには野ばらちゃんもいる。なんて心強いのだろう。あと10歳若かったらわたしもロリータになってみたかった。未だにラフォーレ原宿には通ってはいるけれど…。


ドキュメント 戦争広告代理店

ドキュメント 戦争広告代理店
【講談社文庫】
高木徹
定価 650円(税込)
2005/6
ISBN-4062750961

評価:A
 ノンフィクションもやっぱりおもしろい!久々に熱いものが胸にわき起こり駆けめぐった。嶽本野ばらちゃんが大好きだって、どろどろの純文学を愛していたって、良質のノンフィクションを読み終えたときの読後の爽快感は、また別物なのだ。
 10年以上前に起こったボスニア・ヘルツェゴビナとセルビアの紛争において、なぜボスニア・ヘルツェゴビナ側のみが世界の同情を誘えたのか?なぜセルビアがイラク以下の悪の国家という烙印を押されたのか?その鍵は全て「ルーダー・フィン社」が握っていた。彼らの正体はアメリカの一PR会社であって、決して国際スパイでも謎の暗黒組織でもない。企業として真面目に良い仕事をしたという結果が世界中の世論を「悪の国家セルビア」で定着させ、国連を離脱させるまでに追い込むのだから、恐れ入るとともに何とも恐ろしい限りだ。著者が「情報の死の商人」と称する気持ちも良くわかる。PR会社の敏腕ぶりを描いてはいるのだが、そこに潜む恐怖や、ボスニア・ヘルツェゴビナの狡猾さにも充分に触れていることが本書に深みを増している。

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