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WEB本の雑誌今月の新刊採点【単行本班】2007年4月の課題図書ランキング

物しか書けなかった物書き
物しか書けなかった物書き
ロバート・トゥーイ(著)
【河出書房新社】 
定価2520円(税込)
2007年2月
ISBN-9784309801032
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  川畑 詩子
 
評価:★★★
 突き放したような、かつ暖かいような不思議なトーンの作品群。ハードボイルドを茶化したものもあれば、ゾンビ譚もあり、一人の男の胸の内を押さえた筆致で描いた短編もありと、バラエティー豊かな短編集になっている。共通しているのは、結末が予想外なこと。読者をあっと言わせること、謎をかけることへの強いこだわりを感じた。  私的には「拳銃つかい」と「予定変更」が好き。筋の面白さを純粋に楽しめた。

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  神田 宏
 
評価:★★★★
 ウイットとペーソスに富んだミステリ掌(たなごころ)小説集。それはまさに「いっぱい喰わされた!」という時の気分を読後に思い起こさせる。そして、なんともいえないのは著者の弱者への眼差しである。『そこは空気も澄んで』の亡き父の代わりに、マフィアのボスに誓いを立てる青年が、その付添い人のアル中のみすぼらしい叔父へ向ける切なくも哀しい眼差し。または、『支払い期日が過ぎて』や『家の中の馬』の硬直した官僚機構への痛快な一撃。もしくは、『オーハイで朝食を』の狂気を苗床にする現代の病理への皮肉めいた眼差し。そして、全体を覆うケルアックばりの乾いた風景。そして生き急ぐかの様な性急な焦りにもにた気分を惹起させる文体。ほろ苦さの中に、深い洞察に満ちた諦念が口をあけている。その味はあまりにビタースウィートだ。

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  福井 雅子
 
評価:★★★★★
 書いたものが物質として現実に目の前に現れるようになった物書き、怪死した4人の妻のうち3番目と4番目の妻がどちらも同じ階段から落ちて亡くなっている数奇な運命の男がたどる更なる数奇な運命、妻を殺したと思わせて警察をからかう恐るべきジョーク男、バーで声をかけられた美女の誘いに乗り謎のヒットマンに命を狙われる映画俳優の運命と事の真相など、ユーモア溢れる14の短編。  「なんだ、なんだ?」と言っている間にあちこちに連れて行かれて最後は見事なオチにストンと着地。ワクワクしながらページをめくり、クスクス笑いながら先の展開を想像し、絶妙なオチにうーんと唸る。ナンセンスなまでのユーモアだが、計算された、明るくセンスの良いユーモアだ。ちょっととぼけた雰囲気もまた味がある。一言で言うと、落語に近い面白さだろうか。笑いとユーモアを求める方は是非!

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  小室 まどか
 
評価:★★★
 ほんのりホラー風味のミステリ短編集。エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジンの歴代編集長に愛されながら一度も受賞経験がなく、現在の行方は杳として知れないという作者の経歴をきくと、なんだか煙に巻かれたようにぼやけたオチのつけ方にもなんとなく納得してしまう。  どの作品も、謎解きというよりはその展開の妙がおもしろいのだが、14篇中、個人的に最も愉しめたのが「オーハイで朝食を」。しがないタクシー運転手のクオークのもとに保安官代理が訪ねてきて、転落死した夫妻の所持品のノートに、彼の名前がみつかったという。クオークはしぶしぶ、あまり後味のよくなかったヒッチハイクの顛末を思い出すのだが――。気のよさそうな巡査部長との掛け合いから、とぼけたクオークが思ってもみなかった空恐ろしい推理が成立していく過程、そしてそれがはっきりとは確認しようもないという現実が、ミステリアスで皮肉たっぷりだがユーモラスな作風をよく表している。

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  磯部 智子
 
評価:★★★★
 軽いタッチの洒落た短編集を予想していたので読んで驚く。連続殺人鬼、プロの殺し屋など食わせ者ぞろいの登場人物たち、そこから誰が加害者で被害者なのかを判断するのは難しく、緻密に計算されたオセロのように一瞬で白黒が反転してしまう。奇妙なユーモアをもつ凄い技巧の作家だと感心する一方、「物事を底辺から見る」ことによって書き込まれた人間のペーソス溢れる姿など、気楽な気分に不意打ちを喰らわされる作品も見逃せない。表題作は書いているものを物質化してしまう「価値」を書くことが出来ない「実体」しか書けないシナリオライター=「物書き」の話で、更に作家に抵抗する作中人物が登場する『いやしい街を……』(あれ?)など、奇想の中に作家を彷彿させる創作にまつわるものもある。他ゾンビやE・クイーンの登場など多彩な作品が繰り出す驚きの変化球を大いに楽しんだ。

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  林 あゆ美
 
評価:★★★★
 ひねりがあったり、くすりと笑ったり、飽きのこない作品がならび、すいすい楽しく読みすすめる。この楽しさ、個人的には昔話を読んだ時に感じる楽しさに似ている。気持ちが広々とするような心地よい感じ。  表題作の「物しか書けなかった物書き」を読みながら、頭に浮かんだのは、グリムの昔話「漁師とおかみさん」(ちなみにこれは、マーゴット・ツェマックの絵で読むのがオススメ)。瓢箪から駒のような幸運を手にしてどんどん強欲になっていく妻、その欲望をかなえる夫というシチュエーションからそう連想したのかもしれない。グリムのラストも悲哀を感じるが、トゥーイのは残酷だけれどにやりともしてしまう。このおかしみは何度も味わいたくなるほど尾を引く。「おきまりの捜査」は本書一番のお気に入り。主人が亡くなり警察を呼ぶ夫人。そこまでは常識的なのだが、巡査が遺体を確認する場面から、一行一行をじっくり何度も堪能した。最後の3行はとにかくすばらしい。

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