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空中スキップ
ジュディ・バドニッツ(著)
【マガジンハウス】
定価1995円(税込)
2007年2月
ISBN-9784838715404
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
川畑 詩子
評価:★★★★★
『ねにもつタイプ』の著者岸本さんが翻訳した小説は、やはり面白かった。
一つとして同じ調理方法を使っていない品数がとんでもなく多い料理を頂いたような気分。スキップしないと到達できない地点。
地下鉄で乗り合わせた乗客一人一人の暮らしや人生を、微細に想像してみたり−それはもう想像の域を超えて、本当にあったことのように語られているのだが。自分だけの人生の地図があるとともに、全ての人の来し方行く末が示された偉大な地図があるという詩的なイメージを持っていたり。はたまた、命がけのチアリーダーとその活動の一代記が展開されたり。まじめな顔で淡々とした語りなのに、お話は突然飛躍する。まさにスキップ。
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神田 宏
評価:★★★★
幼い頃、37度の微熱で臥せった夜。すりおろした林檎の匂いのする甘い熱い息を吐きながら、遠くで聞こえる蛙の鳴き声に人の声を聴いた気がして、フト眼を覚ます。そのときの微かに残る夢の残滓のように、頭にこびりついて離れない。フェニックスになって燃え盛る炎に包まれるチアガールが、飛行機から飛び降りるガールスカウトの少女たちが、そんな微かな悪夢のような、拭き去りがたいが、うっすらとした印象を残す掌編の詰まった一冊。読後、何となく微熱を感じて火照った体を覚まそうとベランダに出た。桜の花びらが雪のように風に舞っていた。桜は自ら発光するかのごとく薄ピンクに空を染めていた。
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福井 雅子
評価:★★★★★
母親に心臓を提供する息子の話や、最新統計で最も平均的な人間とされた男が各企業のマーケティング担当者から引っ張りだこになる話、突然子どもが生まれなくなった世界の話、巨大な赤ん坊が家を這い回る話など、ありえないけれどおかしくて退屈しない23の物語を集めた短編集。
これは面白い。まずその奔放で多彩な空想力に感服する。読者の度肝を抜く設定の話が次から次へと23連発である。また、ブラックユーモアたっぷりの可笑しさであるのにそれほど毒々しさを感じないのは、荒唐無稽なストーリーの中にも、シニカルだがどこか血が通った社会風刺的な視点を感じるからだろうか。ただの「ありえない話」ではなく、ハチャメチャに見えて実は社会風刺的な意図を持つ話だったり、どの作品からも作者の一貫した姿勢を感じる。さらに、見逃せないのは、この本の魅力を一層ひきたてている翻訳の上手さである。リズム感のある文章といい言葉の選び方といい、絶妙である。今後の作品にも注目したい作家であり翻訳家である。
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小室 まどか
評価:★★
『空中スキップ』とは言い得て妙だ。訳者の岸本佐知子さんの著作(3月の課題本だった)『ねにもつタイプ』と、着地点の見えない幻想にみちた作風の短編集という点では共通したものが感じられる。
しかし、パステル調の装幀と、いまいる世界の居心地の悪さから解放してくれる云々という帯の文句に、しあわせな後味を期待してはいけない。不条理かつ先の見えないスピーディーな展開のなかで、人間の身勝手さ・自分かわいさが、抉り出されるわけでもなく、透け見えるわけでもなく、当然のこととして悪びれずに(ある種のユーモアさえ交えて)前面に描かれる様は、完全にホラーだ。しかも吸引力があるので始末に悪い。“バドニッツ体験”が世界観を変えるとしたら、いまいるあたりまえの世界がちょっとマシに思える、そういうことか……。
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磯部 智子
評価:★★★★★
先月の課題『ねにもつタイプ』の著者、岸本佐知子さんの本業である翻訳書。エッセイも面白いが、選び抜き翻訳した本は飛びっきりの面白さ。黒い笑いが充満する『犬の日』から始まりダークに沈没するかと思ったら、あれよあれよと次々物語は変身を続け、リズムの良さに乗せられて気分はまさに空中スキップ〜♪ バドニッツもまた全米図書協会による「35歳以下の注目作家」のひとり。『借り』は心臓発作で倒れた母のために、おばたちがよってたかって僕に「ほんのちょっとの恩返し」だと心臓提供を迫る話。『アートのレッスン』では「何物にもとらわれない自由な精神」を実行に移した途端自らが「最新の奇抜な展示作品」になる皮肉。『アベレージ・ジョー』は文字通りこの国で最も平均的な「特別な普通の人」の話。あらゆる角度から人生に焦点をあわせ拡大したり縮小したりしながら、人が何を見逃し何に囚われすぎているのかを、可笑しくも鮮明に浮き上がらせる軽快な言葉の隙間を、どこまでも深くはいっていけそうな気がする出色の短編集。
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林 あゆ美
評価:★★★★
23の物語が収録されている短篇集。翻訳者が岸本佐知子さんとあらば、期待は大きく、裏切らない信頼感をもって読む。不条理に満ちた世界が飛び込んできた。不可思議な世界がリアルに展開され、読後感は少々苦いものもあり。
トゥーイの短編も不条理なものがあるのだが、健康的に思える。バドニッツの短編は、抱えなくてはいけない不健康とでもいおうか。
好みは「飛ぶ」というわずか4ページの物語。むかしむかし、女たちは礼儀正しく建物の上から飛びおりていた。飛ぶ理由もあった。ところが、今の時代になってみると、マナーもなく飛びおりる女たちが増え、せっかちに飛ぶ。ひらりひらりと飛んでいたのに、さっさとテキパキと味わいがなくなった。そんなことをささやかに語るのだが、最後まで読むとずしっと残る重たさがある。ひろい世界にあるこんなこと、あんなこと、それらを斜めに、それでいてまっすぐ見せてくれるサンプル集のような短編ばかりだ。
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