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ウォンドルズ・パーヴァの謎
グラディス・ミッチェル(著)
【河出書房新社】
定価2310円(税込)
2007年4月
ISBN-9784309801049
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
小松 むつみ
評価:★★★
イギリスの田舎町で起こった首なし殺人事件。行方不明の地主が被害者と思われるが、身元はなかなか判明しない。地主の屋敷やその周りには、お約束のごとく個性的な人々が暮らしている。そして、その中の一人最もあやしげな、まるで魔女のような老女、実は有名な精神分析学者であるミセス・ブラットリーが探偵役として、この謎の多い事件を解決へと導いていく。その傍若無人っぷりが、まことに痛快でもある。
80年近く前に書かれた作品だが、なかなか軽妙で、老年から若者まで登場人物たちの幅も広く、それぞれ個性豊かに動き回り、古さを感じさせない。
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神田 宏
評価:★★★
正直に言う。英国ミステリ、中でもクローズドサークルもの、「オフビート」と呼ばれるものが、苦手である。スノビッシュな会話がどうも、想像力の無い私にとっては、何を読んでも同じに思えてしまうのである。そこでだ、具体的な人物を登場人物に当てはめて読んでみた。今回は「ミセス・ブラッドリー」を美輪さんにしてみた。そうしたら。ハマりました! これが、スノビッシュな会話も、クールな人を食ったような会話もこれすべてOKです。犯人の疑いが濃厚な「ジム」が「ブラッドリー」を評して宣う。「よくよく、見ると、この婆さんワニには似ていない──うん、ワニじゃないぞ!じゃあ、なんだ?──トカゲだ!婆さんが他人をだしにして楽しんでいるとき──一日の九割がそうで、残りの一割は他人のことなど眼中にもないときた!(中略)絶対なにかの生まれ変わりだよ!」ってな具合。そんな、美輪さん、もとい、「ミセス・ブラッドリー」が英国の片田舎の肉やで発見された首なし死体に挑戦。
どこまでもイロニー溢れる会話が今回は結構つぼにハマりました。「ブラッドリー」の推理もなかなかの切れ味でしたよ。人生の酸いも甘いも知り尽くしているところも美輪さんばりだ。
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小室 まどか
評価:★★★★
何の変哲もないイギリスの小さな村で、嫌われ者の名士が失踪する。翌日には隣町の肉屋で首なしの死体が、しばらくして近隣の海岸で頭蓋骨が発見されるが、頭蓋骨の行方はわからなくなり、屋敷の森の中ではスネに傷持つ人々の思いが交錯して、次々に奇々怪々な出来事が――。
クリスティとほぼ同時期の作家ということで、登場する村や屋敷の雰囲気などはミス・マープル・シリーズにも似ているが、こちらの名探偵ミセス・ブラッドリーはおせっかいで高飛車で、しかもちょっと不気味。安楽椅子探偵とはかけ離れ、ともかく活動的で、警部に檄を飛ばし、少年少女を手先のように使い、自らも敵情視察(?)に乗り込んでいく。
登場人物の魅力と、次々と怪しい人物が登場して飽きさせない展開で読ませるだけに、ミセス・ブラッドリーの売りである“精神分析”の用い方がやや乱暴で、最後のオチにも若干の歯切れの悪さを感じるのが残念。
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磯部 智子
評価:★★★
読み終えて仰け反った。そうじゃないかと、薄々思っていたのだが、もしかしてミス・マープルのパロディ? セント・メアリ・ミード村に住む、世間知らずだが温厚で愛される老嬢、そうなめてかかると、あっと驚く推理力を発揮するポアロと並ぶクリスティ作品の名探偵ミス・マープル。本作の主人公ミセス・ブラッドリーは全く正反対、精神分析学者で、ずけずけと辛辣にものを言い、笑うと見える彼女の歯は「冷酷な猛獣のよう」であり、「他人の神経にさわる」その存在感たるや無視できるものはいない。肉屋の鉤にぶらさげられた「首なし死体」の謎をめぐり、ミセス・ブラッドリーのみならず、不審に動き回る村民たちも存分にその個性を発揮し、イギリスらしい辛辣かつユーモアあふれる会話も楽しめる。そして何より驚愕の結末…1929年の作品だと確認して、イギリスの女性作家は昔から……尚更その勇気に敬意を表する。
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林 あゆ美
評価:★★★★★
カタカナ名前の翻訳小説は読み慣れていると自負しているのだが、この話のチューニングはなぜか時間がかかった。早く読めなくて、人物が頭に入ってこない。女性の名前のように思える名前が男性だったりするせいなのか。しかし、最初の二章を5回ほど読み返しチューニング完了したとたん、一気に面白くなり、最後の最後の一行まで堪能した。
ミセス・ブラッドリーが事件を主にひもといていくのだけれど、彼女だけでなく脇役の人物がそれぞれ個性的で人間味あり、首のない死体をめぐる事件というおどろおどろしい設定をコミカルにテンポよく展開していて飽きなかった。のどかな描写とスリリングさが共存し、独特な味わい。和田誠による装丁もよくて、オススメです。
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