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WEB本の雑誌今月の新刊採点【単行本班】2007年6月の課題図書ランキング

双生児
双生児
クリストファー・プリースト(著)
【早川書房】 
定価2625円(税込)
2007年4月
ISBN-9784152088154
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  小松 むつみ
 
評価:★★★
 なかなか手ごわい。どっしりと腰をすえて取り組まなければ、本当に堪能することはできないだろう。
 一言で言えば、歴史改変SFなのだが、言われなければ、気がつかないほど実に精巧に作られている。同じシーンが何度も何度も繰り返しさまざまな形で登場したり、回想だと思って読み進めていると、実は気を失っていた一瞬によぎった妄想だったり……という、その複雑な構成に付き合うには、かなりの忍耐力も必要だ。いや正直なところ、読了後は、狐につままれて、さらに狸に化かされたような状態であった。少しずつ、頁の間を行きつ戻りつしながら、読み進めるのも一興。プリーストの深く魅惑的な森に、迷い込んで化かされるのも一興であろう。

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  神田 宏
 
評価:★★★★
 英国のオリンピック代表としてベルリンを訪れた双子の「J・L・ソーヤー」兄弟。ナチスのユダヤ人弾圧の圧政から下宿先の娘を英国へと逃すが、ジャック・ソーヤーは空軍大尉となって戦火の中ドイツへの爆撃作戦に従事する。一方、ジョン・ソーヤーは良心的兵役拒否者として、逃亡を助けた女性と結婚し赤十字の活動に従事する。この二人の対照的な人生が、私たちの知っている史実と改変された歴史とにめまぐるしく交錯する。一方の歴史では連合国軍の勝利によって終戦を迎えるが、他方は、ナチス高官のルドルフ・ヘスとの単独講和で終結するといった類いに。しかも、語り手の歴史作家(彼にも出生の秘密が)のもとにもたらされたJ・L・ソーヤーの手記を持つJ・Lの娘だという女性もいて、メタのレベルでなくすべて本文の中で位相の話が錯綜するので厄介だ。冒頭から「米中戦争」云々(最初、朝鮮戦争かと誤読したぞ)との話もあり、巡らされる伏線を読みこなすには極度の集中を要した。やや、テクニック偏重な所はあるが、爆撃機の迫力ある描写など、リアルさで引っ張られる。読後、ぐったり疲れてしまったが心地よい知的刺激があった。知恵熱(?)でたけど。

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  福井 雅子
 
評価:★★★★
 J.L.ソウヤーというイニシャルまで同じ双子の兄弟が第二次世界大戦という歴史の大きな転換点にかかわり翻弄される話だが、いくつかのバージョンの「虚構の歴史」を並存させて描いており、SFともとれる不思議な物語である。
 前半の兄弟の青春時代から戦争に至る時代は、SF的要素を感じることなく純粋に読み物としての面白さを楽しめる。だが、途中から何やらつじつまが合わなくなっていき、ついにわけがわからなくなって、この時点で初めて「これはSFだったのか!」と気づく。世界がねじれている? 歴史がどこかで分岐した? この章はどっちの世界? 考えれば考えるほど深みにはまるが、これはいったいどうなっているのかと考えながら読むことがまた楽しい。巻末に訳者による研究論文級(?)の素晴らしい解説が付いており、この解説まで読んでようやく頭に渦巻く疑問が解消したと同時に、作品を違う角度でもう一度楽しめた。物語としての面白さを楽しみ、SF的な要素を楽しみ、そして解説を読んでもう一度楽しむ──1冊で三度おいしい作品である。(くれぐれも解説を先に読まないでください!)

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  磯部 智子
 
評価:★★★★★
 うわあ〜凄すぎる。急いで読むのは勿体無いのに、面白くて一気に読んでしまった。慎重に、用心深く読まないと後で足許をすくわれると知っているのだが、逆にあまり物語に寄り添いすぎても、思い違いを深めることになる。途中までは、『奇術師』より断然読み解き易いと思っていたのが大きな勘違い……一卵性双生児のJ・L・ソウヤー、ジャックとジョー、「人生の岐路」の度に二人は激しく対立する。第二次世界大戦中に活躍した英空軍爆撃機の操縦士でありながら、同時に良心的兵役拒否者であることは可能なのか? 語り手が変わるごとに、時空は歪みを増し、それはチャーチル、ルドルフ・へスという歴史上の人物たちも巻き込んでいく。目まぐるしく変わるゴールポストは、本当はどこにあるのかと考え続けたが、結局最初からずっとそこに「並んで」あったことに気づくのは、全てを読み終えた後だった。大森望氏の解説は更に様々な仕掛けを解き明かし、それが嬉しいのか悔しいのかが悩みどころだが、もう一度読み返してもきっと楽しめると言う確信はある。

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  林 あゆ美
 
評価:★★★★
 そこそこに分厚い本なのだが、冒頭の敷居は低く、つるんと話に入っていく。
 サイン会に出席した作家の前に行列どころか、人がほとんど並ばない。手持ちぶたさになった時に、ある女性が作家の望むものだと思うと原稿の入った封筒を渡す。そこに入っていた原稿に書かれていたことが、小説の次の展開になる。一卵性の双生児であるジャックとジョーで語られはじめると、歴史は虚実ないまぜになっている(と、解説を読んで知った)。ふたりの視点は交差したり、寄り添ったりで、歴史的な背景もわからないのに、するすると読めるのが不思議なくらいだった。が、読了して大森氏の解説で読み落としていることの多さに気づき、がっかりした(笑)。再読せねば。

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