WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年7月の課題図書 文庫本班

天使の牙から
天使の牙から
ジョナサン・キャロル (著)
【創元推理文庫】
税込882円
2007年5月
ISBN-9784488547110
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  鈴木 直枝
 
評価:★★☆☆☆
 驚愕という言葉が相応しい。テレビや映画で華々しい時期を過ごした男女の俳優が死期を宣告され、突然引退表明しヨーロッパに移住したりという芸能ものを想像させる書き始めからは想像できないラストが待ち受ける。ここまで落とすか!裏切りというより落胆。さっきまでの人を思いやり生への希望にあふれた表情が嘘のようだ。
 いわゆる業界人が多く登場する。自分の最期を眼前に控えたとき、人は冷静に哲学的になるようだ。いかなる時間にも慈愛を感じ、最後かもしれないからどんな時も宝物でいっぱいに思える。生きることの感謝、退屈という平和のありがたみを素直に「そうかそうか」と享受していたからこそ、最後の「落とし方」に許せない怒りを感じた。
 ここまではらわたが煮えくり返る思いをさせ、さぞかし著者の思う壺だろう。人物が重なり、語りの担い手が入れ替わり、時間軸がぶれ、すらすら読める類の本ではない。覚悟して下さい。

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  藤田 万弓
 
評価:★★☆☆☆
ファンタジスティックなタイトルと表紙から連想される柔らかな話を期待すると見事に裏切られる。
しかも、裏切られたことに気がつくのはおよそ終盤。語り手が章毎に入れ替わり、その都度語り手に共感してしまう単純な自分にも気がつく。
軽いタッチの会話も多いがその裏に著者のたしかな小説観が伺えた。
寡作にして死をテーマとしていることからも垣間見られるがここで死は単なる物語装置ではなく、それを通じて読者に思考をも訴えるために真摯に扱われている。ひとつ不満に感じるのはキャラクター。
ワイアットとアーレンの死にかけのTVタレントと元女優という設定は凡庸だった。
しかしそれにも関わらず読者に共感を誘う心理描写の巧みさは素晴らしく、いやおうなく巻き込まれていってしまった。

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  松岡 恒太郎
 
評価:★★☆☆☆
 生と死をモチーフにしたミステリー作品。
平行して進む二つのストーリーが次第に絡み合ってゆく物語。
 しかし率直に言ってこの作品、僕には今ひとつシックリこなかったです。
それはすなわち、翻訳が肌に合わなかったのではないかと思うのです。たとえば会話中のアメリカンジョークや大げさな喩え、それらがいちいち気になって、なかなか物語に入り込むことができなかった。
 入り込むことができないので文字を目で追いながら要らんことばかり考えていた。
「そう言えば夢に襲われる話って他にも結構あったよな!」しかし何故かその時僕の頭に浮かんでいたのは本家の『エルム街の悪夢』ではなくって、それをパロディーにした江口寿史さんの漫画の方。
 バスタブで眠りかけた若い娘さん、お湯の中から鋭い爪が現れる。次のシーンで姿を現したフレディー君は背後から彼女のわき腹を必死でこそぼる。涙を流し笑いつつ悶え苦しむ娘さんが叫ぶ「寝かせてぇー!」
 読み手の思考がよそへ行くようじゃ、心打ち震えたりはいたしません、残念ながら。

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  三浦 英崇
 
評価:★★★☆☆
 今回の海外作品は、3作とも奇妙な風情のが揃ってて、うまく書評できるかどうか……その中でも特にこの作品。絶対、的外れなことを言う自信があります(おい)。ま、俺がどう思ったか、が一番大切なんだろうしね。
 死とは、人間誰であれ必ず経験することなのに、実は、自分の「死」そのものを経験することは絶対に不可能であり(死んだ自分を、振り返って見直すことはできないから)、他者の死を介してしか理解できないという、何だか、とてももどかしいものです。だから、それを自分に納得させるため、人は超自然的存在を持ち出すんだろうな、と思う次第。

 でも、自分の死にあたり、どういうものだか理解することを強制されるとしたら……勘弁してほしいなあ。精神的にも、肉体的にも痛みを伴う真実を、受け入れろと言われても困るし。だから、主人公ふたりが「死」と寄り添う姿を見ても、核心を衝いた話はできそうもないです。ぼやけた書評だなあ、正直。

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  横山 直子
 
評価:★★★★☆
最初のページから、なんだか面白そうだぞ…と感じた。
「なにしろもうひっどぉい島」へ行ったおみやげ話から始まるのだ。
そして私の大好きなダジャレ、ブラックユーモアの嵐(鳥飼否宇氏に通じる)!
テンポも良くって、ひょいひょいとあっちの話、こっちの話と飛ぶ、飛ぶ。
養蜂家大会の帰りに出会った男女のくだりを読んでいるときには、わけもなくニマニマし、銀行のロビーで読んでいたことをすっかり忘れて没頭してしまった。
何度か名前を呼ばれて、ビクリ。

舞台はアメリカ発着、オーストリアのウィーン経由か。
死を待つばかりの病にかかった男性と、若くして引退した元女優の話の二本立て!
それが後半からいきなり一本立てとなる。
死神に会ったり、突然恋に落ちたり、過去の辛い思い出を語ったり…
とにかくえーっと驚かされたり、頭が白紙になってしまう状況が続出して、ふり幅がはげしいのなんの。
なので、振り落とされないようにストーリーについていくのがやっと。
最後は残りのページを気にしながら、やっとこさ読了。
実に体力を使いました。嬉しい疲労感。バタンキュー。

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