三浦 英崇の<<書評>>
そして更に、死んだ父親の愛人登場。どれだけ役付いたらこのゲームは上がり? とツッコミも入れたくなりますが、いずみは案外たくましく生き流せてるのですな……ふと思ったんだけど、結局、「蛙の子は蛙」って話ですねこの作品は。
確かに母親と娘、見比べて差異はいろいろあるかもしれないが、それは、加えてきた年月による経験値の差であって、母親くらいになる資質は十分あると思われますが、ねえ、いずみさん?
ま、何にせよ、母親も娘も、俺の好きなタイプからは程遠いので、目の前にいたらきっと、さっさと退散しますよ。はい。
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俺は今ちょうど、昭和と平成を丸18年ずつ生きてきた勘定になるのですが、俺の半分を占めてる「昭和」が、この作品を読んでると、激しく反応してきます。冒頭に書いた、ミステリ部分以外の調味料は、どれも、昭和の薫りがぷんぷんしますしね。
そして、単なる懐古趣味に引きずられていないミステリの部分は、主人公に「人の顔がのっぺらぼうに見えてしまう」という特殊条件を被せることで、きちんと成立しているところが魅力です。
「昭和」を子供の頃に体感していない、若い人たちへ(うわー、一気に年寄りになった気分)。
前世紀、まだゲーム屋だった頃、仕事の関係で東京近郊の水族館を軒並みハシゴしたことがありましたが、魚や水の生物に囲まれていると、仕事を忘れて、とても幸せな気分になりました。この作品は、そんな心和む場所を舞台に、事件が起こります。
石持作品ではしばしば、ミステリなのに「誰が犯人でも嫌だなあ」と思うくらい、一生懸命自分の仕事を全うしようとする人物ばかりが登場するのですが、今回もまた……でも、ちゃんと納得できる決着なので、後味は悪くありません。
人物の描き方もさることながら、水族館という場所を、実に緻密に描いているのが魅力的。そして、事件の動機も起こし方も、まさに水族館でなければならない必然性がありますし。見事です。
舞台となっている羽田国際環境水族館は架空ですが、もし実際にあったら、絶対に彼女連れて行きます。もっとも、連れて行く彼女すら、現在はフィクションなんですが……
洋楽を全く聴かないので、要所要所に散りばめられてるロックについてのネタも、知ってたらきっと面白かろう、とは思いながら、さらっと流す破目に……もし、この音楽ジャンルがお好きな方でしたら、薦めても怒られないかもしれません。
にしても、何で俺は、こんなに恐る恐る推薦文を書いてるんだろう? 強くは推せませんが、好きな人にはたまらない、そんな作品集。
時代は、特に明記されている訳ではないけど、散見する歴史用語からおそらく20世紀初頭。帝国主義の台頭に伴い、国家間で繰り広げられる暗闘に、否応無く巻き込まれる超能力者たち。
各短編が、おそらく意図的にだろうけど、時系列をバラバラにして並べてある上、前作と繋げて読まないと全容が把握できない構造になっているのが、読んでて非常に混乱します。でもこの混乱そのものが、登場人物たちが時代に翻弄されていくさまとリンクしているのかもしれない、と、深読みしてみたよ(誤読だろソレは)。
雰囲気はいいけど、読者を選ぶタイプの小説かと思います。
この本では、70歳を過ぎた今も、プラモデル制作に日々精進する「世界のタミヤ」の社長が、「やっぱプラモって楽しいわー。プラモは天職」と語りまくっています。あ、こんなに砕けた物言いじゃないですよ、念のため。
俺自身は、子供の頃は家が貧乏だったので、プラモもラジコンも買ってもらえず、タミヤのツインスターは手の届かない憧れでしたが、可処分所得がそれなりにある今なら……家族に怒られるので手が出せません。しょんぼり。
好きなものについて、好きなだけ語るその言葉に、心打たれないようなクリエイターは、エンターテインメントに関わる資格は無いです。ものつくりに携わるすべての人の必読書。
「名字が同じなら皆親戚」妄想はともかく。じゅん兄ちゃん(まだ言うか)のご本は、何かをする時に、まず心構えから入るのではなくて、ひとまず形からでもいいからやってみな、と、背中をぽん、と押してくれることが多いのですが、今回もまた、そういうごく軽い感じで「親孝行」を説いてくれます。
偉そうに上から説教するなら誰でもできるけど、実践するのはとても照れくさかったり、わざとらしくなっちゃったりしがちな親孝行を、「いっそプレイだと思っちゃえばいいんだよ」というその語り口は、少年の頃に、いろいろ悪いことを教えてくれた従兄弟の兄ちゃんそのままです。
「一番の親孝行はお前が早く結婚することだろ」なんて、絶対言いそうにないのもありがたいなあ。
でも、自分の死にあたり、どういうものだか理解することを強制されるとしたら……勘弁してほしいなあ。精神的にも、肉体的にも痛みを伴う真実を、受け入れろと言われても困るし。だから、主人公ふたりが「死」と寄り添う姿を見ても、核心を衝いた話はできそうもないです。ぼやけた書評だなあ、正直。
第二次世界大戦の終焉から2年後を起点にして、次第に遡り、終章は戦時中、というこの作品の構成は、時代背景こそ、平和を取り戻していながら、登場人物たちはかえって、戦時中の方が生き生きしているように見えます。「昔は良かった」に収束するのは安易ですが、人間、大きな不幸に見舞われている時の方が、かえって他者を思いやり、助け合って生きていけるのではないか、と思うことしきりです。
戻れるものなら、今すぐ「あの日」に帰りたい。
目的は次々降りかかるのに、一向に解決できず、徒労感だけが蓄積していくさまを、900ページがかりで読まされるとね……一見、悪夢っぽい不条理描写なのに、現実世界でも、普段からたっぷり味わってるじゃんこれ、と思えてきてしまってなりません。誰も俺の話を聞いてくれない。みんな俺に面倒と責任ばっかり押し付けてくる。何やってんだ俺。ああもうああもう……みたいな感じで。
読む時には、心身ともに問題のない状態で、一気に読み切れるだけの時間を確保してからにすること。この無限ループは、あなたの健康を大いに阻害する可能性があります。
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