多機能製品は、実は使い勝手が悪い?~『ヒットの法則2』

ヒットの法則2(日経ビジネス人文庫)
『ヒットの法則2(日経ビジネス人文庫)』
奥井 真紀子,木全 晃
日本経済新聞出版社
730円(税込)
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 文具メーカーであるキングジムのデジタルメモ機「ポメラ」をご存知でしょうか? ポメラとは、「いつでもどこでもメモがとれる」をコンセプトにした、テキスト入力専用のデジタル機器。文庫本サイズの本体に4センチの白黒液晶と折りたたみ式キーボードが付き、電源ボタンを押せば2秒で起動。電源は単4アルカリ乾電池2本のみで、約20時間連続使用が可能で、電源コードはありません。

 作成したデータはUSB接続でパソコンに転送することもできるポメラ。出先で使われることが多いテキスト入力に絞った"メモ帳"と位置付け、文具メーカーならではのこだわりを盛り込んだアイテムですが、枯れた技術を活用した新顔に「待ってました!」の声が殺到しました。

 2008年11月に発売すると、用意した初回出荷の1万台を即完売。2009年4月までに販売台数が初年度目標の3万台を突破したため、目指す数字を10万台に上方修正。30〜50代の男性を中心に売れており、「ポメラニアン」「ポメラー」と称される熱烈な愛用者も増殖中とか。

 キングジム電子文具開発部の立石幸士さんは、「何よりもまず、私自身がこういうのを欲しかった」と開発のきっかけを明かします。社外での打ち合わせなどでB5サイズのノートパソコンでメモをとっていたところ、駆動時間を気にしてACアダプターも持ち運ぶとなるとかなりの重さに。起動にも時間がかかるため、メモをとるタイミングを逸することもあり、「なんとかならないか」と不満を持ちながら思い描いたのが、テキスト入力のみができ、小型軽量で、素早く起動し、長時間駆動するツールだったそうです。

 機能がシンプルなだけに、作り込みには一切の妥協は許さなかったと立石さん。08年に重さ800gほどのミニパソコンが出始めたのをみて「価格は半分、重さも半分、機能は10分の1で、起動スピードは10倍」と目標を掲げました。キーボードの打ち心地や本体の触り心地などにも工夫を施します。

 ニーズが多様化してメガヒットが生まれにくい昨今。だからこそ、一見すき間のように見えるニーズに的確に応えれば新しい市場を生み出せることを、ポメラの開発陣は証明しました。ヒット商品は往々にして業界や社内の常識を覆す、いわば"非"常識の産物なのかもしれません。

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