第11回

 ネーム書きや校正ばかりしていたわけではない。「男なら一度はなってみたい風呂屋の番台か、エロ本の編集者」と例えられる所以のヌード撮影現場にも、もちろん駆り出された。といっても、「投稿写真」には、レギュラーでの撮りおろしヌードグラビアページがなかったので(多くはAVメーカーから新作の宣材のポジを借りてきて、グラビア風に組んでいた。経費節減ってワケです)、ヌード撮影現場初体験は、会社の1Fのスタジオで「業界ちゃん物語」(当時ブームだったいとうせいこうが「Hot Dog Press」で企画した「業界くん物語」の風俗版(パクリともいいますが))という写真マンガの撮影だった。
 
ブラジルでさんざん遊んできたせいで、女を見るとゲップが出そうな状態でいたオレは、まさか現場で股間がモッコリになって、腰を引き気味に作業するなんてことは、それほど心配していなかったのだが、実際に現場に立ったらどうなるかわからない。仕事の場にオールヌードの女性がいるという非日常な状況は、当然ながら初めてだからだ。
 
 後になって、資材部の部長として、印刷業界や紙業界の皆さんと酒席を共にする機会が多くなるのだが、そんな時、必ず聞かれるのが、ヌード撮影やハメ撮りの話。もう、ノドにタコができそうなくらい、何度も同じような話をさせられた。また、海外ロケでタレントの表紙グラビア撮影とヌードグラビア撮影を相乗りさせた時、天候にも恵まれて表紙グラビア撮影がサクサクと進み、予備日としていた次の日にヌード撮影を繰り上げようと夕食を食いながらカメラマンと話していたら、その日は当然オフになるタレントのマネージャーから、
「なんでもしますから、アシスタントということで撮影に連れてって下さい」
 と懇願され、海外ロケは初めの頃、カメラマンのアシスタントは編集が兼ねていたということもあって(少数精鋭というと聞こえはいいが、要は経費節減のため)、同行していただいたことが一度だけあるのだが、よっぽどうれしかったようでその話を社内で吹聴しまくったのだろう、同じプロダクションの他のマネージャー達から、
「あの話、聞きましたよ。僕も機会がありましたら、是非!!」
 と何度もこっそりと頼まれた。そのくらい一般の皆さんには興味津々なヌード撮影、この時のオレもそんな一般人と同じというかそのものだ。
 
 だが、いざフタを開けてみるとなんていうこともなかった。非日常なシュチュエーションには、それなりに興奮しないでもなかったし、女の裸を見て興奮しない方が、むしろおかしい。モデルが、おそらく風俗嬢だったのだとは思うが、あまりにも事務的で、下着を脱ぐにしても、まったく恥じらうこともなく機械的で(恥ずかしがられても困りますが)、色気もへったくれもない(それを演出するのが、カメラマンと編集なのですが)。撮影が写真マンガだったので、読者が喜ぶようなポーズを取らせるのではなく、絵コンテに従ってポーズを指示するのも興奮の妨げであったのかもしれない。問題はそれ以前で、要はモデルが××(容姿に恵まれていないことの蔑称)だったのだ。こうして真の意味でのヌード撮影初体験は、しばらくお預けとなった。