第22回

 新企画の話が一段落すると、突然、7月でK先輩が退職することを編集長から知らされた。
「代わりに南(武志)が来て、大体は彼に引き継いでもらうけど、「中森明夫のアイドル・シミュレーション」(以下「アイシミュ」)「フレッシュ・アイドル突撃インタビュー」(以下「FIインタビュー」)はお前の担当な。今月号まで、撮影はKが同行してくれるけど、そのあとは一人で行くんだから、ちゃんと教えてもらえよ」 
 またまた担当コーナーが増え、続けざまに肩に荷を乗せるような話が続く。
「それから、哲也クンが新しくできるデザイン部に移ることになって、代わりにバイトが一人入ることになってるから」
 K先輩の退職と7月の人事異動が重なっての結果だ。
(って、編集長を除けば、残るのオレ一人じゃないですか!!)
 編集部にはオレよりも在籍の長い学生バイトの大門クンもいるにはいるが、先述のように編集実務はやらせていない。ということは、10月号からは、実質的に最古参の編集部員は、入社4か月目のオレになってしまう。その上、得意とは口が裂けても言えない芸能担当。
(そんなのあり!? どうすりゃいいの)
 編集会議が終わった後、オレはプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。

 弁慶が後ずさりしそうな岩くらいの圧迫を撥ね退けるために、デスクに戻るなり、『マスコミ電話帳』を片手に「アイシミュ」と「FIインタビュー」に出てくれそうな新人タレントの事務所に片っ端から電話をした。
『高井麻巳子 田辺 M氏 11AM TEL:×××-△△△△』
 その頃使っていた手帳にこんなメモが残っているのだが、どう考えても出してくれそうにない事務所に連絡を取ろうとしている。いかにテンパッていたのか想像に難くない(笑)。(それにしても、編集会議で誰が候補に挙げたのだろう(オレかもしれないが)?)

 原稿やイラストの遅れだったら、徹夜だろうが休日返上だろうが頑張ってケツを合わせることはできるが、インタビューや取材のタレントが決まらないとなったら、いくら自分が頑張ったところでどうしようもない。石にかじりついてでも出てくれるタレントを見つけてこなければならないのだ。しかも「アイシミュ」も「FIインタビュー」も登場するのは一度きり、同じタレントを(たとえばセカンドシングルが出るからといって)2度使うのは御法度。生粋の芸能誌なら逆に事務所からの売り込みもあるのだろうが、そんなのは、バレンタインデーに(ひょっとしたら、誰かがくれるかも)と放課後まで用もないのに残っているモテない男子中学生のようなもので、期待する方がバカだ。
 
 しかも、芸能方面に関して「投稿写真」はある矛盾を抱えていた。
「投稿写真」の本音のウリは、アイドルのパンチラ、胸チラなどを含めたアクション系投稿写真とニャンニャン写真と水着、ランジェリー、ヌードなどのグラビアや企画。FFEのようなスキャンダル写真を掲載しているのではないが、パンチラを載せられたタレントがいるプロダクションは当然ながらしかめ面をしているだろうし、同じような年頃のタレントがいるプロダクションは、いつ自分のところのコがと戦々恐々だ。
 
 読み物ページは、硬派な業界分析やアイドル評論、アイドル応援企画とアイドルオタク向けのページがてんこ盛りで、読者的にも業界的にもそれなりに評価されていた。しかし、事務所にとってみれば、外務大臣時代の田中真紀子のコメントではないが、「がんばれ! がんばれ! って言っている一方でドレスの裾をふんづけてる人がいるんです」の小泉元首相みたいなものだ。
 そんなわけで、直接事務所にアポを取る形での「アイシミュ」と「FIインタビュー」のキャスティングは難航を極めた。大学時代にバイトで受験教材の訪問販売テレホンアポインターをやっていたオレは、電話でのトークはもとより、何回も断られることにも慣れてはいたのだが、流石にへばった。
 
 藁山の針を探すような仕事でクタクタになって家に帰り、TVを点けるとちょうど「オールナイトフジ」が始まるところだった。ナイトキャップにチビチビとウィスキーをすすりながら眺めていると、"女子大生→女子高生と当てた秋元康が送り込む次のトレンドは、人妻だ!"と結成された人妻3人ユニット「ME-MIS-Ⅲ」(ミミズ3匹)が、『個人授業は指輪を外して』を歌っていた。それを見て、8月号の「アイシミュ」で中森さんが、
「もお、ME-MIS-Ⅲのオバチャマ軍団だろうが、「じゅらくヨ~」の深夜CMでオケツふるニセモンローだろうが、どっからでもかかってこい!」
 と気炎を上げていたのを思い出した。
(このユニットならおそらく、テレビ局管理だろうから敷居は低いんじゃないか? ちょっとあざとすぎて、芸能誌は取り上げづらいだろうし)
 
  明けての月曜日、早速フジテレビの広報に電話をした。案の定、局管理でMディレクターの担当だという。なんとかMディレクターを捕まえて交渉すると、
「う~ん、ま、いいでしょう」
 渋々ながらもOK。オレは、心の中で(万歳万歳万歳万歳万歳万歳万歳万歳万歳万歳)、小躍りしながらも、淡々とその週末の取材・撮影のアポを取り付けた。それで勢いがついたのか、それとも単なるビギナーズラックだったのか、「FIインタビュー」のキャスティングも事務所直アポで決めることができた。