第40回

 遅れに遅れた「アイシミュ」をどうにかこうにか間に合わせて12月号を校了したのが10月中旬。気がつけば入社して半年が過ぎ、季節は夏をとっくの昔に通り過ぎて、晩秋になっていた。

(そういえば、夏休み取らなかったな)
 基本的には、3日間、土日をくっつければ5日間の夏休みを取る権利はあったものの、撮影、取材、アポ取りに追われて、まとめて取る機会が全くなかったのだ。とはいっても彼女もいない身としては、夏休みを取ったところで、マンガの古本漁り以外に特にすることもない(実際、たまの休みはバイクや車で一日中、古本屋めぐりをしていた)。機会がなかったのは確かだが、取る気もなかったともいえる。入社4カ月目にして最古参、ほとんど無知といっていい芸能関係の担当となり、ワーカーホリックとまではいかないが、休みよりも仕事を優先していたのは事実だ。担当ページがどんどん増え、ライターやイラストレーターの突然の降板、毎月行事のギリギリ入稿などなど、いくつかの修羅場も何とかくぐり抜け、レベルはともかく、少なくとも経験値だけはだいぶ稼いだつもりになっていた。

 そしていよいよ初めての地獄の年末進行を迎えることになった。

 前に"三大進行"の中で一番影響を受けるのはお盆進行と書いたが、年末進行は毎月25日発売の「投稿写真」の場合、2月号の発売日が繰り上がることはないので、月末・月初発売の雑誌に比べると確かに気分的に楽なことは楽なのだが、自分たちが休む年末年始の約一週間分、進行を進めておかなければならないのは同じだ。進行を早めなければならない期間は、お盆進行よりも長い。そして、進行に合わせて、「アイシミュ」や「FIインタビュー」のキャスティングも早まる。

 備えあれば憂いなし。かなり早い時点で1月号の「アイシミュ」は、酒井法子と決めていた。実際にアポを取ってあったのではないが、中森明夫の名前はなかなか業界的に強いものがあって、「FIインタビュー」よりもキャスティングは決まりやすかった。「FIインタビュー」に出てくれた酒井法子が、「アイシミュ」に出てくれないワケがないと高をくくっていたのだ。ところが、アイドルライターのF氏の一言でその高は覆される。

「サンミュージックは「投稿写真」を切ることに決めたらしいですよ。理由は分かりませんけど」

頭の中がグワ~ンと鳴って、(何故何故何故何故...)とリフレインした。

 取材現場で何か失礼があったという記憶はない。あるとすれば記事だ。オレはデスクのスタンドから10月号を引っ張り出して、インタビュー記事とグラビアを仔細に読み返した。

載せてある写真に問題はない。インタビューも変なことは書いてない。ファンレターやファンクラブの申し込み先の住所も間違っていない。

(何が悪かったんだ!?)

 答えが見つからないまま、とりあえずビクターの宣伝部に電話を入れた。「投稿写真」を切るという話は、ビクター側にも伝わっていたようで、「アイシミュ」の件を切り出すと、

「理由は分からないのですが、一応、そういう話になってますんで。中森さんの件はウチの方から話はできないので、直接事務所に電話して下さい」

 ケンもホロロだった。お詫びの電話を入れようにも、理由が分からないのでお詫びのしようもない。完全な八方塞がりに陥ってしまったが、答えは10月号の中にあるはず。オレは、10月号をもう一度スミからスミまで読み返した。

(これか、ひょっとして)