第60回

 5月号の表紙・巻頭グラビアは、志賀真理子。アイドルの撮影では珍しく(撮影のために丸一日スケジュールを空けてくれることがまずなかった)、鎌倉の洋館(貸しスタジオ)まで足を延ばしての日帰りロケだった。表紙で着てもらった制服は6月号の「森伸之の制服ヌーベルバーグ」で取り上げた(5月号は清水美砂)。

 これには、理由があって、5月号がひと段落ついてすぐの3月19日から、年末に続いて2度目のグアムロケに行くことになっていたので、締め切りを早めに設定しているこのコーナーの撮り貯めが必要だったのだ。ロケに連れていったのは、田中律子と小山真由美('70年6月19日生まれ)。事務所が違うため、田中律子は3月19日出発の21日帰国、小山真由美は3月21日出発の24日帰国とずらした(別々の事務所のコが一緒だと(当然マネージャーもそれぞれつくので)何かと気を使わないとならないからだ)。カメラマンは、最初の時と同じFさんなので、ロケーション等の心配もなく、ビザについても早めにそれぞれの事務所任せにしてしまったので、こちらについても問題はなかった。

 唯一、違っていたのは、午前中の撮影場所であるハガニア湾の海岸が、ナマコで覆い尽くされていたことだ。"覆い尽くされていた"なんて書くと大げさなようだが、ナマコを避けながら海に片足を入れると、もう一方の足をどこに置いたらいいかわからなくなるくらいの密集状態だった。グアムは時期にぶつかるとナマコが凄いと聞いてはいたのだが、最初の時は全く見かけなかったし、この時もホテル(最初の時と同じホテルオークラ)に面したタモン湾のビーチにはナマコのナの字も見えなかったので、その凄まじさには驚愕だった。サイズも大きいものでは30センチ以上ある。そんなのが、隙間がないくらいウヨウヨしているのだ。色が黒いので、グアムの透明な海水と白い砂の上では、目立つことこの上ない。海抜きのカットで足元にそんなのがいた日には、読者は興ざめしてしまう。少なくとも5メーター四方は、ナマコをどかさないと撮影にならない。

「話には聞いていたけどこれは凄いな」
 Fさんも驚いている。
「海のカットは、どこで撮るか決めてくれれば、掃除しますよ」
 とはいったものの、生まれてこの方、ナマコなんて触ったことがない。居酒屋のメニューにあるので食べたことはある。これはコリコリしていたが、魚屋の店先に並んでいるのを見た限りではグニュッとしていそうだ。
 できることなら触りたくはない。しかし、撮影できないのは困る。
 
 意を決して恐る恐る触ってみると、予想に反して堅い、まるで木の棒のようだった。木の棒と違うのは、海水から持ち上げると先端からピューッと海水を噴き出すトコくらいだ。(これなら楽勝!!)とばかりにFさん指定の立ち位置周辺のナマコをつかんでは投げ、投げてはつかみしていった。

「なんか、面白そう、私も手伝う」
 水着に着替えた田中律子が、そのまま海に入ってきて、ナマコと格闘を始めた。
「なに、これ!?」
 真黒なナマコを強く握って、海水がその先端から噴き出されるのを無邪気に笑いながら楽しんでいる。見ようによっては、かなり淫猥な光景だ。
「これはちょっと...」
 同行の女性マネージャーは、ケゲンな表情をしていたが、当の本人は全く気にしていない。考えてみれば、この時の田中律子は中学を卒業したばかり、マネージャーの表情の真相を知るには、もうすこし大人になってからだったのだろう。

 このナマコ騒動を除けば、2度目のグアムロケは、順調に終えることができた。ただ、今回も帰りの便が、深夜出発、早朝成田だったので、Fさんから不満が出た。
「結構疲れるから、次からは、昼出発の夕方成田とかにしてくれ」
 わかりました、そうしますと答えたのだが、グアムにロケに行くのはこれが最後となった。