第91回

 在宅勤務は、一週間におよび、やっと会社に顔を出せたのは、翌週の月曜日だった。
 9月号は校了してしまっていたので、予備の色校で担当ページのチェックをした。のんびりとそんなことをしていられたのは2日くらいで、すぐにお盆進行となる10月号の打ち合せやら取材やら撮影やらが始まり、忙しいいつも通りの日常に戻った。
 7月末の社員旅行の翌日から、5度目となるサイパンに飛んだ。別に日本も夏なので、海外ロケを組む必要があるのか疑問だったが、編集長命令には逆らえない。モデルは、柳原愛子('74年3月20日生まれ、千葉出身)と吉永みのり('72年10月14日生まれ、東京出身)。
 このロケは、タイフーンにタタられた。到着日の翌日の撮影初日は、ずっと雨で野外での撮影は全くできなかった。その雨も日本で経験している豪雨とは比べ物にならない、バケツどころかプールをひっくり返したと表現したほうがよいような激しさで、ひどい時は車が止まっている状態でワイパーを最速にしても前が見えない状態だった。先発の吉永みのりの撮影は、この台風のため、2日あった撮影日はほとんど仕事にならず、タイフーンが去ったあとになんとか終了した。
 このタイフーンは、日本に向かい、ロケから帰国した後に東京にも上陸した。同じ台風に2度も襲われたのは生まれて初めての体験だった(笑)。

 10月号から目次のマンガを西原理恵子に頼むことになる。これは、オレの意志ではなく、編集長に代えるように言われたためだ。突然のことで誰にしようか悩んでいたら、お隣の「おちゃっぴー」編集部に移っていた南(武志)さんが、
「いいコ、いるよ」
 とまるで歌舞伎町の客引きのように見せてくれたのが、「近代麻雀ゴールド」に載っていた『まあじゃんほうろうき』だった。
「今日、来るからさ。紹介するよ」
 編集長にも『まあじゃんほうろうき』を見せるとOKが出た。
 その当時、まだまだ駆け出しだった西原は、イラストの出前のようなことをしていた。
「目次のマンガをお願いしたいんですけど」
 初対面の挨拶後、早速切り出すと、
「どんなのにします? カエルが主人公の動物マンガでどうですか」
 西原の声は、フォークシンガーのイルカによく似ていた。
「カエルがカメラBOYやってるってことで?」
「そうそう、こんな感じのカエル」
 西原は、下書きなしでいきなりカエルの絵を描いた。
「今、ここで描いちゃいますね」
 枠線を引き始める。イラストはともかく、マンガまで出前で描いてくれるとは思わなかった(笑)。

 しかし、このすぐあと西原は売れ始め、結局原稿は取りに行くこととなり、マンガの出前はこの1回だけとなった。
 原稿を取りに行くのは、編集として当然の仕事。嫌ではなかったが、西原の原稿取りは別の意味で大変だった。西原のアパートに原稿取りに行くと彼女がメンバーを揃えて待ち構えていて、そのまま2荘、3荘、時には徹マン、たまには飲みに行くことになってしまうのだ。たかがマンガ1ページの原稿を半日以上かけてもらってくるのは不審に思われても致し方ない。オレの性生活を詮索するのが大好きな三橋がニヤニヤしながら邪推して皮肉を言う。
「大橋さんは、西原さんの原稿取りに行くと帰りがいつも遅いですねえ~」
 流れで彼女の部屋に泊まってしまったこともあったが、神に誓って(誓う必要もないのだが)、彼女とはそーゆーことは一度もなかった(笑)。