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1月22日(月)

 先週は、木・金・土と宮田珠己さんと和歌山へ。二泊三日で水族館を4つ巡り、主にエビとカニを堪能。もちろん食したのではなく、愛でたのである。カニに惚れた。

 8時半に出社。昨夜、突然降ってきた「本の雑誌」の特集企画をまとめる。なかなかいい感じの、というか「本の雑誌」にしかできない特集だから、まだ一本も原稿が届いていないどころか原稿依頼すらしていないのに、ひとまず満足感に浸る。1ヶ月ほど悩んでいたのだけれど、こうやって企画が降りてきた時の快感は何事にも代え難い。

 企画だけでなく、諸々、懸念していた仕事を一歩も二歩も進めることに成功し、さて、営業に出かけようかと思ったところ、外はエベレスト山頂かと見まごう猛吹雪。誰か止めてくれるかと思ったもののベースキャンプからは『無事の登頂を祈ってます』と背中を押され、営業へ向かう。

 外に出るとコートは一瞬のうちに真っ白。書店さんもさすがにどこもガラガラで、お互い「今日は早めに帰宅しましょう」と挨拶を繰り返す。芥川賞受賞作『おらおらでひとりいぐも』若竹千佐子(河出書房新社)が売れているのにこの雪は残念過ぎる。

『夜更けの川に落葉は流れて』(講談社)刊行記念で西村賢太さんと伊藤雄和さんのトークイベントに申し込んでいたものの、武蔵野線が18時に運休するかも、という情報が流れ出し残念ながらキャンセルす。

 早退して4時前に会社を出ると、ラーメン二郎にはいつもと変わらず多くの人が傘をさして並んでいるではないか。仰天。

 武蔵野線はギリギリで動いていたものの、運休を心配して帰る人たちで猛烈なラッシュに。腰を痛めつつ、どうにか帰宅。眺めるだけの雪は美しい。

1月15日(月)水滸伝読み始める

  • 水滸伝 1 曙光の章 (集英社文庫 き 3-44)
  • 『水滸伝 1 曙光の章 (集英社文庫 き 3-44)』
    北方 謙三
    集英社
    660円(税込)
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    honto

 本の雑誌社には、おじさんはいるけれど、"男"がいない。
 私の北方謙三壺が空っぽになってしまった。
 ついに時が来たのである──本日より北方謙三著『水滸伝』(集英社文庫)を読み出す。

 控えるは〈大水滸伝シリーズ〉『水滸伝』全19巻、『楊令伝』全15巻、『岳飛伝』全17巻の51冊である。一日一冊で、51日。約2ヶ月である。新刊を読んでいる暇がなくなるかもしれないけれど、私は"男"に逢わなければならない。そして私も"男"にならなければならない。通勤読書は『水滸伝』1巻だ。早速"男"の匂いが充満している。

 午前中、隠密行動。
 昼は、入江敦彦著『京都喰らい』の見本出しで上京した、友である140Bの青木さんと昼食。「近定」にてカキフライ定食。

 営業、のち、直帰して病院へ。
 DAZN、AppleMusicに継ぐ、我が定額制「TUFU(痛風)」の薬をもらう。

 病院はインフルエンザの患者で満員であったが、私は人生で一度もインフルエンザに罹ったことがなく、予防接種も受けたことがないのである。"男"とはそういうものだ。家族からは、あんたがインフルエンザなのではないかと疑われているが。

 ランニング7キロ。

1月12日(金)那須ブックセンター

 我が愛車「アカエイ」号を走らせ、那須ブックセンターさんへ。"本屋が地域の文化を育む、地域の読者が本屋を育てる"を合言葉に、出版社の経営者だった方が中心となり、本屋さん空白地帯の那須高原に昨秋60坪の本屋さんをオープンさせたのであった。

 開店の噂を聞いたときには出版業界で長年働いていたとはいえ、本屋さんはまったく素人であろう人が運営できるのかといさかか不安に感じていたのだけれど、なんと運営を任されたのは進駸堂や藤村書店で活躍された大ベテランの書店員Tさんだと聞き、これはまったくの大安心、それどころかTさんがいったいどんなお店を開けたのか、いや、そもそもずっとお会いしていなかったのでTさんに再会したい一心で、雪積もる前の那須高原へ車を走らせたのである。

 昨今の本屋さんオープンというと、「Title」に代表されるような"独立系"を想像されると思うが、那須ブックセンターはもちろんどこのチェーンにも属さない独立書店なのであるけれど、ある種の匂いのある"独立系"ではなく、まったく普通の本屋さんなのであった。

 ただし侮ってはいけない。そこにいるのはTさんなのだ。棚の動きを見ながら、平台の展開を考え、1時間でも2時間でもお客さんと話をし、必要とされている本やジャンルをどどどっと広げていくのである。例えば狩猟の本、例えば料理の本。先月、新潮文庫で一番売れたのは『ひと目で見分ける287種 野鳥ポケット図鑑』だそうだ。その売れ数はなんと20数冊。最初は棚一冊から始まり、あまりに棚で回転していくので面陳にしたところ、「これ便利なのよね」といってたくさんの人が買っていったそうだ。

 棚を通して会話する書店員さんは多いけれど、Tさんの場合は実際におしゃべりをして、本の好みなんてちっぽけなことだけでなく、人生そのものを抱きしめて、選書していくのであった。

 もちろん本屋さんは大変な状況なわけで、大変だからこの辺りだってこれまでなかったのだろう。しかしそこで何もせずにあきらめてしまっては、本屋さんは減っていく一方だ。今回のような志があって、もしそれで本屋さんが成り立つのであれば、そのノウハウを今後に活かしていけばいいのではなかろうか。それでダメだった場合は、では果たしてどうしたら本屋さんを運営することができるのか、また別の方法を考えればいいのだ。

 那須ブックセンターの正面は中学校なのであるが、オープンしてしばらく生徒さんがお店に顔を出すことはなかったそうだ。それは学校で禁止されているからでなく、本屋さんという場所をどう利用していいのかわからなかったかららしい。最近は少しずつ生徒さんも顔を出すようになり、Tさんはコミックのシュリンクをやめ、立ち読みでもいいから本屋さんっていう場所を知って欲しいと話していた。

 灯火はついたばかり。この灯火の下に人が集まり、きっとまた新たな灯火がどこかにつくだろう。

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1月11日(木)

 5時半起床。社外ならともかく、社内の人が締め切りを守らず、仕事の段取りがぐちゃぐちゃになってしまった。

 たとえば9日に書類が欲しいといった場合、その日に作業したいわけだから、せめて昼までに届けて欲しいのだ。

 ところが書類は昼を過ぎても一向に届かず、それどころか夕方になって明日になると言われ、その明日も届くのは夜なのであった。

 こちらは助っ人アルバイトの出欠状況も確認し、その後の作業体制を考慮して締め切りを伝えているわけで、それが一日ずれたおかげで今日はアルバイトが一人もおらず、かといって遅らせたら本人が手伝うわけではまったくなく、アルバイトがする作業を私が一人することになるのだ。

 会社というところは本当に摩訶不思議なところで、目的なんてひとつしかないのに、その目的の前に個人の感情や気分や昼寝が優先されるのであった。

 本日は人と会う約束が3つあり、明日は出張なので、7時半に出社。冷え切った社内で暖房は入れず、集中してデスクワークに勤しむ。

 昼、昨夏、神保町に引っ越してきた出版社の編集者とランチ。

「すごく居心地がいいですけど、これが普通だと思ったらダメだなって最近気づきました」

 目の前に盛られた大盛りのご飯のことではなく、出版をめぐる環境について。本屋さんがいっぱいあって、そこでたくさんの人が多種多様な本を買っていることが、どれだけ特別であることかということを忘れてはならない。

 午後は営業。書店員さんと話していると、目的も一緒で、刺激があり、非常に楽しい。会社よりも外回りがホームってどういうことだろうか。

 夜、早出と集中のおかげで、どうにか目処が立ち、残業にならずに帰宅。ランニング10キロ。ランニングで精神を安定させる。

 ところがストレッチを終えて、スマホを確認すると、会社から多数メールが届いており、これはいったい何なんだろうか。明日は往復400キロほど車を運転し、取材と営業に出かけることを知っておきながらメールを送ってくるということは、これを今夜中に展開しろということだろう。

 本の雑誌社に必要なのは、働き方改革でなく、人として改革。

1月5日(金)謹賀新年

  • マクソーリーの素敵な酒場 (ジョゼフ・ミッチェル作品集)
  • 『マクソーリーの素敵な酒場 (ジョゼフ・ミッチェル作品集)』
    ジョゼフ・ミッチェル,土屋 晃
    柏書房
    1,980円(税込)
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  • 港の底 (ジョゼフ・ミッチェル作品集)
  • 『港の底 (ジョゼフ・ミッチェル作品集)』
    ミッチェル,ジョゼフ,Mitchell,Joseph,元美, 上野
    柏書房
    1,980円(税込)
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あけましておめでとうございます。2018年も一生懸命、そして楽しんで仕事をしてまいりますので、「本の雑誌」および小社刊行物、この日記をよろしくお願いします。

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 4時過ぎに目覚める。いくらなんでも早すぎるだろうと思ったが、昨夜、熱っぽい息子と20時にはベッドに横になり、気づけばそのまま眠りに落ちていたので、睡眠十分なのだった。

 目が覚めてみると、やらなければならない仕事がもくもくと浮かび、もはや二度寝どころでなくなる。始発電車に乗って出社しようかと思ったけれど、家のパソコンでできる仕事もあるわけで、いそいそと起きだし、居間のストーブに火を付け、コーヒーを淹れて、仕事を始める。2018年の仕事始め。

 日が昇った頃、家を出て会社に向かう。通勤読書は松崎ナオを聴きながら、年末年始の間、一日一遍ずつ噛みしめるように読んできた『マクソーリーの素敵な酒場』と『港の底』(ともに柏書房)。雑誌「ニューヨーカー」のスタッフライターだったジョゼフ・ミッチェルが1900年代半ばに描いた街と市井の人々のスケッチ風ノンフィクション。私がもっとも愛するタイプの読みもの。だからこそ、じっくり、少しずつ読んでいるのであった。

 年末に4時間に渡って総集編が放送された「ドキュメント72時間」同様、すべての人生に物語があり、すべての人に心があるのだ。もちろんそれは自分の人生にも。

 ここ数年、いやもっとずっと前から、私は自分の心に蓋をし、あるいは自分の心に耳を傾けずに生きてしまっていたことにこの2冊を本を読んで気付かされる。このまま行くと、きっとどこかで心が悲鳴をあげて、壊れてしまうはずだ。今年からもっと自分の気持ちや心を大切にして過ごしていこうと思う。

 7時半に出社。ゴミを出し、机を拭き、郵便物を分け、FAXを整理し、コーヒーを淹れて、仕事を始める。

 去年は浦和レッズがアジアチャンピオンになったプライベートはともかく、仕事面においては最低最悪の年だったように思う。それはすべて自分のやる気のなさが原因なのだけれど、どうしてこんなにやる気が出ないんだろうかと毎日悩んでいるうちに一年が終わってしまった感じだった。

 しかしそれも去年散々ともに旅した宮田珠己さんに年末、レンタカーのなかで相談したところ、原因がはっきりしたのだ。宮田さんは「人間、40代で一回あがっているんですよ」と教えてくれたのだった。それならばやる気がでないのも納得だ。私はもうあがっていたのだ。ゴールに着いているのに走ろうとしても、行き先もないわけで、どうあがいたところでどこにも進めやしない。

 というわけで年末年始の間にいろいろ考えを整理し、新たな目標に向かって今年から突き進むことにした。今のところやる気はでているように思うが、まあ、はじまったばかりなので、私の痛風同様、しばし、要観察である。

 年末の間に届いていた原稿を整理し、チラシを3種作り、来週搬入の「本の雑誌」2月号の部決をし、新年の挨拶をしているうちにあっという間に夜になっていた。

 事務の浜田が「嗚呼、一日しか働いてないのに、なんだか一週間分疲れた」と伸びをして、残業を続けている。たぶん、それは、年末年始も不眠不休でいつも以上にハードワークをさせられた肝臓の蓄積疲労ではなかろうか。

 浜田の肝臓の働き方改革はいつになるのだろうかと思いつつ、夜遅くまで本屋大賞の一次投票をパソコンに打ち込む。

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