2月14日(金)ライバル 

昨日の会議で不作に終わった50周年特集号の企画を、このまま目をつぶって進めるか、それとも練り直してリスタートするか、朝、ランニングしながら検討する。

面白くないと感じていながら、面白くないものをこの世に出すというのは、私の性分として耐えきれない。全とっかえすることを決意する。編集部や他のスタッフからも独善的と思われ、嫌われることだろう。しかし数々のイベント会場に駆けつけてくださった定期購読者のみなさんを裏切ることはできない。

雑誌は読者のためにあるのだ。

ただ雑誌を作れば毎号買ってくれるなんて時代はとっくのとうに終わっている。先月号を購入してくれたからといって、今月号を購入してくれるとはかぎらないのだ。毎号毎号必死に企画を立てて、絶対面白いと思ったものを届けねばならない。10本ほどの企画を立て、変更を伝える。

午前中から昼にかけて、2月下旬刊行の大竹聡『酒場とコロナ』の事前注文〆作業。集中して、データを作り、取次店さんに送る。営業にとっての校了作業。

午後、春日のあおい書店さん、湯島の出発点さんを訪問。

夜、とある出版社の営業マンと神保町の「源ちゃん」で酒。週明けから福島を出張されるという話を聞き、大変羨ましく思う。結局、営業とはどれだけ本屋さんを訪問しているかであり、ここのところ本作りに時間をとられ、書店周りが疎かになっている自分からすると、大敗北もいいところなのだった。

「悔しい」という想いがふつふつと湧いてくる。私は営業なのだ。営業がしたいのだ。何が一番なのかわからないけれど、営業で一番になりたいのだ。

『酒を主食とする人々』『酒場とコロナ』と本作りもひと段落したので、来週からはしっかり営業に戻って、本屋さんを訪問する。負けたくない。負けるわけにはいかない。

2月13日(木)天下

午前中、企画会議。まったくの不作。

昼、天下を取りたい書店員、成生さんと神保町「マンダラ」でランチ。夢はブックバーのオープンらしい。

午後、紀伊國屋書店新宿本店さんに大槻ケンヂ『そして奇妙な読書だけが残った』を直納。

一階入り口真正面の円形平台に高野秀行『酒を主食とする人々』が並んでいるのを見つけ打ち震える。

あれはいつだっただろうか。何ヶ月も前、あるいはそれ以上前かもしれないが、ここに並ぶベストセラーの本を見ながら、本の雑誌社には一生縁のない売り場だろうと下を向いて落ち込んだ日があったのだ。

それがこうして、我が社の本が、この場所に積まれているとは...。

まだ見ぬ場所に、本に連れていってもらうのが、出版なのだ。

新川帆立『目には目を』(KADOKAWA)読了。

2月12日(水)大田丸

資料と用意して、昼、東五軒町のトーハンに向かう。コロナ後初訪問。建て直し後初訪問。まったく様変わりしており慄く。

ただし見本出しに来たわけでなく、大田丸という「全国各地の地域に深く根を下ろした書店同士が連携、協力する」団体の勉強会の講師に、『本を売る技術』の矢部潤子さんが招かれたため、その司会進行役としてやってきたのだった。

会場には20名ほどの書店員さんや書店経営者が並び、ZOOMでも40名ほどの書店員さんが参加されているとか。約3時間の講義を手伝う。

その後、市ヶ谷のアルカディアに移動し、新年会。こちらには出版社が100名以上が参加され、顔見知りの営業マンもちらほど。私自身はこの手の書店・出版団体の集まりに参加するのは10年ぶり以上であり、「こういう集まりで杉江さん見るの珍しいですよね!」と驚かれたり、「偉い人にきちんと挨拶しとかなきゃダメですよ!」と叱られたりする。

そうなのだ。私はこの手の行事が、小学校や中学校の運動会や朝礼同様に大の苦手なのだった。しかし、売上を作るにはこういうところに足繁く通い、偉いさんに顔を覚えてもらなけれならないのだろう。もし、本の雑誌社の営業が私でなく、そのようなことを得意とする人間だったならば、本の雑誌社はもっともっと繁盛していたかもしれないのだった。

2月11日(火・祝)高崎サイン会革命

10時45分、大宮から湘南新宿ライン特別快速に乗り、高崎を目指す。高野秀行さんとAISAの小林渡さんは新宿よりグリーン車乗車しているのだが、私は普通車両で読書。しかし、籠原で乗車していた車両が切り離され車庫に入るということで、慌てて後部列車に乗り換える。

11時58分に無事高崎につき、高野さん、渡さんとタクシーに乗り、イベント会場であるREBEL BOOKSさんに向かう。

REBEL BOOKSさんからは何年か前に高野さんのイベントしたいと連絡をいただいていたのだ。しかしそのときは本の雑誌社からの刊行物がなくお断りしていたのだけれど、店主の荻原がさんが熱烈な高野ファンである、また店頭にずらりと著作を並べ販売していただいているのを知っていたので、いつか新刊を出すことがあったら高崎でイベントをして、高野本の聖地化高野さんと私の想いでもあったのだ。

念願叶ってREBEL BOOKSさんに到着。屋上付きの三階建ての建物の1階が本屋、二階がイベント施設となっており、まるでアジトのような雰囲気で、大変居心地良く、お店にはしっかり行き届いた本が並んでいた。これは近所にあったら入り浸るだろうと思いつつ、イベントの準備に勤しむも、予想通り高野さんのパソコンはプロジェクターに認識されず、渡さんのパソコンを繋いで急場をしのぐ。さすがITクラッシャー高野さんなのだった。

ところが大変活発な質疑応答もあったトークイベントを終え、サイン会にうつると、そのITクラッシャー高野さんの口から信じられない言葉は発せられたのだった。

「宛名も書きますので、よければ自身のスマホに名前を打っておいてください」

おおおお。これまでサイン会の立ち会いで何に難儀していたかというと、本を受け取り、落款を押し、合紙を入れるという作業をしている間に、立ち並ぶ読者の方にため書き用のメモとペンを配ることなのだった。このワンオペ対応に苦しんでいたところに、高野さんのまさかの提案。

するとみなさんスマホを取り出し、メモ機能に自身の名前を記入し、高野さんに差し出すのだった。目の前で「革命(イノベーション)」が起きたことの感動に打ち震えながら、イベントは無事終了したのだった。

高野さんは気づいていないけれど、これは出版史あるいは書店史に刻まれる「高崎サイン会革命」の瞬間だ。高野さんは出版業界のナポレオンと呼ばれることだろう。

荻原さんのおすすめの「Bedford Market」で打ち上げし、20時発の新幹線あさま630号で帰宅。

2月10日(月)資料作り

母親を介護施設に送り出してから出社。今週から3週間、祝日も土日も休みなく働くので(19連勤)、母親はその間預けっぱなしになるのだった。罪の意識がわかないわけではないのだけれど、仕方ないものは仕方ないのだ、と自らに言い聞かせる。

11時からオンラインでの座談会収録。

午後は講演の資料作りに勤しむ。

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