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12月31日(火)大晦日

  • PERFECT DAYS 通常版【2枚組】 [Blu-ray]
  • 『PERFECT DAYS 通常版【2枚組】 [Blu-ray]』
    役所広司,柄本時生,中野有紗,アオイヤマダ,麻生祐未
    TCエンタテインメント
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7時に起きて、ランニング。10キロ。9月から毎日走ると決めて、走れなかったのはおそらく雨降りの1日のみ。最近は蹴る力も増しており、走ること自体さらに楽しくなっている。

朝食を取った後、妻と自転車に乗って角上とヤオフジへ。周辺は大渋滞、角上には入場の列ができるほどの混雑ぶり。角上には10年以上通っているけれど、ここ数年の年末年始の混雑はすごすぎる。

そんな角上にいって、年越しそば用の海老天だけ買って帰るのは、まさしく「角上の無駄遣い」であろう。

午後、Amazonプライムに入っていたヴィム・ヴェンダース監督、役所広司主演の映画「PERFECT DAYS」を観る。劇場上映時の話題を聞いてずっと観たかったのだが、ほとんど説明もなく、何も起きない映画なのに、自然と涙があふれだし、しまいには号泣しているのだった。

一年の最後に味わう物語として最高だったのでは、と振り返りながら2024年を終える。

母親はどうしているだろうか。

12月30日(月)また来るね

年末年始のことでナーバスになっている私に、「また来るね」と手を振って介護の車に乗り込む母親。号泣しそうになるのをぐっと堪える。

竹原ピストルを聴きながら実家の戸締まりをし、父親の墓参りをして、自宅に帰る。

12月29日(日)慶弔費

  • 小さい午餐
  • 『小さい午餐』
    小山田浩子
    twililight
    2,200円(税込)
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先日旦那さんを亡くした母親の友達の家に散歩がてらお香典を届けにいく。

母親の財布を預かっているのだけれど、慶弔費が異様に多い。高齢者の支出ランキング上位にあたるのではなかろうか。出費といえば朝、起きたらエアコンが壊れていて、頭抱える。いつまで暮らすかわからない家にお金を使うべきなのか。

小山田浩子『小さい午餐』(twililight)読了。膝を打つ面白さ。心底楽しんだ。

小説家が昼食を描くエッセイなんだけど、さすがの観察力、描写力、そして表現力。「孤独のグルメ」を超える「孤独のグルメ」だ。これは五郎さん好き必読だろう。やはり本物の作家の書くエッセイは全然違う。文章を読んでるたけで楽しくなる。

夜、卵焼きを作ろうとして卵を割り、卵を生ごみ入れに、卵の殻をボウルに入れていた。

12月28日(土)正月の予定

朝、母親を介護施設へ迎えに行く前に暖房をつけに実家へ立ち寄ると、社務所を掃除に行く町内会長とすれ違う。

挨拶を交わすと、「今日から年末年始はお母さんも帰ってくるのか?」と聞かれる。

介護施設から帰ってきた母親のところに遊びにきた友達たちは、さかんにお正月の話をしている。

母親の友達は、母親が正月に自宅にいることをまったく疑う様子もなく、お節をもってくるからなどと話している。

先週まで今日は何日だったっけ?と日にちも曜日も完全に忘却の彼方だった母親も、なぜに今週はあと四日でお正月なんて頭がクリアになっている。

しかし、私は年末年始、母親を施設に預け放しにすることを選んだのだった。

もちろん悩んだ。母親も大晦日や正月は自宅で過ごしたいだろうと。ただ、そうすると私の年末年始はほとんど母親の介護で終わってしまうのだ。

今年の一月半ばから週末実家介護生活を始め、私自身の本当の意味での休みというのは祝日くらいだった。ただしその祝日も本のイベントなどでずいぶん出社していた。いったい休みは何日あったのだろうかと手帳をめくりそうになってやめた。

これ以上自分を犠牲にするのに耐えきれず、年末年始は母親を預け放しにするスケジュールを介護施設に提出したのだった。

私は何か悪いことをしているのだろうか──心が暗黒に引きずり込まれているところに、とある作家さんからメッセージが届いた。

昨夜からちょっとしたやりとりをしていたのだけれど、そこには「杉江さんが困ったときには私も必ず助けたいと思ってます。」と記されていた。

続いて色校を送っていたカメラマンさんからはこんなメールが入る。

「今回、編集部の皆さまが1冊にまとめてくださって、そこに参加することができて、本当に嬉しく幸せな時間でした。」

さらに元本の雑誌社助っ人アルバイトで、現在出版社経営しているS君からは、「「本の雑誌」を2025年1月号から定期購読させていただきたい」と連絡があった。

私の人生は、本当に幸せだ。
全部、本のおかげだ。

12月27日(金)仕事納め

  • 父のビスコ (小学館文庫 ひ 20-1)
  • 『父のビスコ (小学館文庫 ひ 20-1)』
    平松 洋子
    小学館
    803円(税込)
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仕事納め。スッキリ隊の活動をともにしている古書現世の向井さんが、年末の挨拶にやってくる。

「杉江さん、好きな人とばかり仕事をしているでしょう。そこはやはり嫌いな人を3割入れないとダメです」

と謎の訓示を残して、向井尊師は自転車に乗って帰っていった。

夜、まだ仕事をしている浜田と近藤に年末の挨拶をして、神田明神、湯島天満宮、根津神社と一年のお礼と来年の商売繁盛を祈願し、往来堂書店さんで木内昇さんが解説を書いている平松洋子『父のビスコ』(小学館文庫)を買って、2024年の仕事納めとする。

12月26日(木)東海林智『ルポ 低賃金』

  • ルポ 低賃金
  • 『ルポ 低賃金』
    東海林 智
    地平社
    1,980円(税込)
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今年を代表する本であり版元として、東海林智『ルポ 低賃金』(地平社)を読み始めたのだが、ここまでしっかり取材され、しかも男女の格差や正社員と非正規との差などしっかり数字をあげて記されると、自分がとんでもない社会をサバイブさせられていることを思い知らさせれ、いつの間にこんな社会になっていたんだと怖くなってしまった。

さらに恐ろしいのは私の生活が、この低賃金の上に成り立っていることだった。出版に関する仕事も一部を除いてほとんど最低賃金で運営されており、そんなことを考えながら読んでいると、案の定王子の取次の現場や図書館の非正規公務員のことが知るされていて、喉元にナイフ突きつけられた気分になる。

12月25日(水)ヘレネの旅

高野秀行さんと小林渡さんとともに、めじろ台の老健施設に入所されている高野秀行さんのお父さんに、出来立てホヤホヤのお父さんの初めての著書『ヘレネの旅 私とギリシア神話』を届ける。

9月初めに高野さんからお父さんの余命が残り少ないこと、できれば市井のギリシャ神話研究家として本を作ってあげたいと相談され、不眠不休で制作に勤しんだのだった。

世の中には初版10万部の本もあれば、こうして自費で100部作る本もある。どちらも本であり、後世にいつまでの残る一冊なのだ。

お父さんがうれしそうに本を手にした姿を私は一生忘れないだろう。その姿こそ本作りの源だ。

12月24日(火)営業冥利

練馬のブックファーストさんに「本の雑誌」1月号の追加注文をお届けする。

クリスマスで混み合う店内にご迷惑になるかと及び腰でお届けするも、「ありがとうございます! 残り1冊で売り切れそうだったんで助かりました」とお声がけいただき営業冥利につきる。

夜、20歳となった息子と初めて酒を飲む。

12月23日(月)春風亭一之輔独演会

夜、大井町のきゅりあんに春風亭一之輔さんの独演会に行く。今年突然落語にハマったわけだけれど、これまで鈴本(寄席)に3度行ったものの、独演会は初めてでその規模と満員の会場に驚く。鈴本は半分も埋まらないのに今日のきゅりあんは1000人超えの満席ソールドアウトなのだった。

これは雑誌が売れず書籍中心となった出版と同じ現象なんだろうかなどと考えていると、雷門音助さんが出てきて「狸の札」、その後一之輔さん登場で「ふぐ鍋」、シークレットゲスト三遊亭夢丸さんが「身投げや」をやり、仲入りの後、年末大ネタの「文七元結」を一之輔さんがやる。

人間というのはこれほど面白くなれるのかと驚きつつ、笑い泣きと感情の大激流の中、あっという間の2時間が過ぎていく。

作家の人がよくキャラクターが勝手に動き出すというけれど、一之輔さんの落語はまさしくそういう感じだ。演じてるキャラクターがどんどん暴れ出しどこにいくのかドキドキしてしまう。もちろん語っている一之輔さんは制御しているのだろうが、それを感じさせないリアリティとデフォルメがたまらない。素晴らしき夜。

12月22日(日)強風

風強く、墓参りと散歩あきらめる。終日、母親を片目に読者して過ごす。

夜は、ビーフシチュー。

12月21日(土)位牌

週末実家介護のため母親を施設に迎えにいく。

昼、お寺さんで杉江さんちの位牌がおしゃれだと聞いて見せにもらいに来たと、家族ぐるみの付き合いをしていたおばさんがやってくる。

いったいどんなネットワークなんだと驚きつつ話を聞いていると、なんと5日前に旦那さんが亡くなったというから驚く。先々週お茶を飲みに来たときには夫婦でゴルフをやっていると聞いていたのにどうしたことか。

突然の病で呆気なく亡くなってしまったそうで、江戸っ子のおばさんは「ピンピンコロリでこんないい旦那いないわよ」と笑いながら話しているけれど、その笑いの向こうに抑えきれぬ寂しさがあるのは長年の付き合いでよくわかる。

12月20日(金)狂い死

  • 酒を主食とする人々: エチオピアの科学的秘境を旅する
  • 『酒を主食とする人々: エチオピアの科学的秘境を旅する』
    高野秀行
    本の雑誌社
    1,980円(税込)
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    Amazon
    HMV&BOOKS

高野秀行さんの『酒を主食とする人々』校了となる。

去年の12月にこの企画を預けていただけることになり、それから約一年で一冊の本となるわけで、書籍の制作期間としては短い方なんだけれど、大変充実した時間を過ごせたのたった。

今、率直に思うのは、もしこの本が他社から出ていたら私は嫉妬で狂い死にしていただろうということ。この本をこの手で作ることができたことに深く感謝。

夜、神田明神にお参り。

12月19日(木)本の話だけ

「本の雑誌」1月号の追加注文をいただいたので、池袋の三省堂書店さんに納品あがる。「持ってきてくださったんですか!」という言葉が何よりもうれしい。

夜、書店員さんと忘年会。「本の話だけしていたい」と話される通り、3時間本の話をどっぷりし、とても楽しき夜となる。

来年の目標は、もう一度営業をやり直す、とする。

12月18日(水)売るよ

打ち合わせをしていて出られなかった電話の主は、高野秀行さんの新刊『酒を主食とする人々』のゲラをお渡ししていた書店員さんだった。

折り返ししなきゃと思ってスマホを確認したら、留守電が入っており、再生ボタンを押した。

「杉江さん、忙しいところごめん。高野さんのゲラ読み始めたんだけど、これめっちゃ面白いじゃん。これ、売るよ!」

と録音されていた。

本を作っている間というのは本当に孤独で、不安に陥いるものなのだった。

書き手からお預かりしている原稿は当然めっちゃ面白い!と思っているんだけど、もしかしてそう思うのはこの世で自分ひとりなんじゃないかとゲラを読んでいるうちにどんどん編集ブラックホールに落ちていくのだ。

『酒を主食とする人々』は高野さんの魅力が存分に詰まった傑作で、今のところ唯一の読者である私はすごく自信があるのに、やっぱりその編集ブラックホールに引き寄せられていた。

そんな中、初めて第三者の人から「めっちゃ面白い!」と言われたことが編集ビッグバンを起こすほどうれしかった。しかしそれ以上にその書店員さんが「売るよ!」と言ってくださったのが泣けるくらいうれしかった。

そしてまたそれは自分の胸に突き刺さる言葉でもあった。自社の本の売上が芳しくなかったときに、「売れなかった」と言いがちだ。しかしそれは間違っていて、本当は「売らなかった」と言わなければならないのだ。

「売るよ」と留守電を残してくださった書店員さんは、それだけプロフェッショナルなのだった。こんなに心強い言葉はそうそう聞けるものではない。

12月17日(火)山田裕樹『文芸編集者、作家と闘う』

「普通なら初版二万部だが、ゲラを読んでみて、やりようによってはかなりの部数まで化けるかもと感じる作品があったとする。販売・宣伝の現場担当者には、後者の方をやりたがるスタッフも少なからず存在した。そういう彼らと仲良くなり信用してもらうと、編集者の仕事は格段にやりやすくなるのである。」

山田裕樹『文芸編集者、作家と闘う』(光文社)読了。

著者本人も「引退した老人の自慢話と読まれても構わない」と言っており、所々そう感じないでもないけれど、それを圧倒する実績と独特な語り口、そして何より小説を愛し過ぎてる姿に引き込まれた。

山田裕樹氏は、北方謙三、逢坂剛、船戸与一...と錚々たる作家と並走した集英社の名物編集者で、その様々なやりとりと小説論、編集ノウハウが記される。

そして上記に引用したとおり、この編集者は社内を巻き込むのが上手い。熱を伝えて、しっかり宣伝や営業をその気にさせて、愛する小説を売っていく。売るからこそ作家に信頼されていったのだろう。

原稿が届くと「いやあ、面白かった」といった後に、「しかし、もっと面白くする方法があります」と続けるのが得意技だったそうだ。

面白くする方法を考えられる編集者が、今、どれほどいるだろうか。

12月16日(月)二十歳

東大前の本の店&COMPANYさんに注文品を届ける。この居心地の良さはなんだろう。

息子の二十歳の誕生日。新潟にいるので一緒にお祝いすることはできないが、なんだかほっとするのだった。もう自分になにがあっても大丈夫。

12月15日(日)木内昇『雪夢往来』

  • 雪夢往来
  • 『雪夢往来』
    木内 昇
    新潮社
    2,200円(税込)
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 晴天。風もないので、父親のお墓参りののち、母親の車椅子を押して散歩。

 いつもならのんびり時間をかけて町内を一周するのだけれど、今日はつい早足になってしまう。なぜなら年末までとっておこうかと思っていた木内昇の新刊『雪夢往来』(新潮社)を読み出したところだったからだ。

 散歩から戻り、母親の昼食を用意してから夢中になって『雪夢往来』を読む。

 あの、北国の暮らしを描いた名著『北越雪譜』が刊行されるまでを縦軸に(なんと紆余曲折あって40年もかかっているのだ!その40年を木内昇は描ききるのだ!)、山東京伝や滝沢馬琴など人気を誇った作家たちの嫉妬や蔑みが版元も交えて大変人間臭く横軸で描かれる(その人物造形の見事たるや!)。

 その物語の芯には、書くとは何か、出版とは何か、が追求され、鬼気迫るものがある。

 介護を忘れる面白さ。さすが木内昇。あっぱれ!

12月14日(土)松永K三蔵『カメオ』

  • カメオ
  • 『カメオ』
    松永K三蔵
    講談社
    1,650円(税込)
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 週末介護のため、実家へ。冷たい風が吹いており散歩はあきらめる。

 母親の様子を片目に、松永K三蔵の新刊『カメオ』(講談社)を一気に読了する。

『バリ山行』(講談社)が芥川賞受賞作にしてサイコーオモシロ小説だったので、期待のハードルがぐんぐん上がっていたのだが、そのハードルを軽々超える面白さだった。本来、こちらがデビュー作らしいのだが、気づけば帯にある「行け!行け!カメオ‼︎」と私も叫んでいた。

 カメオというのはひょんなことから主人公が世話をすることになる「眼が小さくぼやけたような顔」の珍妙な犬のことで、物語の後半はこのカメオの処遇をめぐって主人公が揺れ動いていく。

 犬のカメオはもちろん、本来の飼い主であった亀夫も圧倒的な人物造形で、前作の『バリ山行』の妻鹿さん同様、この作家は、助演を描くのが憎いほど上手い。

 そしてこれも『バリ山行』同様なのだが、サラリーマンというか職場や仕事の様子がとてもリアルで、生活をしっかり書けるというのは良き小説の大事な要素のひとつだ。

『カメオ』はまさしく著者が運動する「オモロイ純文」であり、松永K三蔵、唯一無二の面白さである。

12月13日(金)空気感

  • 方舟を燃やす
  • 『方舟を燃やす』
    角田 光代
    新潮社
    1,980円(税込)
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昨日、飲んだ作家さんが、「今年出した新刊、まだ誰も感想言ってないところに杉江さんがいきなり激唱してくれて、あれでみんなこの本褒めなきゃって空気になりましたよね。だからそれ以降みんな褒めてくれてすごく感謝してます」と言われたのだった。

私にそんな影響力があるわけがなく、それは単にたまたま私が早くつぶやいたのがこの作家さんの目に触れただけなのだが、実はここのところ自分がずっと考えていたことのひとつがこのことだったのだ。

ここ最近、「この本褒めていいんだという空気感つくる」のと、「早く読んで感想つぶやかなきゃという空気感をつくる」のがとても大事だと感じている。

ベストセラーになっていく本を見ているとそうした空気感ができたものが多く、気づけばSNS上でやたら褒められている本があるのだった。

少し前までは、そうしてハリボテで褒めてもきちんと否定する感想がでてきたと思うのだけれど、最近は否定的意見言うのはNGみたいな雰囲気にもなっており、Amazonの一つ星すら増えない感じなのだった。

その空気感を作るのが営業やプロモーションの仕事なのではないかと、こそこそと研究しているところだった。

しかし、先日『本を売る技術』の矢部潤子さんとお茶した時に、矢部さんから言われた言葉がずっと頭に残っていた。

「書店員も、営業も、本の前では誠実じゃないとね」

結局、誠実に本を作って、誠実に本を売る。それを本の神様がきっとどこかで見てる、と信じるのが一番いいのだと考え直すに至った。

なぜなら、私が角田光代さんの『方舟を燃やす』(新潮社)をいの一番に激唱したのは、そういう小説だからなのだった。

12月12日(木)偏食話

夜、古書現世の向井さんと向井さんの友人である作家さん、そしてその作家さんの夫であるミュージシャンの方と忘年会。

気づけば話題はまた私の偏食話となり、鮮魚を食べられない私が毎週市場のような魚屋である角上魚類に買い出しに行ってることを罵られ、おいそれと角上に行けない都民のみなさんを「角上の無駄使い」とたいそう悔しがらせることとなる。

考えてみると共通の話題がない中での偏食話(食べものの好き嫌い)というのは、一番無難で盛り上がるのかも知れないのだった。

角上のふりかけと海苔の佃煮がめっちゃ美味いんですよと自慢すると完全に呆れられる。

12月11日(水)代々木オリンピックプール

夜、書店員さんたちとBリーグを観に、国立代々木競技場第一体育館を訪れる。

ここに最後に来たのは、まだ代々木オリンピックプールと呼ばれていた1991年10月30日のことだ。尾崎豊の最後のライブとなる「TOUR 1991 BIRTH ARENA TOUR 約束の日 THE DAY」の最終日に、20歳の私は親友のシモザワと魂を吸い取られたのだった。そして次のアルバムでの日本武道館のチケットを手にした頃、尾崎豊は71曲の歌を残し、この世を去ってしまった。

会場に入ると、どうしてもあの日の尾崎の姿を思い出してしまう。

Bリーグにはヤジも罵声も憤りも怒りもなく、私が日頃過ごしている埼玉スタジアムのゴール裏とはまったく対極のものだった。平日の夜でありながら8500人の人たちが集い、非常に楽しそうに観戦していた。令和のエンターテイメントをみる。

12月10日(火)お詫び

ちょっとした不手際があり、書店さんにお詫びにいく。すると「そんなこと気にしなくていいよ」と言われ、逆に「最近「本の雑誌」の売れ行きがいいので部数増やしてくれる?」と注文をいただいてしまった。

訪問するまでどんなに叱られるだろうかとドキドキしていたのだけれど、こういうこともあるのだった。頭を下げながら、営業のおもしろさを噛み締める。

夜、新人ベテラン編集の近藤と栗原康さんと飲む。栗原さんは東武伊勢崎線出身であり、浦和レッズのファンでもあり、また長渕剛を熱唱する人でもあるので、共通項の多い私は思わずはしゃいでしまう。

12月9日(月)達成感

  • 本の雑誌499号2025年1月号
  • 『本の雑誌499号2025年1月号』
    本の雑誌編集部
    本の雑誌社
    1,100円(税込)
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    HMV&BOOKS

週末実家介護を終え、春日部より出社。「本の雑誌」1月号が出来上がってきたので、早速定期購読者さん分の封入作業に勤しむ。1月号はぶ厚いので、ビニール製の袋に入れるのに苦労する。3時半に終了。早速駒込のBOOKS青いカバさんへ納品に上がる。

コロナ前は取次店さんへの見本出しという営業にとっては大事な仕事があり、「おすすめ文庫王国」の見本を出し終えると一年が終わった気がしたのだけれど、今やそれもなく、達成感を覚えることもない。千石駅から歩きながらそんなことを思い出すのだった。

12月8日(日)エンブレム

妻がきてくれたので、J1リーグ最終節を観に自転車を走らせ埼玉スタジアムへ向かう。本日は長年チームを支え続けてきてくれた興梠慎三と宇賀神友弥が引退するのだった。

私にとっては引退セレモニー以上に大事なことがあって、それは息子がインターンをしている姿を見られるチャンスなのだった。

寒風吹き荒ぶ中、40分ほどペダルを漕いで埼玉スタジアムにたどり着くと、息子は第4グラウンドで子供達とサッカーをしていた。

その胸には浦和レッズのエンブレムがあり、元レッズの選手たちとともに子供達にサッカーの楽しさを伝えているのだった。

たくさんの子供たちに囲まれた息子は派手にリアクションをとり、満面の笑みを浮かべボールを蹴っている。練習内容が変わるとキビキビと動き、ゴールの位置を変えたり、マーカーを置いたりしている。上手くいかず泣き出してしまった子には腰を屈め、同じ目線になって肩を抱いていた。

気づけば私の目には大量の涙があふれていた。たった2週間とはいえ夢を叶えた息子の姿がそこにあった。

12月7日(土)ボケ

朝、週末介護で実家へ。

コンサートに行く妻は来週分の薬を用意すると自宅にとんぼ返り、その後、母親と二人で過ごす。

母親は日付と曜日の感覚がだいぶあやしくなっており、ボケが一歩一歩進んでいることを感じる。まあ、私も今日が何日かわからないので大差ないのだけれど。

12月6日(金)さすが紀伊國屋

朝、デザイナーの金子さんから『酒を主食とする人々』のカバーや表紙、帯などのデータが届く。出力して、束見本に巻き、社内にあるいろんな本と並べてみる。一点で見ているのとは違う感想が湧いてくる。帯のコピーを一字変更する。

そうしているとデザイナーの松本さんから大竹聡さんの『酒場とコロナ』の初校データが届く。

私は今、朝から晩まで酒しか飲んでいない民族の本と、コロナによって酒類の提供を自粛させられた酒場のルポを同時に作っているのだった。

午後、曙橋で、『酒を主食とする人々』刊行目前イベントの打ち合わせ。

帰りに新宿の紀伊國屋書店さんに立ち寄り本を購入する。

服部文祥『今夜も焚き火をみつめながら』(mont-bell books)

早乙女宏美『ストリップ劇場のある街、あった街』(寿郎社)

田原史起『中国農村の現在』(中公新書)

春増翔太『ルポ 歌舞伎町の路上売春』(ちくま新書)

欲しかった本、探していた本、欲しくなる本とすべてが手に入り、さすが紀伊國屋さんなのだ。店内は大賑わい。

12月5日(木)会議

午前中、企画会議。前夜まで特集のテーマで悩んでいたものの、朝ランニングしながら、やりたいことをやろうと決めると、すらすらと代割が浮かんできた。

その会議の合間に「本の雑誌」2025年1月号の部数を取次店さんに確認する。なんと前年より増えており拍手喝采万歳三唱する。ありがたいかぎり。

午後、「本の雑誌」と『おすすめ文庫王国2025』の店内掲示用ベストテンボードを配り歩く。年末。

12月4日(水)窪田新之助『対馬の海に沈む』

  • 対馬の海に沈む
  • 『対馬の海に沈む』
    窪田 新之助
    集英社
    2,310円(税込)
  • 商品を購入する
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    HMV&BOOKS

久しぶりに寝食忘れて一気読みの傑作にぶち当たった。

窪田新之助『対馬の海に沈む』(集英社)は、事件ノンフィクションの、いや人間という無様な生き物を描いた慟哭のノンフィクションだ。

JAすなわち農協といったら、この世で一番人畜無害なひとが働いているような気がしていた。離島の対馬の農協なのだ。農家のために軽自動車に乗って、雨の日も風の日も台風の日も汗を流しているかと想っていた。

それがとんでもないのだ。22億円を超える横領をしていた職員がいたのだ。しかもその盗んだ人間は、農協の営業の中で全国有数のトップセールスマンであり、「LA(ライフアドバイザー)の神様」と崇められ、毎年のように表彰されていた人間なのだった。いったいどういうカラクリが潜んでいたのか。

日本農業新聞に勤めていた著者は、農協の暗部を間近に見ており、その事件がどうして起きたかの、さらにその一人に責任を負わせて有耶無耶にして終わることに憤りを感じ、取材を始める。

そこで口を開けるのは、弱くて、せこくて、ずる賢い人間社会の縮図だった。会社という組織、ムラ社会の仲間意識、誰にでもあるちょっとした欲望。これぞまさしく「ザ・日本」なのだった。

最後まで一気読みして本を閉じたとき、人間ってなんなのだろうと呆然とした。そして自分自身もその人間の一人なんだと愕然とした。

読後の興奮で一睡もできずに朝を迎えた。

12月3日(火)ゲラ、外に出る

デスクワークをしていると書店さんから電話が入る。チラシを送った高野秀行さんの新刊『酒を主食とする人々』を触りだけでも読ませてもらえないかという依頼だった。触りと言わず全部読んでいただきたく、ゲラのコピーをとってすぐさま届けにいく。

著者である高野さん、私、装丁をお願いした金子哲郎さん、そして校正家さん以外で初めて原稿が読まれるのだった。

12月2日(月)夢を語る

晩飯を食べながら、息子のインターンの様子を聞くのが楽しみになっている。

インターン先の先輩たちに可愛がられ、すっかり馴染んでいるようなのだった。今日は夢を訊かれ、「マネージャーになってシャーレを掲げることに決まってるじゃないですか」と答えたらしく、それを聞いた先輩から「最高だな!」と肩を抱かれたそうだ。

まもなく20歳になろとする男子がこんな素直に夢を語れることもなかなかないわけで、だからこそ可愛がられているのだろう。

そんな話を聞きながら思い出すのは、30年前にこの業界に入った時の自分の姿だ。

きっと私も息子のように無知で素直な青年だったのだ。だからこそ、書店員さんが可愛がってくれたのだろう。

12月1日(日)虚無感

真っ赤に染まる紅葉の下、父親の墓参り。
その後、母親の車椅子を押して長い散歩。


午後、虚無感に襲われる。
台所で酒を飲んでやり過ごす。

11月30日(土)祖母

週末実家介護で春日部の実家へ。バイトが休みだという娘もついてくる。

月に一度程度、こうして娘は私の介護に付き添ってくれているのだった。単にバイトが休みなのだと思っていたのだが、週末の書き入れ時に休みになるわけがなく、娘がお店に希望を伝えて休んでいるのだと気づいた。

なぜ休んでまで来ているかといえば、娘なりに限られた時間である祖母と交流する時間を作ろうとしているのだった。

私の父、娘にとっての祖父が亡くなった時、娘はドイツに留学していた。「帰国は無用です。今いる場所で空を見上げておじいちゃんのことを想ってください」とLINEで祖父の死を知らせると、娘はすぐに電話してきたのだった。留学してから初めて聞く娘の声だったけれど、号泣と嗚咽でほとんど言葉になっていなかった。

娘の嗚咽を聞きながら私は自分の祖父が死んだ時のことを思い出していた。祖父は父の兄の家に生活しており、私が物心ついた頃には足が悪くて寝たきりのような状態だった。お盆と年始の挨拶くらいしか顔を合わせることもなく、私が小学6年生のときに亡くなったのだが、悲しいという気持ちは湧いてこなかった。娘のように泣くことも嗚咽することもなかったのだ。

娘の慟哭はいったいどこから来ていたのだろうか──。

子供たちが幼き頃、月に2度は実家に顔を見せにいっていた。少し成長してからは毎週のように埼玉スタジアムで一緒に浦和レッズを応援してきた。そういう交わりの中から娘は娘なりに、祖父や、今こうして介護が必要になっている祖母に対して想う気持ちが湧いてきていたのだろうか。

不思議な思いで、娘と母親の会話を見守る。

ここ二週間誰も訪れてこなかった反動か、昼過ぎから夕方まで入れ替わり立ち替わりで母親の友達がやってくる。

11月29日(金)誠実

書店員さんなどと話していると、最近の人はSNSやTiktokやYouTubeなどその時話題になったものや薦められているものを、ジャンルや新旧に関係なく買われていくという。

ならばその「おすすめ」の信頼度はどこから生まれてくるのかという話を本日会った矢部さんともしていたのだが、矢部さん曰く、「誠実さ」ではないかと。ものすごく今の人は広告臭に敏感なので、なにか作為を感じるとすぐに背中を向けてしまうと。なんでもない人の、何気ない感想というのが、一番信頼されるのかもしれないと話すのだった。

矢部さんは、「書店員にしろ、営業にしろ、本を薦めるという行為は誠実でなければならない」と話を結んだ。

夜、心の温泉に浸かりに上野の鈴本へ。

初めて訪れたときに気に入った三遊亭天どんさんがトリ。芝浜を聴く。

11月28日(木)ルート開発

高野秀行さんの新刊『酒を主食とする人々』の刊行情報を解禁する。

自分で作って営業している、すべて売るために最適だと思う道筋で進めていけるのでとても楽しい。売ると作るは直結しているのだ。

千石にオープンしたアンダンテさんを覗く。出版社の産業編集センターが運営する本屋さんで、自社本だけでなく旅と暮らしの本が並ぶ、いわゆる普通の本屋さんなのだった。同じ出版社としてたいそう羨ましい空間だ。

このお店ができたことにより、ひとつの営業ルートが開発される。

あおい書店春日店(都営三田線春日駅)→南天堂書房(都営三田線白山駅) →(徒歩にて)本の店&company→(徒歩にて)往来堂書店→(徒歩にて)ひるねこBOOKS→(都バス 往来堂2丁目→上富士前)BOOKS青いカバ→(徒歩にて)アンダンテ

本屋めぐりとしても大変楽しいコースになるだろう。

11月27日(水)忘年会

夜、新大久保のソムオーにて、『美しい人 佐多稲子の昭和』(芸術新聞社)を刊行された佐久間文子さんを囲んでの忘年会。

タイ料理はなかなかの難敵だった。

11月26日(火)接客

高校時代からの親友であるシモザワくんと御徒町の「たる松」で酒を飲む。

仲居さんと呼びたくなるようなお店の人たちの人間味あふれる接客に心がほどける。いい酒場だ。

11月25日(月)集中力

週末介護を終え、今週もことなき終えたことを父親の墓前に報告し、春日部から神保町に出社。

出社するとともに週末にやっていた作業にケリをつけ、いよいよ刊行となる高野秀行さんの新作『酒を主食とする人々』の新刊チラシを作成に勤しむ。

昼過ぎにあっぱれな出来栄えで完成し、バイトがいないということで、自らコピー及び紙折り、封入作業。1日でも早く書店さんにお届けしたく、無駄口もきかず夕方6時に全作業を完了する。我にまだこんな集中力があったのかと驚く。

家に帰ると学校の研修でシンガポールに行っていた息子がこたつで丸くなっている。本来であればクラスメイトともに寮のある新潟に戻るのだが、息子は今週から埼玉のサッカークラブでインターンを受けるとのことで、成田から自宅に帰ってきたとのこと。なぜか息子がいると家全体が明るくなる。エネルギー放出の量が違うのだ。

11月24日(日)散歩

晴天。母親と1時間半ほど散歩。

イチョウの葉で黄色く染まる公園に立ち寄ると、「お父さん、会社を引退してたから、いつもここにきて日向ぼっこしていたのよね」と母親がベンチを指差す。

父親はここで何を考えていたのだろうかと母親の車椅子を押しながら考える。

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