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2月26日(水)2025年のベスト1 町田そのこ『月とアマリリス』

  • 月とアマリリス
  • 『月とアマリリス』
    町田 そのこ
    小学館
    1,870円(税込)
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北上次郎さんが生きていたら、「まさかこんな物語を町田そのこが書くなんて」と驚いたことだろう。

そして『星を掬う』の書評(本の雑誌 2021年12月号)で、「この作者がぐんぐん巧くなっていることに留意。『52ヘルツのクジラたち』は心にしみる話ではあっても、まだぎくしゃくしていたことは否めない。次の『コンビニ兄弟』は意外に器用であることを示した作品だったが、そうか、あの『コンビニ兄弟』があったから、この『星を掬う』が生まれたのかも。」と書いていたその成長の到達点が、この『月とアマリリス』(小学館)になるのだろう。

なにせあの町田そのこが、ミステリを書いたのだ。しかも横山秀夫や奥田英朗のような骨太のミステリを。それだけでもびっくりなのに、そこにしっかり「町田そのこ」があるのだ。

「町田そのこ」とは何かといえば、これも目黒さんの『52ヘルツのクジラたち』の評からの引用すると、「ストーリーを詳述しないほうがいいだろう。えっ、こうなるのかよ、と次々に驚かれたほうがいい。知らずに読んだほうが絶対にいい。ここに書くことが出来るのは、人間の弱さと悪意が、周囲をかくも簡単に傷つけてしまうということと、それでも希望を捨てなければ、救いは必ず現れるということだ。その残酷さと希望を、作者は鮮やかに描いている。」(本の雑誌 2020年7月号)というものだ。

横山秀夫が犯人を追い求めながら警察組織の中での男社会を描いたように、町田そのこは犯人を追いかけながら、この国にずっとある女性の生きづらさを描く。

読後たまらぬ想いが押し寄せてくる。横山秀夫の読み応え+角田光代の面白さ、そして町田そのこならではのマイノリティの眼差し。超弩級の傑作。まだ2月だけれど2025年のベスト1決定だ。

今すぐ本屋に行こう。そして町田そのこ『月とアマリリス』を読み始めるのだ。

2月25日(火)新春ジャイアントシリーズ終幕

高野秀行さんと京大生協ルネ店さん、丸善京都本店さんを訪問し、新幹線に揺られ帰宅。

『酒を主食とする人々』の刊行から約1ヶ月、千駄木、高崎、中井、八王子、京都と五つの本屋さんで刊行イベントを行った。

よくやったと思われるかもしれないけれど、ほとんどすべてやりたいという本屋さんがあったからやっただけで、主体性をもって動いたわけでもないのだった。

よくよく考えてみれば私の仕事はほとんどそれだ。イベントをしたい、フェアをしたい、パネルが欲しい、と望まれるものに応えているだけの31年といえるかもしれない。

サッカーで言うと、完全に受け身で、カウンター型営業という感じだ。

要望に応えているうちに、技術、というほどのものではないけれど、ノウハウのような何かが蓄積され、仕事が増えていってるのだった。

これもさらにサッカーで言うと、上手い人とやるのが楽しいというのに似ている。こちらのちょっとしたミスをリカバリーしてもらえるのはもちろん、その人たちの期待に応えたいと思うと自分のプレーも上達するものだ。

日頃、冬眠した熊の如きやる気がなく、山手線を穴蔵にして周回している私だが、著者や書店員さんから、こうして欲しい、こういうものが欲しいと乞われると、できればその要求を少し超えるものを提出し、喜んでもらいたいとがんばれるのだった。

なぜそう思えるのかといえば、著者の要望や書店員さんのリクエストの向こうには、必ず読者がいるからだ。

2月24日(月)鴨葱書店

高野秀行さんと11時18分のぞみ343号に乗り一路京都へ。米原付近では激しく雪が降り、一面真っ白に積もっていたけれど、定刻通り京都に着くと、ぴーかんであった。

早速イベント会場の鴨葱書店さんに無事着いたことを報告し、鴨葱書店さんから歩いて1分のホテルにチェックイン。

明日の京大入試の学生でフロントが混み合う中、シングルからツインにグレードアップされた部屋に驚嘆! これまでの出張で最も綺麗で、広い。(そして翌朝、朝食の豪華さに腰が抜ける)

苦節28年。おじさん三人組の取材ではビジネスホテルにエキストラベッドを導入しての3人同室にされたりしていたのだけれど、ついにここまでビューティフルな部屋にたどり着けるとは。

開演15分前にホテルをで、イベントもつつがなく終了する。

2月23日(日)くまざわ書店

くまざわ書店八王子店さんにて(会場はオクトーレ12階・第5セミナー室)、高野秀行さんのトークイベント。

八王子は高野さんの出身地ということで、『語学の天才まで1億光年』『イラク水滸伝』に続いて3回目の開催となり、安心安定の運営で大船に乗った気分で立ち会う。

イベントはつつがなく終了。先日の丸善さんのイベントでも感じたけれど、老舗というものの力を思い知る。

都まんじゅうをお土産に買って帰る。

2月22日(土)精神的距離

下北沢でトークイベント立ち会い。下北沢はなぜか高崎や宇都宮より遠く感じる。

2月21日(金)東京の夕暮れ

午前中デスクワークした後、西荻窪、高田馬場、銀座と「本の雑誌」や『そして奇妙な読書だけが残った』を直納。

透明感あふれる2月の東京の夕暮れ時が好きだ。

2月20日(木)敏腕営業マン

3月より某書店さんで大々的に始まる高野秀行さんのフェアのため、看板やらPOPやら小冊子やらを朝から一気に作る。

パネル3種、POP32枚、冊子3種と作り終えたのは午後3時過ぎ。執筆、デザイン、出力、紙折、パネル作りとひとりですべてをこなし、敏腕営業マンとは我のことなり!と誇ろうと思ったのだけれど、肝心の営業が苦手なのだった。

2月19日(水)町に3軒

午前中、富山のBOOKSなかだ掛尾本店のBさんが来社され、しばし話を伺う。その後、溜まっていたデスクワークを片付け、御茶ノ水の丸善さんや銀座の教文館さんを訪問。

今更ながらに改めて思うのは、本屋さんというのはそれぞれ異なり、一軒たりとも同じ本屋さんはない。

もちろん同じ本も並んでいるけれど、その並べ方によってその本に気づいたり気づかなかったりするもので、先ほど訪問したお店で気づかなかった本が、次に訪問したお店ではぴかぴかと輝き目に飛び込んできたりするのもしばしばだ。

現在あちこちで「無書店地域に本屋さんを作ろう」なんて叫ばれているけれど、実は本屋さんは一軒ではまったく足りず、ひとつの町にせめて3軒は必要なのだ。

2月18日(火)3K買取

代休をとって、古書現世の向井さんの買い取りのお手伝い。早稲田から多摩に車を走らせ、約1200冊の本を引き取ってくる。

最近の向井さんは買い取りの現場に着くと、すっかり私が出版社社員であることを忘れ、「とりあえず縛って」とスズランテープを差し出してくる。私も私でそれに疑問を感じず、20数冊ずつの本を束ねて縛り、積み上げていく。

ここ最近のスッキリ隊の出動では、「階段」「過酷な気温」「重ねて棚に並べられている」という3K買い取りが続いていたのだが、本日はほとんどが四六判で背表紙が見えるようきっちり棚に並び、玄関を開けたら目の前にエレベーターが2基あり、気温も涼しく、まるで天国のような買取だった。

2月17日(月)伝統

会社に着くと、依頼していた大槻ケンヂさんからサイン本が届いていたので、ひとまず市ヶ谷の地方小出版流通センターさんへ大竹聡さんの『酒場とコロナ』の見本を届け、その後、すべての予定を覆し、アルバイトの鈴木君と直納部隊を結成する。

直納部隊は、10部、15部、30部と各方面に向けてピストン直衲を繰り返し、社内では浜田が直接お申し込みいただいたお客様への発送に勤しむ。

直で始まった本の雑誌社が最も得意とする仕事だ。

2月16日(日)半日書店員サイン会

中井の伊野尾書店さんにて、『酒を主食とする人々』刊行記念で高野秀行さんの半日書店員サイン会に立ち会う。連日サイン会。

お店のレジ横に机を出し、そこで3時間ほどエプロン姿の高野さんがサインをするというイベントなのだが、果たしてこの謎の趣向のイベントにどれほどのお客様がいらしてくれるだろうかと不安を抱えていたものの、サイン会開始の2時を迎えると高野さんのファンが押し寄せ、そこから40分近く列が途切れることなくサインをし続ける胸熱な状況となる。

伊野尾書店さんでは、大きなポスターを作って掲示いただき、高野さんおすすめの本を並べたり、店頭にワゴンいっぱいに高野さんの著作を並べていただいたりと、高野さんへの愛情がたっぷり込められているのだった。

昨日に引き続き、よき休日出勤。

2月15日(土)素晴らしいサイン会

  • そして奇妙な読書だけが残った
  • 『そして奇妙な読書だけが残った』
    大槻ケンヂ
    本の雑誌社
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今週は週末実家介護を小休止し、『そして奇妙な読書だけが残った』刊行記念の大槻ケンヂさんのサイン会に立ち会う。

丸善丸の内本店さんの二階に、この日を待ち望んでいたであろうファンの方々がずらりと並んで待っている。

サイン会がはじまると、手を震わせ、ときには涙をこぼし、大槻さんと相対される。大槻さんはファンの目をじっと見て、「何かお話しすること考えてきましたか?」とゆっくり話しかけるのだった。

その一言でファンの方の緊張が解け、大槻さんのどんな曲や文章に救われてきたかと熱心に話しはじめる。おそらく人生の中に「大槻ケンヂ」がいるのだろう。

そんな大切なひとときを邪魔することないよう気をつけながら、サインを終えた本に合紙を入れていく。

丸善さんの用意周到な運営もあって、これまで経験したことのない素晴らしいサイン会だった。

よき休日出勤となる。

2月14日(金)ライバル 

昨日の会議で不作に終わった50周年特集号の企画を、このまま目をつぶって進めるか、それとも練り直してリスタートするか、朝、ランニングしながら検討する。

面白くないと感じていながら、面白くないものをこの世に出すというのは、私の性分として耐えきれない。全とっかえすることを決意する。編集部や他のスタッフからも独善的と思われ、嫌われることだろう。しかし数々のイベント会場に駆けつけてくださった定期購読者のみなさんを裏切ることはできない。

雑誌は読者のためにあるのだ。

ただ雑誌を作れば毎号買ってくれるなんて時代はとっくのとうに終わっている。先月号を購入してくれたからといって、今月号を購入してくれるとはかぎらないのだ。毎号毎号必死に企画を立てて、絶対面白いと思ったものを届けねばならない。10本ほどの企画を立て、変更を伝える。

午前中から昼にかけて、2月下旬刊行の大竹聡『酒場とコロナ』の事前注文〆作業。集中して、データを作り、取次店さんに送る。営業にとっての校了作業。

午後、春日のあおい書店さん、湯島の出発点さんを訪問。

夜、とある出版社の営業マンと神保町の「源ちゃん」で酒。週明けから福島を出張されるという話を聞き、大変羨ましく思う。結局、営業とはどれだけ本屋さんを訪問しているかであり、ここのところ本作りに時間をとられ、書店周りが疎かになっている自分からすると、大敗北もいいところなのだった。

「悔しい」という想いがふつふつと湧いてくる。私は営業なのだ。営業がしたいのだ。何が一番なのかわからないけれど、営業で一番になりたいのだ。

『酒を主食とする人々』『酒場とコロナ』と本作りもひと段落したので、来週からはしっかり営業に戻って、本屋さんを訪問する。負けたくない。負けるわけにはいかない。

2月13日(木)天下

午前中、企画会議。まったくの不作。

昼、天下を取りたい書店員、成生さんと神保町「マンダラ」でランチ。夢はブックバーのオープンらしい。

午後、紀伊國屋書店新宿本店さんに大槻ケンヂ『そして奇妙な読書だけが残った』を直納。

一階入り口真正面の円形平台に高野秀行『酒を主食とする人々』が並んでいるのを見つけ打ち震える。

あれはいつだっただろうか。何ヶ月も前、あるいはそれ以上前かもしれないが、ここに並ぶベストセラーの本を見ながら、本の雑誌社には一生縁のない売り場だろうと下を向いて落ち込んだ日があったのだ。

それがこうして、我が社の本が、この場所に積まれているとは...。

まだ見ぬ場所に、本に連れていってもらうのが、出版なのだ。

新川帆立『目には目を』(KADOKAWA)読了。

2月12日(水)大田丸

資料と用意して、昼、東五軒町のトーハンに向かう。コロナ後初訪問。建て直し後初訪問。まったく様変わりしており慄く。

ただし見本出しに来たわけでなく、大田丸という「全国各地の地域に深く根を下ろした書店同士が連携、協力する」団体の勉強会の講師に、『本を売る技術』の矢部潤子さんが招かれたため、その司会進行役としてやってきたのだった。

会場には20名ほどの書店員さんや書店経営者が並び、ZOOMでも40名ほどの書店員さんが参加されているとか。約3時間の講義を手伝う。

その後、市ヶ谷のアルカディアに移動し、新年会。こちらには出版社が100名以上が参加され、顔見知りの営業マンもちらほど。私自身はこの手の書店・出版団体の集まりに参加するのは10年ぶり以上であり、「こういう集まりで杉江さん見るの珍しいですよね!」と驚かれたり、「偉い人にきちんと挨拶しとかなきゃダメですよ!」と叱られたりする。

そうなのだ。私はこの手の行事が、小学校や中学校の運動会や朝礼同様に大の苦手なのだった。しかし、売上を作るにはこういうところに足繁く通い、偉いさんに顔を覚えてもらなけれならないのだろう。もし、本の雑誌社の営業が私でなく、そのようなことを得意とする人間だったならば、本の雑誌社はもっともっと繁盛していたかもしれないのだった。

2月11日(火・祝)高崎サイン会革命

10時45分、大宮から湘南新宿ライン特別快速に乗り、高崎を目指す。高野秀行さんとAISAの小林渡さんは新宿よりグリーン車乗車しているのだが、私は普通車両で読書。しかし、籠原で乗車していた車両が切り離され車庫に入るということで、慌てて後部列車に乗り換える。

11時58分に無事高崎につき、高野さん、渡さんとタクシーに乗り、イベント会場であるREBEL BOOKSさんに向かう。

REBEL BOOKSさんからは何年か前に高野さんのイベントしたいと連絡をいただいていたのだ。しかしそのときは本の雑誌社からの刊行物がなくお断りしていたのだけれど、店主の荻原がさんが熱烈な高野ファンである、また店頭にずらりと著作を並べ販売していただいているのを知っていたので、いつか新刊を出すことがあったら高崎でイベントをして、高野本の聖地化高野さんと私の想いでもあったのだ。

念願叶ってREBEL BOOKSさんに到着。屋上付きの三階建ての建物の1階が本屋、二階がイベント施設となっており、まるでアジトのような雰囲気で、大変居心地良く、お店にはしっかり行き届いた本が並んでいた。これは近所にあったら入り浸るだろうと思いつつ、イベントの準備に勤しむも、予想通り高野さんのパソコンはプロジェクターに認識されず、渡さんのパソコンを繋いで急場をしのぐ。さすがITクラッシャー高野さんなのだった。

ところが大変活発な質疑応答もあったトークイベントを終え、サイン会にうつると、そのITクラッシャー高野さんの口から信じられない言葉は発せられたのだった。

「宛名も書きますので、よければ自身のスマホに名前を打っておいてください」

おおおお。これまでサイン会の立ち会いで何に難儀していたかというと、本を受け取り、落款を押し、合紙を入れるという作業をしている間に、立ち並ぶ読者の方にため書き用のメモとペンを配ることなのだった。このワンオペ対応に苦しんでいたところに、高野さんのまさかの提案。

するとみなさんスマホを取り出し、メモ機能に自身の名前を記入し、高野さんに差し出すのだった。目の前で「革命(イノベーション)」が起きたことの感動に打ち震えながら、イベントは無事終了したのだった。

高野さんは気づいていないけれど、これは出版史あるいは書店史に刻まれる「高崎サイン会革命」の瞬間だ。高野さんは出版業界のナポレオンと呼ばれることだろう。

荻原さんのおすすめの「Bedford Market」で打ち上げし、20時発の新幹線あさま630号で帰宅。

2月10日(月)資料作り

母親を介護施設に送り出してから出社。今週から3週間、祝日も土日も休みなく働くので(19連勤)、母親はその間預けっぱなしになるのだった。罪の意識がわかないわけではないのだけれど、仕方ないものは仕方ないのだ、と自らに言い聞かせる。

11時からオンラインでの座談会収録。

午後は講演の資料作りに勤しむ。

2月9日(日)暗黒の世界

日曜日は実家の各部屋に掃除機をかけ、雑巾掛けをする。そうしていると呪詛の言葉があふれてくる。父親の仏壇に線香を立て、白く立ちこめる煙とともに吐き出す。

なぜに掃除をしているときにあふれてくるのだろうかというと、そもそも実家の掃除自体が無駄な行為であり、その無駄な行為を一生懸命している矛盾にネガティヴな気持ちが起きやすくなるのだろう。

母親と話していて一番暗黒の気持ちになるのは、「この家(実家)もあんたのものになってよかったね」という言葉だ。

母親からしてみたら父親とともに必死に手にした人生唯一の財産を、子供に残せたことを誇りに思っているのだろうが、現在、私は住むところに困っておらず、実家は余計な所有物以外なにものでないのだった。

母親の死後、実家を処分していくばくかのお金を手にしたとしても、その金額の多寡に関わらず、そのためにうまれるだろう山のような面倒を考えると明らかに「負動産」なのだ。

そんなことを一切考えたこともなく、誇らしげに話す母親の言葉は私を暗黒の世界に引き摺り込む。よもやお墓も含めて何も残さないというのが、子供にとっていちばんの幸せなんて考えたこともないのだろう。

2月8日(土)ご加護

朝、週末介護のため施設に母親を迎えにいく。一年以上週末介護を続けているが、土曜日に雨が降ったのは一度だけだったと記憶する。父親のご加護かそんな青空を見上げ母親はたいそう喜んでいる。

しかし風が強く、お墓参りも散歩も自粛。庭の蠟梅の枝にみかんを刺してみたけれど、メジロはやってこず。去年のこの時期にはいたのに、気温の違いか?

2月7日(金)新春ジャイアントシリーズ開幕

昼、印刷所から定期購読者様分の「本の雑誌」3月号は納品となる。アルバイトの鈴木君と運び入れ、すぐさま封入作業「ツメツメ」に勤しむ。

3時前にツメツメ終了。丸善丸の内本店さんに『酒を主食とする人々』の追加注文分を直納。思い起こせば『謎の独立国家ソマリランド』とき、こちらのお店で販売いただい500冊以上をすべて直納していたのだ。

夜、往来堂書店さんにて高野秀行さんのトークイベント。発売後のイベントは今日の日をスタートとし、この後、高崎、中井、八王子、京都と続くのだった。それを高野さんは「新春ジャイアントシリーズ」と名づける。

サイン会も含めたいへん和やかにイベントは終了し、楽しいひとときを終える。それにしても笈入店長やスタッフの高橋さんにこんな遅くまで付き合わせてしまい、申し訳ない気持ちにもなる。

2月6日(木)熱視線

午前、「本の雑誌」定期購読者向けのラベル貼り「ハリハリ」に勤しむ。

午後、新たな単行本作りのため編集担当のAISAの小林さんと池袋の某事務所へ。2時間半ほどインタビュー。あまりの奥深さにインタビューが盛り上がる。この本、面白くなると確信する。

夜、古書現世の向井さん、『美しい人 佐多稲子の昭和』を上梓された佐久間文子さん、坪内祐三さんの教え子であるTさんと新大久保の「サムスンネ」で新年会。

店に入るなり向井さんから「ママの言うとおりにしてください。皿ひとつ動かしてはダメです」と教えられ、ママのおすすめ通り料理を注文する。

やってきたのは合鴨肉の焼肉で、それはそれでいいのだけれど、肉汁滴る焼き肉を千枚漬けのような大根で挟んで食べよというのだった。偏食の私も焼肉は大好物だけれど、漬物、特に大根の漬物は鼻をつまんでも近づけない代物だった。

ママさんはひとつずつ肉をとりわけ、大根を手にするよう命令を下す。向井さん、佐久間さん、Tさんと順々に大根に箸を伸ばし、そこに肉を乗せ、口に運ぶ。「美味しい」という言葉に大満足のママさんなのだが、その視線は箸を伸ばさない私に向いているのだった。

ここは我慢比べである。将棋大会の現場であるかのように、脳内で「10秒、5秒...」とカウントが聞こえてくる。

肉にもママさんの熱視線にも気付かぬふりをして、私はガブガブと酒を飲む。

あきらめたママさんが次の肉を焼くために動いた瞬間に、肉だけを私は口に放り込んだ。美味。

2月5日(水)初歩的なミス

朝、オンラインで対談収録。

昼、地方小出版流通センターさんを訪問。怪我でお休みしていたKさんが復帰されており、久しぶりの対面。ランチもともにしてさらにお話しようと思っているところに電話あり、昨日送ったデータに不備があるとの指摘に慌てて会社に戻ることに。データを作り直して再送。初歩的なミスが出ているのは忙しさのせいだろう。

夜、久しぶりに早く帰宅すると、同居する義母から、「つぐさん、全然休んでないけど大丈夫?」と心配される。全然休んでいたいどころか、2月10日からは土日祝日全出勤で19連勤なのだった。

2月4日(火)本はひとりで作れない

午後、読売新聞の記者が『本を売る技術』の矢部潤子さんを取材するというので立ち会い。なんで今更?と思ったら、書店に関する特集連載を企画しているそう(後日、読売新聞社は講談社とともに「書店活性化へ向けた共同提言」を発表)。

夕方、デザイナーの松本さん来社。『酒場とコロナ』の色校を確認していただく。その最中、この装丁に行き着いた話を伺い、その読み込みの深さに胸熱くする。やはり本はひとりで作れないと実感。

2月3日(月)増島拓哉『路、爆ぜる』

  • 路、爆ぜる
  • 『路、爆ぜる』
    増島 拓哉
    集英社
    2,420円(税込)
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  • 闇夜の底で踊れ (集英社文庫)
  • 『闇夜の底で踊れ (集英社文庫)』
    増島 拓哉
    集英社
    814円(税込)
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  • トラッシュ (集英社文庫)
  • 『トラッシュ (集英社文庫)』
    増島 拓哉
    集英社
    836円(税込)
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増島拓哉『路、爆ぜる』(集英社)読了。大阪のグリ下を舞台にした強烈な犯罪小説にして、アンダーグラウンドストーリーノベル。なのに物語の後半では涙があふれて止まらなくなってしまった。

著者は小説すばる文学賞受賞者で、久しぶりに既刊本をすべて読みたくなる作家に出会え、うれしくなる。とりあえず『闇夜の底で踊れ』と『トラッシュ』を買いに走らねば。

母親を介護施設に送り出し、春日部の実家から出社。

おかげで10時スタートの大切なオンライン会議に参加できず。

先日はとある書店さんからブックイベントにお誘いいただいたのだけれど、それも土日開催で母親の介護があるため、参加を見送らざる得なかった。

不自由な状況にふつふつと憤りを覚えるが、こればかりは仕方ないと諦める。

二〇二五年本屋大賞ノミネート作品発表。

2月2日(日)採用

「本当に入っちゃったね」

息子から届いたLINEの文字を読んで妻がつぶやいた。

27年前も妻がそんな言葉を漏らした記憶が蘇る。27年前、私は憧れていた椎名誠さんが興した会社に採用された。27年後、息子が憧れていたサッカークラブに採用された。

去年の夏頃だろうか。息子は専門学校を卒業してからのことを話し出した。

多くの生徒は各地のJリーグクラブに就職していく。自分もサッカークラブで働きたいが、どうしてもひとつのクラブしか思い浮かばない。ただしそこは一般に募集がなく、ある会社を通じての求人しかないらしい。

学校はサッカーの専門学校であり、これまで多くの卒業生をJリーグクラブに輩出してきた。しかし息子が憧れるクラブに就職した人はほとんどおらず、その学校としても最難関の就職先らしかった。

私にできるアドバイスはただひとつだった。それはアドバイスというより心配だったかもしれない。

「人生は長距離走だから何も今そんなにこだわる必要はない。いきなりそのクラブに入ることだけ考えるんじゃなくて、いつかたどりつけるように他のところで経験を積めばいい」

「わかった」と息子は頷きながらもやみくもに就活することはなかった。唯一のその希望先が人事募集を出す会社にインターンに行った。それはもう激暑と呼ばれる日々が過ぎ、上着を羽織る頃だった。クラスの友達は続々と内定を決めていた。

インターン先は週一のアルバイトとしてしか雇用がなく、息子は学校の先生と相談し、ダメ元で希望のクラブにインターンの申し出をした。

返事はなかなか来ず、先生は何度も連絡を入れてくれたらしい。そうしてついにインターンの受け入れが決まった。ただそれは息子が求めていたクラブ内部の仕事ではなく、地域の子供たちにクラブとサッカーを普及する部署だった。もちろん息子は喜んでインターンに向かった。

インターン先では、私と一緒にフットサルをやったことのある元Jリーガーがいて、その人はもちろん他の人たちにもたいそうかわいがられたらしい。

充実の2週間を過ごし、息子のインターンは終わった。憧れのエンブレムを背負いサッカーボールを蹴る夢の時間もそこで終わった。

息子は就職先が決まらないまま専門学校を卒業した。同級生たちはすでにJリーグのクラブで働き出し、サッカーショップでアルバイトをする息子にスパイクの注文をしてきていた。息子はせっせと友達にスパイクを送っていた。

そんなある日、息子の電話が鳴った。相手は憧れのクラブの人だった。人手が足りないので、よれけば来てくれないかという話だった。

ボールは待ち続けた人の前にしか転がってこない。

息子は来週から憧れのクラブで働く。

私にできるアドバイスはひとつだけだった。

「そこに入るのが目標だった人間はそこで終わる」

2月1日(土)姦しい

朝8時、2週間ぶりの週末実家介護のため妻と施設に母親を迎えに行く。

午後、母親の友達がふたり来て、姦しい。

1月31日(金)消息不明

伊野尾書店さんに「本の雑誌」2月号を直納。伊野尾さんと昼食をとりながら、来月行う高野秀行さんの半日書店員イベントの打ち合わせ。

夕方、会社にて高野秀行さんにまたサイン本を作っていただく。100冊。

その後、曙橋のゴールデンバガンにて、高野さんの大学時代の同級生と酒。高野さんは一年生の半ばにインドに行って以降、消息不明の同級生だったらしい。

1月30日(木)ユーチューバー

朝、朝ごはんを食べているところに大竹聡さんから電話。本日入稿の『酒場とコロナ』の原稿で、最後の最後で修正。間に合ってよかった。そしてそのこだわりに胸が熱くなる。よい本になる証。

出社し、入稿の準備。昼に一旦会社を抜けて、ジュンク堂書店池袋本店さんへ。なにやらYouTubeを撮るというので、鴨葱書店の大森さんと一時間ほどペラペラおしゃべりする。

我ながら何をしてるんだろうなあと思わないわけではないが、呼ばれているうちが華というか、ひとつの消費物になる感覚で楽しむ。

夕方、会社に戻り、『酒場とコロナ』の入稿作業。

どんな本も簡単にできるなんてことはなく、さまざまなことを振り返りながら、印刷所へ入稿データを送る。デジタルだけれどアナログ。

1月29日(水)雑談

五日ぶりの出社。デスクワークに勤しんでいると、DrumupのNさんが来社。雑談。その後、書泉のKさん来社。雑談。

丸善丸の内本店さんに『酒を主食とする人々』を50冊直納。

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