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2月6日(木)熱視線

午前、「本の雑誌」定期購読者向けのラベル貼り「ハリハリ」に勤しむ。

午後、新たな単行本作りのため編集担当のAISAの小林さんと池袋の某事務所へ。2時間半ほどインタビュー。あまりの奥深さにインタビューが盛り上がる。この本、面白くなると確信する。

夜、古書現世の向井さん、『美しい人 佐多稲子の昭和』を上梓された佐久間文子さん、坪内祐三さんの教え子であるTさんと新大久保の「サムスンネ」で新年会。

店に入るなり向井さんから「ママの言うとおりにしてください。皿ひとつ動かしてはダメです」と教えられ、ママのおすすめ通り料理を注文する。

やってきたのは合鴨肉の焼肉で、それはそれでいいのだけれど、肉汁滴る焼き肉を千枚漬けのような大根で挟んで食べよというのだった。偏食の私も焼肉は大好物だけれど、漬物、特に大根の漬物は鼻をつまんでも近づけない代物だった。

ママさんはひとつずつ肉をとりわけ、大根を手にするよう命令を下す。向井さん、佐久間さん、Tさんと順々に大根に箸を伸ばし、そこに肉を乗せ、口に運ぶ。「美味しい」という言葉に大満足のママさんなのだが、その視線は箸を伸ばさない私に向いているのだった。

ここは我慢比べである。将棋大会の現場であるかのように、脳内で「10秒、5秒...」とカウントが聞こえてくる。

肉にもママさんの熱視線にも気付かぬふりをして、私はガブガブと酒を飲む。

あきらめたママさんが次の肉を焼くために動いた瞬間に、肉だけを私は口に放り込んだ。美味。

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