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7月27日(日)幻視

本日も35度を超える激暑のため、終日、クーラーの効いた部屋で本を読んで過ごす。

午後、丸善丸の内本店さんから『マンションポエム東京論』の追加注文のメールが届く。ガッツポーズ。明日持っていくことをお返事する。

夕方、外を眺めていた母親が、「あそこに黒い服を着た人がいる」と庭先を指差す。覗いて見るが誰もいない。いるわけがないのだ。

「誰もいないよ」と言っても、「ほら、いるじゃない」と窓を開けて顔を突き出そうとする。

母親に何が見えているのだろうか。

後に検索すると幻視は、レビー小体型認知症の特徴らしい。

7月26日(土)防災無線

2週間ぶりの週末実家介護のため、妻と娘と母親を施設に迎えにいく。

防災無線で熱中症の危険を知らせているため、父親の墓参りも散歩もせず、終日クーラーを効かせた部屋で、ぼんやり過ごす。

7月25日(金)安楽椅子古本屋

江古田に直行し、スッキリ隊出動。積み込み以外はクーラーの効いた室内での作業のため楽ちんの蔵書整理だった。

しかし誰よりも楽ちんだったのは、スッキリイエローこと古書現世の向井さんだ。到着時に大きな身体を揺すってダイニングテーブルの椅子に腰掛けて以来、浜本がテーブルに文庫を運び、向井さんが縛るという一歩も動かず、それどころか立つこともなく、蔵書整理を終えたのだった。名付けて「安楽椅子古本屋」。車椅子の私の母親以上に動かざるごと山の如し。

「帰る時は風のように速く、居眠りする時は林のように静かに、買い取る時は火のように激しく、縛る時は山のように動かない」。向井流古本屋風林火山。

あちこち動いて本を縛っていたスッキリグリーンの立石書店の岡島さんが、「こんな古本屋見たことないよ!」と驚き、呆れていた。

7月24日(水)アドレナリン

日本経済新聞に「マンションはポエムと共に 販売時の広告コピーが映す世相、20年で1600点を収集して分析」と題した大山顕さんの記事が掲載(ネットも配信)され、Amazonからの注文が殺到。久しぶりに血の騒ぐ展開に営業アドレナリンが噴出する。一昨日、重版を決めていた自分を褒め称える。

午後、WEB本の雑誌の新連載「町にはとんかつが必要だ!」の取材のため西小山へ。書き手のキンマサタカ氏がふだん食べている町とんかつを食す。美味。

7月23日(水)本物の営業

夕方、青土社で「読書週間フェア」の打ち合わせ。参加しているのは、みすず書房、白水社、晶文社、創元社、青土社とそうそうたる出版社であり、その中で一社格落ち感拭えず、しかも参加している営業マンがみな大ベテランで、会話の内容が私には日頃触れることのできない業界最前線の話ばかりなのだった。

私もこうした本物の営業になりたかったのだが、いつの間にか出版の端っこでひとりゲリラ戦をしているようなポジションに立ってしまっていた。もう取り返しがつかないので、このポジションでがんばるしかないのだろうが、それでもやはり本物の営業に憧れるのだった。

7月22日(火)『マンションポエム東京論』重版出来

  • マンションポエム東京論
  • 『マンションポエム東京論』
    大山顕
    本の雑誌社
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昨夜、ゆる言語学ラジオの水野氏が『マンションポエム東京論』を「今年ベストはこれになるかもしれない」とXでポストされ、鼓動が激しくなった。今、本の売上に絶大な影響力を持つ人のひとりなのだ。会社に着き、すぐに在庫数を確認し、重版を決断する。

午後、追加注文いただいた「本の雑誌」8月号を持って、丸善丸の内本店さんに向かう。2階の売り場に長蛇の列ができており、なにかと思ったらバムケログッズを購入する列のよう。すごい人気だ。

7月21日(月・祝)城山真一『金沢浅野川雨情』

  • 金沢浅野川雨情
  • 『金沢浅野川雨情』
    城山真一
    光文社
    2,420円(税込)
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ここのところ面白かった本はすぐに読み直すようにしてるのだが、城山真一『金沢浅野川雨情』(光文社)は再読しても傑作との思いがまったく揺らがなかった。それどころか何気ない文章に散りばめられた意図に新たに気づき、2025年は『金沢浅野川雨情』の年になる、と確信した。

装丁のイラストから一見、時代小説と思われるかもしれないが、金沢の茶屋街を舞台に殺人事件の犯人を追う警察小説であり、踊りに隠された謎を解くミステリーでもあり、金沢の文化や風習が魅力的に描かれる連作の大長編。様々な人間ドラマが描かれ、そのひとりひとりの人生が愛おしくなってくる。

その連作の一編一編の中では、水引細工の工房や老舗料亭の料理人、和菓子屋の店主など金沢ならではの人々が登場し、その生活の中のちょっとした行き違いを新聞記者から金沢東部警察署刑事課に転職した小豆沢玲子が解いていく。殺人事件を追う様子はその背景に置かれているのだが、読んでいるうちにそれが前面に出、さらにその奥にさらなる謎が掲示される。最終章の「金沢をどり」の場で一堂が集う瞬間には思わず胸熱くなり、涙があふれてしまった。

金沢の地を舞台とした金沢東部警察署刑事課・小豆沢玲子のシリーズ化を切に希望する。

7月20日(日)BOOK MARKET 2025 2日目

昨夜、BOOK MARKETを1時間早抜けし向かった渋谷のO-EASTでの「ROTH BART BARON」のライブで、後ろに立っていたカップルの男性(推定36歳)が、「これから2時間立ちっぱなしでいられるかな」と不安そうに彼女にこぼしていた。

それを耳にしてふと思ったのだが、私(53歳)は、朝起きて6キロランニングをして、その後、朝ご飯を食べるのに椅子に腰かけた以外、浅草に向かう電車の中も、BOOK MARKET中も、渋谷に移動の際も一度も腰掛けておらず、その日一日の腰掛け時間は朝食の10分のみなのだった。

私がずっとわからないでいるのは、立っていると疲れるのか?ということだ。電車に乗ってもみんな座ろうとするし、サッカースタジアムでも大部分は座って観戦している。おそらく多くの人は座った方が疲労しないから座るのだろうが、私は座っていても立っていてもあんまり差がない気がする。

それ以前に私は「疲れる」というのがよくわからない。疲れるとはどういう状態をさすのだろうか。筋肉が重くなる感じだろうか、それともめがしょぼしょぼする感じだろうか。これまで「疲れたかも」と思ったのは、2時間2チームで交代選手なくフットサルをやったときとランニングを2時間以上したときなのだが、ただあれは疲れたというよりは、サッカーや走るのに飽きた感じだった。

BOOK MARKET2日目も立ちっぱなしで過ごす。

7月19日(土)BOOK MARKET 2025 初日

BOOK MARKET開催。開店から多くの人がつめかけてくる。すごい熱気。本の雑誌社のブースにもたくさんの人がやってきてくださる。

『マンションポエム東京論』や『酒を主食とする人々』を手に取られる方が多く、つい「めっちゃおもしろいですよ!」と声をかけてしまう。そうするとみなさん購入してくださる。

結局われわれは、「めっちゃおもしろいですよ!」と商売でなく心の底から言える本や雑誌を作り続けなけれならないということだ。

7月18日(金)本の夏祭り

直行で浅草の台東館に向かい、BOOK MARKETの設営。他の出版社の人たちと体育館のように広いスペースに机や椅子をどんどこ並べていく。

このイベントは出店者も主催者と同じ気持ちになって一緒に作り上げる本のお祭りなのだ。

7月17日(木)オンリーワン

  • 幻獣ムベンベを追え (集英社文庫)
  • 『幻獣ムベンベを追え (集英社文庫)』
    高野 秀行
    集英社
    572円(税込)
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  • 間違う力 (角川新書)
  • 『間違う力 (角川新書)』
    高野 秀行
    KADOKAWA
    880円(税込)
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午後、会社の一角に(といっても全体が一角のような職場なのだが)テレビカメラが持ち込まれ、BSの番組が高野秀行さんのインタビュー収録。テーマはなんとコンゴのテレ湖にいるといわれる未知動物ムベンベ。すなわち高野秀行さんのデビュー作である『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)の話だ。

はじめは笑いながら耳を傾けていたのだが、インタビューしているテレビ局の人はムベンベのことを真剣に知りたいと思って訊いており、そうなると確かに訊く相手は高野さんしかいないのだった。

本を出してから35年以上経っていても、ムベンベを実際に探しにいった日本人はおそらく高野さん以外おらず、しかも高野さんは3回も現地に探索に行き、それを一冊の本にまとめているのだ。

高野さんの隠れた名作というかサイン会をすると「座右の書にしてます」といわれることのある『間違う力』(角川新書)は、当初の単行本版(メディアファクトリー刊)には「オンリーワンになるための10か条」という副題がついていた。そして間違う力の第一条として掲げられているのは、「他人のやらないことは無意味でもやる」だ。

その他人のやらないことをやり続けてきた結果、35年以上経ってもムベンベに関しては第一人者であり、おそらく納豆に関してもソマリランドに関しても誰よりも現地のことを知っているのは高野さんであろう。

ムベンベの話を聞きながら改めてその生き方に尊敬の念を抱いてしまったが、その後の飲み会には遅刻してきて「間違う力」の本領を発揮されているのだった。

7月16日(水)悲しい知らせ

サンブックス浜田山さんに続いて、新栄堂パークタワー店さんの閉店の報が届く。どちらも指折りの名店。

7月15日(火)酒の力

朝から新刊の〆作業に没頭し、午後、見本が届くと同時に各取次店さんにデータ送信。会社を飛び出し、押上の「Miyata Beer」で雑誌の取材を受けている高野秀行さんのところへ合流する。50分遅れ。無念。

インタビュー終了後、法政大学探検部卒業のオーナーが『酒を主食とする人々』を読んで作ったというソルガムビールがタップから注がれ、そのまま編集者、ライター、カメラマンさんと共に飲み会に突入。

気づけば腸内細菌からうんこ、霊能者、税務署の話となり、大笑いの飲み会に。先ほどまで面識のなかった人間が、こんなに笑いあえるというのはまさしく酒の力だ。

7月14日(月)9位

週末実家介護を終え、春日部から出社。

朝、母親に「今度の土日は仕事だから迎えにいけないから」と話すときの罪悪感。あるいは母親が介護施設の車に乗り込み、それを見送るときの胸の痛み。どんなにフタをしても心の隙間から湧き出すのだった。

しかしこれも経験しなければ覚えることのなかった感情だ。きっとこういういろんな感情を経験して、人間は大きくなっていくのだ。

東京古書会館で開催されいている「大阪圭吉展」の店番を抜け出し、2時に小山力也さんがやってくる。『古本屋ツアー・イン・日下三蔵邸』にサインしていただく。

その後、丸善丸の内本店さんに『マンションポエム東京論』30冊を直納する。直納後、ぶらりと店内を徘徊していると、なんと週間ベストセラーランキングのノンフィクション部門9位に、『マンションポエム東京論』が入っているのではないか。うれしい。

7月13日(日)来訪者なし

週末実家介護。

早朝、『断捨離血風録』の書評が掲載された産経新聞をセブンイレブンに買いにいく。

一転して来訪者なく、散歩とお墓参りをして、本を読んで過ごす。

7月12日(土)332歳

週末実家介護。早朝、『マンションポエム東京論』の書評掲載された毎日新聞を買いにいく。涼しい。

母親の友達がぞくぞくとやってきて、気づけば86歳×2+85歳+75歳=332歳に囲まれていた。

7月11日(金)本を買う

  • 爆弾犯の娘
  • 『爆弾犯の娘』
    梶原 阿貴
    ブックマン社
    1,980円(税込)
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  • 今すぐ使える麻雀テクニック136 (近代麻雀戦術シリーズ)
  • 『今すぐ使える麻雀テクニック136 (近代麻雀戦術シリーズ)』
    千羽黒乃
    竹書房
    1,540円(税込)
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    HMV&BOOKS

事務の浜田がお休みのため、終日会社で電話番に勤しむ。

昼、白水社のKさんがやってくる。

午後、サンブックス浜田山の木村さんがやってくる。

夜、日下三蔵さんがやってくる。

太田篤哉さんから「一晩で読んじゃったよ!すごい面白んだよ!!」と電話のあった梶原阿貴『爆弾犯の娘』(ブックマン社) と『今すぐ使える麻雀テクニック136』(竹書房)を丸善お茶の水店さんで買って帰る。

7月10日(木)28年ぶりの麻雀

1184ページの北上次郎『新刊めったくたガイド大大全』を入稿する。人生でこれ以上厚い本を作ることはないだろう。

午後、池袋で『本を売る技術』の矢部潤子さんと打ち合わせ。

夜、雷鳴轟き土砂降りの中、中学・高校の同級生と西日暮里で待ち合わせし、麻雀をする。久しぶりに卓を囲んでいると、この間の28年という年月がまるでなかったかのような錯覚に陥る。

まさかの大敗北で、来月も麻雀することを約束する。

7月9日(水)小説、まだまだいけるじゃん

猛烈な暑さ。体温を超えているような気がする。

汗を滴らせて駒込のBOOKS青いカバさんに「本の雑誌」8月号を納品していると、事務の浜田より定期購読の読者の方から、クール宅急便で「活ホタテ」が届いたと連絡あり、すぐさま会社に戻る。

貝を触ると開いていた口がぴたっと閉じ、まさしく生きたホタテが発泡スチロールの箱に大量に詰められていた。ありがたいかぎり。

そんなところへ新潮社の編集Aさんが来社。「本当に申し訳ないんですけど面白いんで」と櫻田智也『失われた貌』(8月20日発売)のプルーフを差し出してくる。

いまや役職がつきすっかり偉くなってしまったAさんだけれど、この編集者こそが現状の文芸書の売り方(編集者の熱を伝え、プルーフを作り、コメントをもらい、販促をする)の礎を作った編集者なのだった。

そもそもは伊坂幸太郎の『重力ピエロ』に「小説、まだまだいけるじゃん」という帯コピーをつけ、失笑を買ったところからAさんの伝説は始まったのだった。

失笑を買ったものの、書店員さんに熱烈な推薦文とともにゲラを送り、また書店を訪問し直接熱を伝え、売り場とともに「本を売る」ことに初めて取り組んだ編集者だ。

そのAさんは余程の自信がないとこうして売り込みに来ない。『失われた貌』はそれだけの本なのだろう。

プルーフとホタテと交換こする。

7月8日(火)伝える

本日も激暑の中、出社。会社に着いただけで何事か成し遂げた気分に。昨日書店さんに案内したFAX注文書の返りがよく、大変うれしい。

午前中、会議。神保町ブックフェスティバルを盛り上げたいという意見がでるも具体策はないようで、いろいろと話す。要するに2日間のためにどこまで労力と予算を投入するのかという話だ。お金をかけないで面白いものを作るには自分たちが努力しなければならない。というわけで家内制手工業のような企画で、各自手を動かすことにする。

午後、G社のOさんがプルーフをたくさん抱えてやってくる。プルーフが作れて羨ましいと思っていたら、講談社からは以前送られてきていたプルーフの新装版が送られてきてびっくり。プルーフを新装するなんて、さすが出版界の銀河系軍団レアル・音羽だ。



しかし『本を売る技術』で矢部潤子さんも話していたが、PR誌での扱いやこうしたプルーフの様子を見て、出版社がどれだけその作品に力を入れようとしているかを書店員さんは見定めているのだった。そういえばNetGalleyが立ち上がった頃、「あそこにあがっている作品はその出版社がたくさん売ろうとしているんだ」と判断していた書店員さんがいた。

これは売れる本です、我が社が今期、力をいれて売ろうとしている本なんです、というのを伝えていくのが大切なのだ。

7月7日(月)ほかほか

猛烈な暑さの中、定期購読者分の「本の雑誌」8月号が納品となる。ほかほか(本当にあったかい)のできたてをさっそく封筒につめていく。

午後、とある会議を見守り、その後、さくら通りの「げんぱち」で打ち上げ。

7月6日(日)盛田軒

  • ムーア人による報告 (エクス・リブリス)
  • 『ムーア人による報告 (エクス・リブリス)』
    レイラ・ララミ
    白水社
    4,620円(税込)
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    HMV&BOOKS

昼、息子に誘われ、さいたま市北区宮原の元浦和レッズ選手盛田剛平さんが営むラーメン屋「盛田軒」にいく。とり担担を食す。美味。

自宅に帰り、居間のクーラーの風に当たりながら、レイラ・ララミ『ムーア人による報告』(白水社)を読み出すと、これがめっちゃくちゃに面白いのだった。

書店で手にした時、冒険ものだけどノンフィクションじゃないのかとちょっと残念に感じたのだけれど、それは大間違いだった。これは小説だから描ける視点であり、物語なのだった。没頭して読む。

7月5日(土)佐野元春「45周年アニバーサリーツアー」初日

先行抽選に外れまくり、最後の一般発売で娘が即完の間隙をぬって確保してくれた佐野元春&ザ・コヨーテバンドのライブをさいたま市文化センターへ観にいく。

本日初日のツアーは、「45周年アニバーサリー」と銘打たれており、1980年に「アンジェリーナ」でデビューしてから45年経ち、「つまらない大人にはなりたくない」とも歌った佐野元春は、69歳になっているのだった。まったくそうは見えないけれど。

ステージに掲げられた45thという文字を見て、すごいなあと驚嘆していたのだが、よく考えてみたらわが「本の雑誌」は50周年で、佐野元春より5年も長く活動を続けているのだった。

一緒にするなという内なる声が聞こえてくるが、ここは問答無用で一緒にして考えてみたい。

最近私は、あちこちに出かけ本を売っているのだが、そのたびに「本の雑誌」の読者の人が足を運んでくれ、「本の雑誌」はバンドみたいなものなのかもと考えていたところなのだ。

佐野元春と「本の雑誌」はどうしてこんなに長く活動を続けて来られたのか。

もちろん大元には衰えぬ創作意欲がある。いい曲、新しい曲を作りたいという想いがあるから佐野元春はコンスタントにアルバムを発表し続けている。「本の雑誌」も面白い本を紹介したい、面白い雑誌を届けたいという一心で毎号作っている。びっくりされるかもしれないが、私は真剣にそう思っているのだ。「今月も面白かったです」という言葉以上に嬉しい言葉はない。

そうした創作意欲は無くてはならないものだけれど、それと同時に受け止めてくれるリスナーや読者、すなわちお金を出して買ってくれる人がいなければ活動は続けられない。

佐野元春も「本の雑誌」も一応経済活動なので、次のアルバムや号を出せるだけの売上がなければ活動を続けることはできないのだ。

佐野元春はステージ上で45周年を振り返り、「皆様に感謝しています」と頭を下げていたけれど、「本の雑誌」もまったく同じ想いなのだった。

ライブは最高だった。次は佐世保。

7月4日(金)児玉隆也・桑原甲子雄『一銭五厘たちの横丁』

  • 一銭五厘たちの横丁 (ちくま文庫こ-59-1)
  • 『一銭五厘たちの横丁 (ちくま文庫こ-59-1)』
    児玉 隆也
    筑摩書房
    1,100円(税込)
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    HMV&BOOKS

朝、京浜東北線に揺られ、鶯谷を通過したところで読み終えた児玉隆也・桑原甲子雄『一銭五厘たちの横丁』(ちくま文庫)は、すごいルポルタージュだった。

帯に小さな文字で「傑作ルポ」と記されているけれど、そんなささやかなレベルの「傑作」ではない。帯にでかでかと「日本を代表するルポルタージュの傑作」と書くべき作品だ。

昭和18年、太平洋戦争の最中、出征している兵隊、すなわち父や子や兄弟に向けて、日本にいる家族の写真を送るべく台東区の下町に暮らす99の家族はカメラの前に立った。

30年後、その写真のネガを手にした著者は、偶然写り込んだ暖簾の屋号や用水桶の屋号といった人物の背景を頼りに、町を歩き、一軒一軒扉をノックし、写真にうつる氏名不詳の人たちのその後を追う。

元気な人もいる。引っ越してしまった人もいる。戦争から帰ってきた人もいる。しかし、この本一冊でいったい何人の人が死んでるんだ⁈と驚くほど、たくさんの人が亡くなっている。

これは小説ではないのだ。実際に人が死んでいるのだ。

それでも多くの人が淡々と戦争のことを話している。空襲でまつ毛もヒゲも背中も焦がしたことや戦地で飢えをしのぐために軍靴の底皮をスープにしたりネズミを食べたこともなぜか淡々と話す。

最近、私は母親の介護しながら半生を聞き出している。母親は昭和15年の生まれだから一番大きな出来事はやはり戦争のはずで、戦時中の話も当然出てくる。しかし、なぜかとても淡々としているのだ。

母親は東京で生まれ東京で育ったから空襲に遭えば、疎開もしている。長兄は戦争にも行っており、相当の辛酸をなめ苦労をしていると思うのだけれど、お腹が減ったこと以外はほとんど感情もこめず淡々と話すのだった。

著者自身も自分が出会った人たちが淡々と話すことに「〈なんだろうなんだろう〉と首をかしげ続け」「この露地の人びとは、とかくレポーターを喜ばせがちな〝 〟や「 」でくくれる、気のきた言葉を持っていない」と思う。

私もずっとなぜなんだろうと思いながら母親の話を聞いていたのだが、この本を読んでその理由がわかった。わかった瞬間、涙がどっとあふれてきた。

1975年に晶文社から刊行され(津野海太郎さんの編集だ)日本エッセイスト・クラブ賞を受賞し、2000年には岩波現代文庫となり、そして2025年の今年、ちくま文庫から再刊されたこんな大名著を今まで未読だったのが恥ずかしい。しかし恥を忍んで言ってしまおう。

『一銭五厘たちの横丁』は、ルポルタージュの王様だ。

7月3日(木)共同作業

二日ぶりに出社すると、編集の松村と近藤も作品名索引のチェックを終えており、朱字を入れたゲラが集まってくる。

私はもちろんのこと、編集の松村も北上さん(目黒考二)にはたいそうお世話になっており、そもそもの索引に引き出す作家名と作品名そして読み仮名をプログラムを組んで抜き出してくれたのだった。

近藤が入社したのは北上さんの亡くなった後であり面識はないのだけれど、この本の本の雑誌社にとっての重みを感じ、1100ページ以上のゲラを読み、さまざまな確認をしたのだった。

そしてこの大著をレイアウトしてくれているのは元本の雑誌社の社員である金子さんで、金子さんは編集のことはすべて目黒さんから教わったというほどの愛弟子であり、言葉では伝えてこないもの手間のかかるレイアウトはそういう思いを詰め込んでいるのだろう。

もしかすると『新刊めったくたガイド大大全』は、北上次郎さんにとって最後の新刊になるのかもしれない。

おそらくみんなにそんな気持ちがあるからこそ、こうして「手伝いましょうか」という言葉が自然に出て、共同作業で作っているのだ。

7月2日(水)引き続き自宅作業

本日も自宅にて朝4時半から作品名索引と本文の引き合わせ作業に没頭。夕刻、すべて終える。

7月1日(火)自宅作業

4時半起床。走りに行こうかと思ったものの、一日のうちで唯一涼しいと思える早朝の時間帯に、昨日会社から持って帰ってきた『新刊めったくたガイド大大全』の作品名索引の引き合わせをしないと相当効率が落ちるだろうと思い直し、リビングのテーブルにパソコンとゲラを広げ、引き合わせを始める。

ところが6時を過ぎると窓から燦々と日が当たり手元に汗が滲み出す。11時にクーラーをつけ、夕方まで延々と索引と本文を照らし合わせる。

この作業、AIでできそうであり、もしかしたらできるかもしれないのだけれど、その場合、自分は機械に任せるだろうか?と思わず考える。

正確性でいえば機械のほうが間違いがないだろう。しかし、こうしてひとつひとつの作品名を見て、北上さんの原稿を読むということは、本に魂を込めるような作業でもあり、仏像を掘っているようなものなのだった。そうした想いが伝わるものだからこそ、私は本や出版という活動が好きなのである。

それにしても延々とコピペして検索して確認してという作業は退屈であり、やはりこれは機械に任せて、その時間を有効に活用したほうがいいのではと心が揺らぐ。

夜、先日社内でたこ焼きパーティをやったときの残りの角瓶を、「天然水SPARKLINGレモン」で割って飲む。家で飲むハイボールはうまい。井川遥がいなくても、帰らないでいいという安心感が酒をうまくしている気がする。

6月30日(月)作品名索引

猛烈な暑さ。母親を介護施設に送り出し、春日部より出社。それにしても、なんの不満も漏らさず笑顔で手を振って車に乗り込む母親に大感謝である。

週末に終えた著者名索引の修正をゲラに写し、週末のうちに届いていた作品名索引を刷り出す。そのページ数はなんと38ページ。著者名索引の倍ちかくあるではないか。これをひとりで確認していては入稿日に間に合わなくなるだろう。なので編集の松村と近藤に分担してもらう。

午後、営業にでかける。とにかく暑い。身の危険を感じる暑さだ。部活同様、営業も暑さ指数31度を超えたら活動停止したほうがいい。あるいは夕方からの勤務にするか。

書店さんで伺うと、それでも雨の日のよりは売上はいいとのこと。昨今、雨の日はとにかく本が売れないという。

6月29日(日)勉強

週末実家介護。母親がお墓参りに行きたいというので、朝早く父親のお墓へ。それでも暑く、散歩はあきらめすぐ帰宅する。

本日も北上次郎『新刊めったくたガイド大大全』の著者名索引の引き合わせ作業に没頭し、夕方すべてを終える。

首を回して凝りをほぐしていると、母親から「よく勉強するねえ」と言われた。

6月28日(土)猛暑

週末実家介護のため母親を介護施設に迎えにいく。京都出張を挟んでの2週間ぶりとなるが、母親は元気でたいそうご機嫌な様子。

暑くて散歩どころでないので、家にこもる。

終日、北上次郎『新刊めったくたガイド大大全』の著者名索引の引き合わせ作業に没頭。

6月27日(金)たびたび腰が抜ける日

  • 田んぼのまん中の ポツンと神社
  • 『田んぼのまん中の ポツンと神社』
    えぬびい
    飛鳥新社
    2,420円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HMV&BOOKS

昼食を取りがてら、古書会館で行われている「ぐろりや会」を覗くと、本日はたいへん相性が良く、欲しい本がたくさん棚に挿さっているのだった。それらをほくほくと手にしていると、さらにずっと探していた一冊を見つけ、大興奮で結局、昼飯も食わずに会社に戻る。

一冊一冊戦利品を眺めていると、なんとその中の一冊が途轍もない謹呈本で腰が抜ける。あわわわ。これだから古本はやめられない。

午後、信濃八太郎さん及びテレビ局の人と打ち合わせ。話を進めているうちにテレビ局の人のお父さんが出版社勤務とわかり、さらにそれが知人だと判明し、腰が抜ける。今日はよく腰が抜ける日だ。

夜、ジュンク堂書店池袋本店さんにて『マンションポエム東京論』のイベント開催。大山顕さんのトークが大変面白く、あっという間の1時間半だった。

ひと目惚れした『田んぼのまん中のポツンと神社』(えぬぴい著/飛鳥新社)を買って帰る。

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