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8月9日(土)高田晃太郎『ロバのクサツネと歩く日本』

  • ロバのクサツネと歩く日本
  • 『ロバのクサツネと歩く日本』
    高田 晃太郎
    河出書房新社
    1,892円(税込)
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週末実家介護のため、朝、母親を介護施設に迎えにいく。相変わらずの暑さのため、終日見守りという名の読書時間。

高田晃太郎『ロバのクサツネと歩く日本』(河出書房新社)読了。これは令和の『深夜特急』だ。

沢木耕太郎はたしか意味もなく酔狂なことをしたいと一円硬貨までかき集め、アジアからヨーロッパまで陸路で旅したけれど、この高田晃太郎氏は愛するロバを相棒に徒歩で日本を旅していく。もちろん何の役にも立たないし意味もなく酔狂なんだけど(他人から見たら)、ロバを連れて歩いている彼(とクサツネ)に接すると、こんなにも人は優しくなれるのかと驚いてしまう。

たくさんの人が寝場所を案内したり、家に泊めてくれたりする。どうやらそれは親切心だけでなく、ロバのクサツネにみんな癒されているようなのだ。

アニマルセラピーというのは知っていたけれど、あれは長時間心を通わせた動物から受け取るものだと思っていた。けれどどうやら違うようだ。クサツネを見た瞬間にまるで恋に落ちるが如く声をかけ、みんなクサツネから何かを受け取っているようなのだ。100歳のおばあちゃんもクサツネが近寄っただけで、長生きするといいことあるねと喜んでいる。

内澤旬子さんの『カヨと私』(本の雑誌社)や河田桟さんの『くらやみに、馬といる』(カディブックス)のように、ヤギや馬やロバなどの動物には何かしらの力があるだろう。

そうして見えてくるのは、日本の姿だ。本来もっていた日本人の優しさ、あるいは共同体はこういうものだったのではないかと教えられる。さらに各地を歩くことによって過疎に悩む村や耕作放棄された田畑なども目にすることになる。

『深夜特急』が二十代の私を旅に向かわせたように、『ロバのクサツネと歩く日本』は54歳の私を無性に旅に誘う。紀行文の名作がここに誕生した。

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