実践編 第1回 平台の試行錯誤

楽しみ、悩み、走りながら働く書店の店頭からお題を拾ってぼやく「めくるめくめくーるな日々」を、本日、"平台"を取り上げて再開します。
どうぞよろしくお願いします。

今、ワタシたちは平台ひとつにあまり時間をかけていられないのがほんとのところ。
でも、これが本屋の生命線だということも働いているワタシたちは知っています。短い時間でより効果的な平台をつくろうと日々学習、日々実践です。
ということで弟子ヒラヤナギの試行錯誤を追いながら、よりよい平台を一緒に探ります。

弟子ヒラヤナギは、よむよむビバモール埼玉大井店の店長をしています。
このお店は、池袋から東武東上線で30分ほどの最寄駅から更に車で10分、休日には駐車スペースがないほど賑わうショッピングモールの2階にあります。

おおよそ全ジャンル置いていますが、主力はやはり雑誌・コミック・趣味生活書・児童書。新刊も決して十分入荷しているとは言えず、そこはいろいろ店長の工夫のしどころ。

また、弟子の店を訪ねたのは昨年10月下旬から11月にかけてだったのですが、この季節は手帳や家計簿、カレンダー、暦などの季節商品を大量に展開するので、書籍の単行本の新刊・話題書専用として使えるのはエンド台(棚の端についている平台のことです。たいがいその棚に入っているジャンルの本が平積みになっています)1台のみ。この120㎝×120㎝に、売上を睨みながら毎日商品を入替えます。

弟子ヒラヤナギは、雑誌売場で一緒に修業を積み、時折平台の乱れを見てみぬふりをすることはありますが、キレイに積むスキルは抜群。しかし、書籍を、銘柄の力や量、つながりを考えながら美しい平台を作ることは、正直修業の身です。

今回、平台のつくりかたを実践するということで予告しておきました。


第1バージョン
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初めて弟子の店を訪ねたときの平台。教えた通り、オビもスリップも乱れず垂直に積み上がり、一見美しい。でもいくつか気になる点が。

ⅰ)前に立ったお客さまは、平台の本が一度に全て見渡せてよいけれど、奥2列分くらいは手に取れないのでは?見渡して気になった本が取れないのでは意味がない。平台は3列が限度でしょう。店員も、5列目の真ん中ともなると面倒で入替えも遅くなる。
ⅱ)POP類の位置、大きさはこれでよいの?キレイに立ってますが。「~会員募集中」POPは大き過ぎ、奥の見通しがきかない。「くらべる図鑑」POPは後ろの本の邪魔。
ⅲ)スチールのアンコ台(見栄えを良くするための道具です。平積みしたいのに在庫が少ないときなどに使います。ちなみに棚のに差してある本の後ろ側に入れるのはアンコ棒)が丸見え。これは恥ずかしい。ウチは入荷量が少ないの!と威張っているように見えます。
ⅳ)置いてある銘柄が、ジャンル、内容、客層、版型などあまりに混淆。1台しかないとは言え、また諸々オトナの事情もあるのかもと察しはしますが。
ⅴ)ホタテ部分(棚の側面の板のことです。この平台の前に立ったときに正面にくる板のことですね)に面陳しているキムタクは要らない。平台前面一等地にも積んであり、これで十分では?ひとつしかない新刊・話題書台を有効に使おう。

何はともあれ、真っ先に変えなくちゃいけないのは、置く本の向き。
この一方向の置き方を捨て、三方向に積み直そう。

手前側3列、4列目より奥は右側と左側に分ける。右手前に立ったお客さまを、両側の奥に続く棚にうまく誘導したい。店の奥にどんどん入って行ってもらいたいということですね。

ⅰ)からⅴ)まで宿題。すぐやるように。

第2バージョン
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宿題終了とのことで、出来栄えを見に行く。確かに三方向に直してありました。しかし。

ⅰ)このモーゼの海割りのような中心の空白はどうしたことだ。平台に空白があるなんてもったいない。それも一番目立つ場所に。
ⅱ)厚い本を立て掛けて陳列するのは無理。ワタシならこんなに歪んだ木村政彦は買わない。
ⅲ)手前側は2列では貧弱。前に立ったお客さまは、この貧相な印象にがっかりします。せっかくの一等地、手が届く範囲にはきっちり点数を展開しよう。3列で積むこと。

第3バージョンと第4バージョン
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その場ですぐ弟子ヒラヤナギが修正。多少商品の入替えもあり。

ⅰ)まだ海割り名残りがある。お客さまに本の小口をじっくり見せても仕方ないでしょう。
ⅱ)ご贔屓の文庫「ミレニアム」POPは大き過ぎ。自分の身幅を上回るPOPは他の本に失礼です。
ⅲ)少し段階を進めて、今度は銘柄の並びに脈絡を持たせましょう。隣どうしは次々買いたくなるストーリーになっていますか。商品量のかねあいと、銘柄の有機的なつながり、そして売上が折り合ったときこそ書店員の喜び。

これが弟子ヒラヤナギのこれからの修業のキモ。10人が作れば10通りの平台が出来上がるかもしれないけれど、そのときの最善は実はひとつのはずとワタシは信じています。

最終バージョン
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モーゼの海割りは解消。銘柄も、左側がビジネス書や新書などノンフィクション系でまとまり、右側は奥の文芸書につながるようエッセイや小説などの商品群で固められました。

多少のずれはあるけれど、高低もそこそこ山型に作られ、分水嶺もわかりやすくなりました。

脈絡ある並びという点ではまだ言いたいこともあるけれど(好奇心ガールは木村政彦に興味はないんじゃないの、等など)、方針は弟子ヒラヤナギに注入されたと信じて。毎日新刊が入って、入替えるたびに次々新しい脈絡が披露され、そしてその日の最良の平台が提供されていると信じて。まずは完成!