書店員矢部潤子に訊く/第2回 注文について(1)昨日売れたものを注文する

第1話 昨日売れたものを注文する

── 本日はまず重点的に発注のことを伺おうと思ってまして。

矢部 はいはい。

── 基本的に書店というのは何もしなくても、何かしら本は毎日届くわけですよね。委託分や自動発注の補充品や常備など。

矢部 来ますね。

── で、それを捌いていればひとまずお店というのはできないわけではない?

矢部 そうね、できないことはないですね。それがどんな店なのか想像すると、ちょっと気持ちが塞ぐけどね。

── あんまり行きたくはないですね。

矢部 最初に人が入ってきて教えるのは、この間も言ったように、棚にはどんな商品が入っているかという話をします。で、その時に、本には既刊と新刊があって、既刊って言うのは、常備品とか、注文扱いで入ってるのとか、実は条件が色々あるって話をするでしょ。

── はい。

矢部 新刊は、配本という仕組みがあるから黙っていてもある程度は入荷する。既刊は基本的には自分が注文しなければ入ってこない。えーっと自動的に補充品が入ってくる自動発注というのもあるけど、とりあえずそれは今は置いておいて。ま、あまり語りたくないし(笑)。で、その売れた既刊が常備品だったら、それは注文しないといけない。

── そうですね。

矢部 今、常備セットはあまり入れてないかもしれないけど、常備カードが入っていて、常備という条件でお店に並んでいる本は、陳列するという契約があるから注文します。

── はい。

矢部 で、新刊はいちおう入荷する。そして、既刊は自動発注で少し、それに常備品を注文したりでちょっと入る。でも、これだけで棚が埋まるかっていうと埋まらないし、売れる棚に出来るかっていうと難しいわけで、どれだけ売れるもの、売りたいものを日々注文するかっていうことがこれからあなたの仕事ですみたいな話をしますね。で、それは昨日売れたものを今日発注するみたいな単純作業はあるにはあるけど、本当にそれだけでいいのかっていうのを、毎日いろんな材料を吟味して検討していく必要があるわけですね。これから大きな山が来る本だろうからもっと注文しないと! とか、いやいやこれはそろそろ終息気味なので部数は抑えてとか。実際に売上げを作る大きな仕事です。

── 今後の売れ行きを予想し判断していくわけですね。お店に在庫がある以上に売れるのか、売れないのかと。

矢部 例えば今日50点各1冊ずつ入ってきてそれを50冊とも棚に入れるっていうときに、昨日ちょうど棚から50冊売れていればピッタリだけど、実は10冊しか売れてなかったとしたらもう40冊は棚に入らなくなっちゃうよね。

── そうですね。

矢部 逆に10冊しか新刊がなくて昨日50冊売れてたら40冊分は注文しなくちゃいけない、みたいなことになるわけじゃない。競合や環境の変化とかきちんと見て、棚の見直しをしていかないといけないってことはもちろんあるけど、それはそれとして、今、あと40冊分をどうするってことですね。そこに見合った分量をまずは揃えて、なおかつ売れる棚、売りたい棚にするっていうことをしないとね。

── はい。

矢部 まず昨日売れたものを今日注文するっていうのが原則としてあって、でも本当は気がついてないだけでもっと売れる本があるかもしれない。自分が知っている本だけが売れる本なわけではないしね。だから、他のお店を見に行け、耳を澄まして情報を仕入れてって言ってました。

── 自分のお店に届く本だけが、本ではないですものね。

矢部 その通り。で、話はそこまでしておいて、実作業としてはやっぱり今はハンディーターミナルを見るかパソコンを見るのか、私の頃はスリップだったからそれを持たせてね。

── これが昨日売れた分の本ですよっていうことで?

矢部 そうそう。そのスリップの束を持たせて、これに注文したい数を入れて持って来てと言いました。で、必ず棚に行って在庫をみて、本籍地の棚に1冊差してって。あと5冊あるはずの在庫は、店頭に出ている5冊なのか、倉庫にある5冊なのかとか、最後の1冊ならそれはちゃんと商品として売れる状態なのか、破れたり汚れたりしていないかとかよく見てきてって。

── はい。

矢部 その上で、注文するかしないか、何冊注文するか判断してみてと。

── でも毎日仕事に追われていると50冊新たに入ってきて、50冊その日売れていたら、ああ、超ラッキーって思いますよね?(笑)

矢部 あー、思うんだ?

── えっ、思わないですか? だって50冊空いたところに50冊入ってきたら、ああ、今日の仕事終わったなみたいな気持ちになっちゃうじゃないですか。

矢部 ホントにそう考える人がいるってことに、ずいぶん後になるまで気が付かなかったんだよね(笑)。

── あっ、やっぱりいますよね、そういう人。

矢部 あるとき新人の子に言われました。「これだけ入ってきてるんだから、昨日50冊売れたらその半分ぐらい注文出しとけばいいんじゃないですか」って、そのときは開いた口が塞がらなかった(笑)。

── 本来は50冊売れたなら、それだけ欲しい人がいて売れたってことなんだから改めて発注して、50冊売れてないものを抜かなきゃいけない?

矢部 そういうこと。それに新刊も入ってくるし。だいたい、売れないものは抜かないとダメですね。ただ、売れた本の中には、数年かかってやっと売れましたっていう本もあるかもしれない。あるいは来月、新版が出るっていうのを知っているとか、常備セットが来月入荷するとか。

── それは注文しないでいいと。

矢部 そう。だけど、なんども言っちゃうけど、基本は昨日売れたものは今日発注するというのが原則なのね。今、売れたものを大事にするっていうか、それを買った人がいるってことは次もいるかもしれない、そういう可能性を捨てることに意味はない。実は昨日ブームは終わっていたとかそういうことはあるかもしれないけど、でも、あなたが注文を止めるのはまだ早いと。そこはとりあえず注文してって言いました。

── はい。

矢部 でも得てして発注しないよ、みんな。

── そんな気がしてました(笑)。

矢部 注文自体は1冊って注文短冊に書いたり、パソコンでポチポチすれば済む話なんだけど、本が届いたときってすごく仕事になるわけですよ。これを棚に入れなきゃいけないんだって。しかもその本を棚に差すためには他の本を抜かなきゃいけないから、注文しないより3倍くらい仕事があるわけ。手だけじゃなくて頭も使わなきゃいけなくて、そう思うと、せっかく売れたんだからもういいやってことになるわけね。

── 人はどうしても楽なほうに流れがちですもんね。

矢部 早く帰れるってね(笑)。

── でもそれをやっていたら、やっぱり売上っていうのは落ちるんでしょうか。

矢部 落ちるでしょうね。

── お店には売れてない本ばかりになるわけですもんね。

矢部 そう! だってさ、今までお店で一度も売れたことのない棚がこちらですってことになるわけでしょ? 新刊はありますよ、新刊はあるんだけど......。

── 売れ残りの中にちょろっと新刊が混じってるだけで......。

矢部 平台もね、低くなっているのは、当たり前ですけど売れている本ですよね。例えば、30点10冊ずつ積んでる新刊台があって、一点だけ2冊になってたとするでしょ。そしたら8冊売れで、30点中1位の売上げのはずなのに、次に新刊が来たら2冊になったその本を外すわけよ。30点のなかで、いつも売上げ1位の本だけが外されることになったりして。

── 恐ろしいですね。

矢部 それをやった人には怒りました。というか、「そんなこと本当に考えるの!?」みたいに呆れました。少ない本を外すんじゃなくて、売れない本を外すのは当たり前でしょ? って。

── その人たちにしたら楽なんでしょうね。2冊の本を棚に差して、平台に新しく来た本を並べるほうが。でもそれをやっていたら売上はどんどん下がっていくわけで、そんな人たちにはその手間をどうやって惜しませないようにすればいいんでしょうか?

矢部 そうね、どうしたらいいんだろう(笑)。本当はその手間が楽しいんだけどね。その手間の向こうに楽しい売上げと明るい未来が待っていると思えば! 教える側も妥協せずきちんと一緒にやらないとね。しかし、そもそも本屋というのは何をするのが仕事なのかっていうことがね(笑)。

── 大前提として本を売るところだっていう。お店、なんですよと。

矢部 そうそう。そこに立ち返れば、最優先すべき仕事は自ずとわかってくるはずなんですよね。決まった大きさの中で、できるだけ本をたくさん売るためにはどうしたらいいかと。

聞き手・杉江由次@本の雑誌社

(第2回第2話に続く)


矢部潤子(やべ じゅんこ)
1980年芳林堂書店入社、池袋本店の理工書担当として書店員をスタート。3年後、新所沢店新規開店の求人に応募してパルコブックセンターに転職、新所沢店、吉祥寺店を経て、93年渋谷店に開店から勤務。2000年、渋谷店店長のときにリブロと統合があり、リブロ池袋本店に異動。人文書・理工書、商品部、仕入など担当しながら2015年閉店まで勤務。その後、いろいろあって退社。現在は㈱トゥ・ディファクトで、ハイブリッド書店hontoのコンテンツ作成に携わる。