書店員矢部潤子に訊く/第3回 本を並べる(1)お店のルールをはっきりさせる

第1話 お店のルールをはっきりさせる

── 例えば矢部さんが沿線の小さなお店に異動になったとして、初めにすることは新刊案内送ってくださいとか一回目で講義してもらったように棚整理を全部したりすることなんですか?

矢部 新規オープンのお店じゃないならそのお店なりのローカルルール的なものがあるはずだから、まずそれを学習します。そのなかで、なんか無駄なことしてるんじゃないの的なこととか確認したり、つまんないもののファイルや、集めても仕方がないものとかがあれば、ばすばす捨てますね。最後に異動になったお店は小さい店だったけど、駅前の立地で競合店もなく、とても繁盛していました。ただ、私からみれば処分してもいいものが大量にあって、狭い店を余計圧迫して使いにくくしている感じだった。

── バックヤードもちゃんとありましたよね?

矢部 ありました。事務机もあったんだけど、ドーンと伝票が載っていて机の面が見えなかったし、机も椅子も実は壊れてた(笑)。まあ、きっと座って仕事する時間なんてなかったろうし、何から何まで売り場でやらなくちゃ廻らなかっただろうから、仕方なかったと思うけど。とにかく、古いノベルティや拡材、古い制服、紙類、ディスプレイで使ってた小物とか整理しました。みんなに手伝ってもらって毎日ゴミ袋何個も出してね。普通の仕事をしながらだから結構時間がかかっちゃった。

── その間もお店は開いているし、荷物も届いているわけですもんね。

矢部 でも、最初はレジまわりの見直しね。いろんなものを捨てたり整理したりして、動きに無駄のないように変えていくのね。引出しを開ける手間を2回から1回にするには、とか。棚はまず、お店の一等地を決めて、そこを整理して、次に自分の担当のジャンルの棚に手を入れて、売上構成比の大きいジャンルからとか、みんなが使いにくそうにしている棚からとか、計画をして順々にやっていきました。

── お店の骨格をもう一回再構築する感じなんですね。

矢部 前に話した平台や棚の意味付けもそこで考え直すしね。入り組んでたり、空いてるから置いちゃったみたいなものを全部整理し直して。雑貨も店内に点々とあったんだけど、それも一旦整理しました。

── 最近は雑貨を取り扱う本屋さんが増えてますよね。

矢部 雑貨が難しいのは、終わり時がわからなくてね。売れたなら補充するか、売れてないならやめる。どこかで区切りを付けたいんだけど、在庫が5つになりました、4つになりました、1つになりましたみたいなものをずーっと置いていたりしがち。私は雑貨の経験がないから、あれどうするのかなって実は未だに疑問。

── 買い切り商品の場合が多いし、でも本屋さんは値引きも慣れてないですし。

矢部 本部の担当の人に相談して売れてるところに回しますとか言ってもらってホント助かりました。そうやってスペースを作れば、次に入ってきた本が入れやすくもなるし、整理もされれば売り場の子もある程度わかりやすくなる。お客さまから聞かれたときも、ここだなって見当がつくようになるでしょ。

── お店のルールがはっきりすれば、働くみんなが悩まなくなってどんどん仕事が早く出来るようになるわけですね。

矢部 そうですそうです。それまでは問い合わせにもあっちの棚見たりこっちの棚見たりしないといけない状況だったものが、少なくともこの隣り合った2、3本の棚を探せばいいんだなってわかるようになったりね。小型店はPOSにロケーション(棚の番号)が登録されてなかったりするから。

── 棚を明確にすればそこを探せばいいわけで。

矢部 平台の性格づけもやり直します。例えば、小さいお店でも新刊や話題書を置く場所っていうのは最低限作らないといけないし、フェアが展開できる場所とかもね。とは言ってもそう大きくはないお店だから1ヶ所、2ヶ所あればいいわけね。それに新刊だって1冊、2冊の配本なんだから平台には置けない。だから今月の新刊って書いた2、3段の棚をとりあえず作っちゃう。そうするとお客さまもその棚を見るようになるし、お店の子も新刊を聞かれたら、まずここを探すようになるからね。その他に、季節商品が入ってくるとすごく悩むから、そのときはフェア台を半分使おうとか、なんとなくみんなで決めるわけ。


聞き手:杉江由次@本の雑誌社

(第3回第2話に続く)


矢部潤子(やべ じゅんこ)
1980年芳林堂書店入社、池袋本店の理工書担当として書店員をスタート。3年後、新所沢店新規開店の求人に応募してパルコブックセンターに転職、新所沢店、吉祥寺店を経て、93年渋谷店に開店から勤務。2000年、渋谷店店長のときにリブロと統合があり、リブロ池袋本店に異動。人文書・理工書、商品部、仕入など担当しながら2015年閉店まで勤務。その後、いろいろあって退社。現在は㈱トゥ・ディファクトで、ハイブリッド書店hontoのコンテンツ作成に携わる。