書店員矢部潤子に訊く/第4回 お店を動かす(3)自分で棚を作り直せば効率は爆発的によくなる

第3話 自分で棚を作り直せば効率は爆発的によくなる

── そういった売り場の構成と合わせて配本のランクも上げ下げする必要があるわけですね。

矢部 一度ランクを下げちゃうと上げるのは大変だからね。すぐ上がるかどうかもわからないし、取次も結果的に返品が減るから下げるのは簡単に了承するけど、増やす場合は本当に売れるのかって思うでしょ。

── 確かにそうですね。

矢部 売り場構成も見直し、パターンも見直して入荷数も調整して、それから今度は人員を見直します。まずレジの時間ごと必要最低人数を割り振り、次に、毎日の作業を棚卸しして、そのために必要な人数を時間ごと割り出す。例えば、雑誌の検品と品出しは8時から9時まで何人必要、書籍検品に何人とかね。

── そうやって考えていくんですね。

矢部 こういうことは、今の店舗の方がもっとキッチリできてると思う。でも、人はいつでもギリギリだよ、たぶん。

── ギリギリですよね。もう今、営業なんかで声かけられませんもの。昔に比べて超少人数でお店を回してる感じがします。

矢部 例えばトラブルや事故があったりすると、それで一斉に止まっちゃったりするわけじゃない。レジの記録を調べるからなんてことになると、みんな作業止めて調べなきゃいけないとか。

── そうですね。

矢部 店舗だから、当然お客さま最優先ですよね。レジを守った上で、いろいろ作業するわけだけど、今はここに人を入れることが十分にできていないでしょうね。私が書店員になった当初は、レジに社員が入るってことはほとんどなかったもの。お昼ごはん以外、ずーっと担当の棚の前にいる。

── あっ、そうだったんですか。

矢部 のんびりしてたし裕福だったよね。売れてもいたんだろうし。次に行った書店でも、最初、社員は一日にレジ作業は2、3時間って決まってたんだけど、そのうちにどんどんと増えていきました(笑)。レジに割く時間が多いと、けっこうモメた。この荷物の量を見てみろとかって、繁忙期の児童書担当とか学参担当なんか、頭から湯気出してるからみんなで調整したりね。

── 僕がアルバイトしていたときもそんな感じでした。でも、そうすると今はやっぱり荷物が終わんないよって話になっちゃいますね。

矢部 とりあえずの配架しかできなくなる。

── はじっこから3、4冊がばっと入れて終わりとか。

矢部 そうなると当然、返品も吟味してないから、一番作業量の少ないやり方をするようになっていくんですよね。シリーズ毎ぱっと抜いちゃうとか、電話して返品承諾とる手間が惜しいからフリー入帳の本を返品しちゃったりね。そういえば思い出したけど、平台やフェアを入れ替えた後で、もっと良い並べ方に気が付いちゃうと、「ここを面倒くさがるワタシではない」とかって自分を奮い立たせて泣く泣くやってました(笑)。

── 妥協しないために自分に応援歌歌っていたんですね(笑)。矢部さんのお話を伺ってきてわかったことは、やっぱり人間というのはそう動く理由があって、ダメになっていく理由はダメにしたいわけでもなく、また怠けたいわけでもなくて、ついつい楽な方に流れていっちゃうんですよね。僕自身もそうなんですけど、忙しさからいかにして手間を掛けずに作業するかって考えていると、どうしても楽な方にいっちゃう。その楽なことは決してお店にとって、いやお客さまにとっていいこととは限らない。

矢部 よく考えるべきところとか、手間を掛けるべきところに時間をかけないようにしようと、自分で思っちゃうんだよね。

── とりあえずこれでいいか、って考えがちです。

矢部 本当に今日終わらない荷物は返しちゃおうっていう人がいたんだよね。ああそうか、仕事を残して帰らない方法を考えると最後にはそうなっちゃうのかって驚いたもの。今日余った荷物を棚下ストッカーにドサッとしまって終わりみたいなね。

── 終わらすことが目標になっちゃってるんですね。目的が抜け落ちてしまっている。今、そういう人がいたら、まずどういうアドバイスをあげますか?

矢部 まずは荷物を片付けないといけないから、一緒に納品を終わらせる。で、滞留させない方法を探す。それは配本の話かもしれないし、あるいは棚についてかもしれない。

── 棚をどういうふうにするかってことですか?

矢部 たぶんその子の棚はパンパンなのね。なので、売れていない本や汚損破損本を徹底的に取り除いて、売りたい本と売れそうな本ばかりの棚にします。これでいったんは棚がキレイになり、少し余裕が出たでしょ。同時に、売れているのに棚が少ないんだったら棚を確保しないといけないし、前回話した棚効率のバランスなども見ながら変更していきます。

── そこから見直すべきなんですね。

矢部 前にも話したけど、最初に自分で棚を作りなおすと、どの本が棚に入っているかがわかるようになるでしょ。そうすると単純に棚入れのスピードが上がって、新しい本もいちいちどこに入れればいいのかって考える必要がなくなる。悩まなくなるぶんスピードが上がる部分はあるよね。

── そうなんですか。

矢部 経験から言うと爆発的に速くなると思う。この本がここにある理由が自分で腑に落ちると、俄然早くなります。

── アルバイトで入ってはじめて品出しするときなんか、一冊手にするたびにどこの棚に置けばいんだろうって場所探してましたもんね。

矢部 本持ってずーっとウロウロしてたでしょ。

── はい。手帳に棚の配置をメモして覚えようとしたんですけどやっぱり2、3ヶ月経ってやっと糖尿病の棚はあそこだって頭と体でわかってきて、棚差しが早くなりました。そのスピードっていうのはものすごく大事ですね。

矢部 そうすると、今度は検品する段階とか、仕分けする段階でこれはあそこに入れるものだからって分けておけたりするようになるわけ。

── 台車に積むときにすでに分別ができるわけですね。

矢部 どうしたら納品が早く終わるかってコースを組めるようになる。とにかくなにかしら考えるようになる。

── アマゾンのピッキングのノウハウがどうこうとかって言ってますけど、あんなのもともと考えて作業してる人はやってたんですよね。棚詰めだって差す順番で腕に抱えてましたよね。

矢部 そうそう。上から順番に差せるように、左腕で抱えられるだけ抱えてね。そのコース取りはスリップを見るときも一緒だよね。

── どういうことですか?

矢部 スリップ見るときも棚の前を横に移動していくわけだから、それに合わせて事前に並べ替えておく。そしたら一筆書きで終わるじゃない。全ての作業について、より売るっていう方向に向かって、どれだけ早くやり終えられるかってことを、走りながら考えて続けていないとね。


聞き手:杉江由次@本の雑誌社

(第4回 第4話に続く)


矢部潤子(やべ じゅんこ)
1980年芳林堂書店入社、池袋本店の理工書担当として書店員をスタート。3年後、新所沢店新規開店の求人に応募してパルコブックセンターに転職、新所沢店、吉祥寺店を経て、93年渋谷店に開店から勤務。2000年、渋谷店店長のときにリブロと統合があり、リブロ池袋本店に異動。人文書・理工書、商品部、仕入など担当しながら2015年閉店まで勤務。その後、いろいろあって退社。現在は㈱トゥ・ディファクトで、ハイブリッド書店hontoのコンテンツ作成に携わる。