高樹のぶ子の艶めかしい短編集『トモスイ』

文=東えりか

 小説家とは、どこまで変化を遂げ進化し続けるのだろう。高樹のぶ子の新刊『トモスイ』を読んで、驚きとともに空恐ろしくさえなった。
 本書はアジア10カ国の文学者とともに行った「SIA」(Soaked in Asia)というプロジェクトで高樹が書いた短編小説をまとめた作品で、表題作は今年度の川端康成文学賞を受賞した。
 どこの国とも知れぬ海の上を、好意を抱いた男性と「何か」を釣りに行くところから話は始まる。月明かりの下で釣り上げた「何か」を二人で食べる。ただそれだけの小説なのに艶めかしい。「何か」を食べてみたいし、食べられる「何か」になってもみたい。おへその下がざわざわして落ち着かない。
 アジア各地を舞台にしたそのほかの小説も、強烈なエロスと滅びに向かうタナトスを深く印象付けられる。
 いつまでも美しいこの女性作家を熟女と言ったら叱られるかもしれないが、正に熟しきった南国の果実を味わうように、舌の上で転がしながら読んで欲しい。
(東えりか)

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