【今週はこれを読め! エンタメ編】男の心情が描かれた作品集〜山内マリコ『選んだ孤独はよい孤独』

文=松井ゆかり

  • 選んだ孤独はよい孤独
  • 『選んだ孤独はよい孤独』
    山内マリコ
    河出書房新社
    1,254円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto

 どちらかというと私は"男だから○○""女だから□□"という分け方に関心がなく、"結局は個人差ではないか"と考えているが、そうはいっても男女の違いというものが存在することは理解しているつもりである。以前ある作家による"完全に男子しかいない空間において、異性の目を意識していない彼らがどんなことをしゃべっているかを聞いてみたい"といった内容のエッセイを読んだことがあるけれども、ひとりでも異性が含まれる場においては確かに自分も無意識に話す内容を変えているのかも、と思い至った。

 河出書房新社のサイトによると本書は、「人生にもがく男性たちの、それぞれの抱える孤独を浮かび上がらせる、愛すべき19の物語」。そして、それらを書いているのが女性作家の山内マリコというところがミソだ。作家が描く異性のキャラクターというのは、往々にして「こんな男性(女性)がいるわけない」と言われたりする。私自身も、山内さんが描かれたような男たちがどこまでリアリティのある存在なのかは知りようがない。それでも、それこそ人間にはさまざまな個性があることを考えれば、本書の登場人物たちみたいな男もいるはずだ。著者の生み出した男たちは真剣で、人生に悩み、時に立派であり時にどうしようもない。それは女たちもそうだろう、抱えている問題の種類が異なるにしても。

 19編の短編の中で(3行だけの作品もある)、特に印象に残った作品をあげてみる(ほんとは19編すべてをあげたいくらいだ)。「さよなら国立競技場」の語り手は、「班を作ればリーダーで、新学期には学級委員になり、中学では生徒会長もやった」早川。勉強もスポーツもできる彼は、「スポーツ推薦でサッカーの強豪校に行くか、サッカーは遊びとわりきって進学校に行くかで、ずいぶん悩んだ」後、最終的にサッカーを選んだ。チャラチャラした池田という先輩が中心人物だったふたつ上の代が卒業すると、サッカー部内の空気ががらりと変わった。早川のひとつ上の代には、人望の厚いキャプテンやエースストライカーに鉄壁のキーパーなどの人材が揃っており、本気で全国優勝を目指すチームになったのだ。サッカー部は次々と勝ち進み、ついに最後の試合を迎える。そしてゲームセット。早川はふとあることに気づいてしまった...。大舞台で華々しく活躍できるのは、9回裏2アウト満塁のバッターボックスで「必ず打ってやる」とやる気をみせたり、延長でも決着がつかなかったとき自分から蹴らせてくれと志願したりするような人材である。わたしだったら絶対にいやだ。圧倒的な力量不足は当然として、何よりそんな状況でのしかかってくるプレッシャーに耐えられない。早川はそこまで及び腰でなかったにしても、チームスポーツにおいても波に乗りきれない孤独さを感じる瞬間はある。(次期)キャプテンといえども、それは同じだ。

 しかし、「さよなら〜」に関しては、早川の性別を女子に置き換えたとしても通じる話だといえよう。男ならではの鈍感さや無神経さが際立つのは、「あるカップルの別れの理由」の語り手や「ぼくは仕事ができない」の角岡といったキャラクターたちかと思う。彼らは女の話を聞かないし、聞いても覚えていないし、ほんとうの意味で女を必要としていない。女子たちから「あなたは何もわかってない」と言われがちな男性読者にとってこの2編は必読だと思うが、おそろしいのはこれらの作品を読んでもなお自分のどこが問題なのか理解できない男たちが多そうということだ。

 一方で、私も我が息子たちをこんな風に育ててしまったのではあるまいかと、にわかに心配になってきたところである(もう遅かったらどうしよう)。こういった男ができあがる過程においては、女の意識(家事は女がするべき、結婚したら妻は家庭に入るべき、などなど)というものも少なからず影響している気がする。なるべく男女差別的な見方にとらわれずにいたいと思いながら、まだまだ自分があらゆる先入観や偏見を払拭しきれた人間とはほど遠いことは自覚しているつもりだ。

 それでも本書を読んでいると、確かに男女間の断絶は存在するものの、同じ人間同士歩み寄ることは可能であるに違いないと希望も感じられる。女もつらいし、男もつらい(「ぼくは仕事が〜」の最後の最後など、胸が締めつけられる思いだった)。それでもこうやって、男女どちらにとっても自分の身に引きつけて考えられるよう、文章を書いてくださる作家の存在はありがたい。男性の心情が描かれた作品集だけれども、読みながら何度も「この気持ち、共感できる...!」としみじみしたことか。本書は、歌人の穂村弘さんや、ライターの武田砂鉄さんなど、男性の書き手からも熱い支持が寄せられているらしい。

 山内マリコさんは2008年、短編「16歳はセックスの齢」で第7回女による女のためのR-18文学賞・読者賞を受賞(女による女のためのR-18文学賞の受賞者がそうそうたる顔ぶれであることについては、先週の当コーナーでも触れたばかり。よろしければバックナンバーをお読みになってみてください)。その後2012年に同作を含む短編集『ここは退屈迎えに来て』でデビュー。その他の作品に『アズミ・ハルコは行方不明』『パリ行ったことないの』『メガネと放蕩娘』などがある。山内さんについては、『選んだ孤独はよい孤独』もそうですけど、タイトルセンスが抜群でいらっしゃることにもご注目!

(松井ゆかり)

« 前の記事松井ゆかりTOPバックナンバー次の記事 »